れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

読むのがつらい、でも読みたい『メイドインアビス』

今年の夏アニメでかなり完成度が高い『メイドインアビス』。

続きが気になって先に原作を読みまして、あまりの衝撃に1週間くらい感情が塞ぎこんでしまいました。

隅々まで探索されつくした世界に、唯一残された秘境の大穴『アビス』。どこまで続くとも知れない深く巨大なその縦穴には、奇妙奇怪な生物たちが生息し、今の人類では作りえない貴重な遺物が眠っている。 「アビス」の不可思議に満ちた姿は人々を魅了し、冒険へと駆り立てた。そうして幾度も大穴に挑戦する冒険者たちは、次第に『探窟家』呼ばれるようになっていった。 アビスの縁に築かれた街『オース』に暮らす孤児のリコは、いつか母のような偉大な探窟家になり、アビスの謎を解き明かすことを夢見ていた。そんなある日、リコはアビスを探窟中に、少年の姿をしたロボットを拾い…?

まんがライフWINより)

1巻では、アビスという深さ不明の大穴と、その周りにつくられた街オース、その西区にあるベルチェロ孤児院で暮らす主人公・リコたちについて描かれます。

探窟中に出会った記憶喪失の少年型ロボット・レグと過ごすある日、リコの母であり伝説の探窟家として知られるライザの封書と白笛(伝説級の探窟家のみが所持する特殊な笛)がアビスから上がります。

たった一人のライザの遺族であるリコは、母の白笛を形見として受け取り、封書の閲覧が許されます。

付き添いのレグとともに見に行ったライザの封書には、アビスの6層(行ったら二度と帰ってこられないほどの深層)にいる原生生物のスケッチや、レグにそっくりの謎の人物についての描写がありました。

そしてそれらと別の小さな紙切れに走り書きされた「奈落の底で待つ」というメッセージ。

リコはそのメッセージをちょろまかし、そのすぐ後「アビスの底でお母さんが待っている」と信じて単身アビスの底を目指して旅に出ることにします。

レグも自分が何者であり、どうしてオースまで上がってきたのか、その記憶を取り戻すためにリコと一緒に旅に出ることになります。

 

リコたちが旅立つところも、感動でかなり泣きました。

ナットという男の子(多分リコのことが好き)が健気で可愛いんですよ。

ずっと一緒に過ごしてきた仲間・友達と二度と会えなくなるとわかっていても、リコは奈落の底を目指す気持ちを抑えられないし、そのことをナットたちもよくわかっているんです。

1巻はまだ感動的ないい話、で終われます。

 

2巻はリコたちが2層の監視基地にたどり着き、ライザの師匠でもある白笛・オーゼンに会うところまでが描かれます。

オーゼンは年齢不詳の身長が2メートルを超える大女で、見た目はかなりミステリアスです。

最初、ものすごくオーゼンが怖かったです。

レグもリコもオーゼンにボコボコにされますが、それはオーゼンなりの教育だったのです。

アビスの深層には非常に狡猾で獰猛な原生生物がたくさんいて、そこで生き延びて冒険を進めていけるよう、オーゼンが教育的指導を施してくれました。

オーゼンにボコボコにされたことで、自分たちの弱さや甘さに気づいたリコたちは、訓練を受けます。そしてオーゼンも、「子供騙しは嫌い」と言って持てる知識の全てをリコたちに話してあげます。

2巻の巻末にオーゼンの回想シーンがあり、ライザとの出会いからリコが生まれた時のこと、そしてライザが絶界行(ラストダイブ・二度と戻ってこられない6層以降のアビスの底への旅)に行く前の、ライザとオーゼンの会話が描かれています。

ここは日本漫画史に残る名シーンだと思います。

「リコは 私にとってあまりにも大事なんだ

どんな遺物でも 私の何もかもを払っても足りない

尊いものの積み重ねが今のあの子を生かしている」

(中略)

「なあオーゼン

再びリコが地の底を目指して あんたの前に立ったら

教えてやって欲しいんだ」

「自分が動く死体かもってことをかね?」

「そうだ

どれだけの奇跡が君を動かしてきたのかって事と

その先で待つ 素晴らしい冒険への挑み方を」

「面倒だね 自分でやりな

ま・・・お前さんのとこに送り出すぐらいなら やってやるさ」 

 

3巻は私にとって読むのが一番つらいところでした。

3巻ではリコたちはオーゼンの元を旅立ち、4層まで降ります。

4層で出くわした毒を持つ原生生物にリコが刺され、リコは瀕死に陥ります。

死にそうなリコの様子にうろたえ泣き叫ぶレグの元に、ウサギと人間がミックスされたような容姿の少女・ナナチが現れます。

ナナチのアジトについていき、リコの治療をしてもらう中、レグはナナチから”アビスの呪い”の正体について聞かされ、リコを刺した原生生物への対処法を学びます。

そんな中レグの火葬砲という非常に強力な攻撃法を目の当たりにしたナナチは、レグにある頼みごとをします。

その頼みごととは、ナナチの親友であるミーティを殺すこと。

 

