不思議な読後感を味わえる漫画に出会いました。衿沢世衣子『光の箱』。
表紙が可愛くて手に取ったのですが、なかなか味わい深い作品でした。
この世とあの世の狭間の世界に存在するコンビニエンスストアで、
店長とアルバイトのタヒニ(ともに魔)、
事故で死にかけていたところ店長に面接され、魔の刻印を得て一命を取り留めたアルバイトのコクラ(半分人間)、
タヒニが飼い育てるヤミネコ(闇)といった多種族が働いています。
現世で死にかけている人間(の魂?)たちが客としてコンビニを訪れ、買い物したり何かに迷ったりしながら、そのままあの世に行って死ぬか、生き延びて現世に戻るかしています。
すごく不思議な世界観でしたが、コンビニという身近な舞台のおかげで、すっと物語に没入できます。
ブラック企業に27連勤させられて過労死寸前のOLや、
決断力がなくて仕事に追い詰められたサラリーマン、
部活の顧問や父親に暴力を振るわれボロボロになって自ら死ぬことにした女の子たち、
死ぬ直前まで仕事を続け天寿を全うした名俳優、
前科持ちだけど今は慎ましく真面目に働くも同僚に襲われた工場勤務の女性など、
死にかけている人間たちがふらっとコンビニにやってきて、闇に襲われたり不条理な状況に追い込まれてパニックになったり、酒を買ったりタバコを買ったりしながら、ふと大切なことに気づき現世に帰ったり帰らなかったりする。
なんだか夢の中みたいな作品だなぁと思いました。
私がよく見る夢は、現実世界が少し捻れてズレたような世界であることが多いです。
中学の同級生と職場の同僚が同時に出てきたり、持っていないはずの車を飛ばして追っ手から逃げていたり、石田彰と会話してたり、産んでいないはずの子供がいたりします。
目覚めて夢から醒めた後も結構引きずることが多いです。たまに、あまりに現実に近すぎて、夢なのかそうでないのか長い間なかなか判断がつかないような夢もあります。
夢から醒める直前のふわふわした”狭間”の時間が私は好きで、いつも醒めたくないと思うのですが、醒めてしまう。
醒めないままあの世に行けるのはいつなのでしょう。
このコンビニは外は真っ暗闇で人間には何も見えないのですが、特殊な光で周囲を照らしてみると、実は本屋なども存在しているのでした。
「死に際に立ち寄りたいのが
コンビニという人ばかりではないでしょう」
「・・・・・・・・・
オレはコンビニにするかな」
「お待ちしてます」
自分が死に際にお店に立ち寄るならどこがいいかなぁと考えました。
コンビニはいいですね。肉まんとかアイスとかチューハイとかを買うかもしれない。
TSUTAYAみたいな書店もいい。雑誌を立ち読みしたり、漫画を買ったりするかも。
伊勢丹みたいなデパートだと、ちょっとトゥーマッチな気がします。逆にスーパーやドラッグストアもどこか物足りない感じ。
この漫画を読んで、自分は結構コンビニが好きだということに気づきました。
台湾や香港やシンガポールやタイに行った時もかなりの頻度で立ち寄りました。海外のコンビニのローカルなスイーツやドリンクが好きです。
ヨーロッパにはあまりコンビニないですよね。あちらの人は死に際にどんなお店に立ち寄りたいのでしょう。エノテカ(ワインショップ)やカフェとかかな。
東京の夜は明るすぎると言われることがありますが、本当に真っ暗な夜というのは怖いです。本能的に恐怖を感じます。
地方のローカル線に乗るとき、昼間は美しい自然を眺めることができますが、夜は灯りのほとんどない闇の中を走ったりするんですね。その時の寂しくて心許ない気持ちをよく思い出します。
窓の外の真っ暗な闇の中に、ぽつりとコンビニの看板が見えると、すごくほっとします。まさに「光の箱」といった佇まいですよね。
真っ暗闇に呑まれたまま人生を終えるのもそれはそれでアリかもしれませんが、死ぬ間際に電気がまぶしいコンビニに立ち寄れたら、少しは救われた気持ちになるかもしれないと思いました。終わり。