れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

岸本佐知子さんの爆笑エッセイ『ひみつのしつもん』

明るい作品をもう一つ。

翻訳家・岸本佐知子さんはエッセイストとしても有名らしいのですが、お恥ずかしながら全然存じ上げませんでした。

表紙がかわいいな〜とたまたま手にとってパラパラ流し読みした時、目についた一文が下記でした。

五十年以上人間をやっていると、私のようなぼんくらでも、人生の法則、と呼んでいいようなものを一つか二つは見つけたりする。

そのうちの一つは、「人とはウジの話でけっこう盛り上がれる」というものだ。

 

岸本佐知子「人生の法則一および二」『ひみつのしつもん』筑摩書房 2019.10.10)

「ウジ」?!って驚くし、「五十年以上人間をやっていると」という書き出しも好感がもてて、一気に興味が湧きました。

 

自虐かもしれない表現でもいやらしさや嫌味がなく爽やかで、エスプリがきいたユーモアあふれる軽快な文章は、実に不思議で心地よい読後感です。

そして空想力も素晴らしい。エッセイですが、まるでショートショートのような物語的面白さもあります。

岸本さんの翻訳された本も読んでみたいと思いました。

 

先週末、朝方に用事があって眠気を引きずりながらカフェでお茶しつつこの本を読んでいたんですが、あまりに笑えて気だるい朝がすっかり愉快なものになりました。

活字でこれだけ笑わせられるって、本当にすごいです。

これまで同じくらい笑った文章は、夏目漱石吾輩は猫である』と三島由紀夫三島由紀夫レター教室』くらい。

 

とくにめちゃくちゃ笑ったのが下記。

そういえば何年か前のオリンピックで、ハンマー投げ金メダルの選手のドーピング疑惑がもちあがり、メダルを剥奪されたために日本の選手が繰り上げで一位になったことがあった。尿検査の際にカプセルに入れた他人の尿を肛門に隠していたという疑惑だったのだが、その選手の名前はアヌシュさんだった。

オリンピックは嫌いだが、このエピソードだけ、ちょっと好きだ。

 

岸本佐知子「名は体を」同上)

下ネタと言えば下ネタなんですが、面白すぎて他人に教えたくなるレベルの小話でした。名は体を表す例でこのエピソードが浮かぶセンスが最高。

 

このエッセイを読んでいると、難しいことや重苦しいことはとりあえず横に置いて一時休戦したいような気分になりました。

悲しいことや腹の立つ出来事でも、見方を変えるとなんだか可笑しく思えることがあるかもしれない、そんなふうに思わせてくれる力がある文章でした。

笑えるって大事なことです。おわり。