そこからナナチの過去回想が始まるのですが、これがもう、本当に読むのがつらいです。アウシュビッツかそれ以上か、とにかくひどいです。

ナナチは元は貧民街の子供でした。ある日白笛のボンドルドという男の軍団が、貧民街の子供達をそそのかし、彼らをアビスの深層へ連れて行きます。

未知への冒険に夢いっぱいの子供達。そして、そこでナナチはミーティという少女と出逢います。

探窟家に憧れるミーティとナナチは意気投合し親友となりました。

ある日、ミーティがボンドルドに呼ばれどこかに連れて行かれる際、ナナチはボンドルドの心無い一言を盗み聞きします。

ミーティが心配になったナナチは連れて行かれたミーティを追いかけます。

そこで行われていた人体実験で、ミーティとナナチは被験体にされます。

”アビスの呪い”−−−アビス内で下から上に上がる時にかかる上昇負荷と呼ばれるもので、1層では軽い吐き気やめまいで済みますが、4層くらいだと全身から血が流れ、5層では全感覚の喪失やそれに伴う意識混濁が起こり、6層に至っては人間性の喪失や死に至ります。

ボンドルドは呪いの克服のためにならずものや貧民街の子供を被験体に、5層〜6層にかけての自身の箱庭で非人道的な実験を繰り返していたのです。

ミーティとナナチはそれぞれ大きい試験管のような入れ物に入れられ、6層まで下ろされます。

この特殊な装置は、片方にかかる呪いをもう片方に押し付けるというもので、ミーティは呪いを押し付けられる側、そしてナナチは呪いを押し付ける側に入れられていました。

装置が5層に引き戻される時、ミーティは全身に激しい痛みが走り、人間の形を保てなくなり体が崩れ落ちてぐちゃぐちゃになります。

「いたい、ころして」と叫びながら崩壊するミーティを間近で見ながら、ナナチの体からはウサギのような耳が生え体毛が生え尻尾が生え、現在のようなウサギと人間のミックスされたような見た目になりました。

自意識も記憶もそのまま保って戻って来たナナチは「祝福の子」としてボンドルドに賞賛されますが、化け物になったミーティは二重の呪いを受け、すり潰されても死ねない、意思の疎通もはかれない生き物になってしまいました。

ボンドルドが怖くて彼の実験をしばらく手伝っていたナナチでしたが、ついに耐え切れず化け物になったミーティを連れて4層に逃げ出しました。

 

この実験が、未だにトラウマです。初めて読んだ時、怖くてショックすぎて何もできませんでした。

ナナチはミーティの尊厳を取り戻すためあらゆる方法を試みますが、苦しむものの死ねないミーティ。そしてそこに現れたレグたちと、レグの驚異的な破壊力を持つ火葬砲。

すがるような気持ちでナナチはレグに「ミーティを殺してくれ」と頼むのでした。

迷ったレグですが、リコを助けてもらった恩と、ナナチの苦しみを理解した上で、ミーティが死んだ後も生き続けることを条件に、ミーティを火葬砲で葬ります。

ナナチの苦しみを思うと、今こうして思い出すだけでも涙が出てきます。

 

今までもいろんなアニメや漫画や小説で、マッドサイエンティストのひどい実験というのは出てきました。

彼らは知的好奇心から非人道的な手段に出てしまいますが、別に誰かを苦しめようとしているわけではないんですよね。目的はそこじゃなくて、あくまで目的は自分の知的探究心を満たすことと、ひいてはそこから生まれる発明で世の中をより良いものにすることです。

ボンドルドはとことん外道として描かれているようですが、彼だって子供たちを苦しめようとしているわけではない。ただ、必要な犠牲くらいにしか思っていないだけです。

4巻以降でさらに詳しく描かれますが、ボンドルドは実験で使った子供達をみんなちゃんと覚えているんですよね。名前も、どんな子供で何が好きだったか、一人一人覚えている。実験のために切り刻んでバラバラにしたり、ミーティみたいにぐちゃぐちゃの化け物みたいにした子供達のことも、どれが誰でどういう子かいちいち覚えているんです。

でも、だから余計に苦しい、悲しいと感じるのかもしれないと思いました。

あまりにやるせない気持ちになるのです。

 

この作品は一貫して”何かの犠牲の上に成り立つ命”が描かれている気がしました。

最新刊の6巻ももうすぐ出るようで、きっとまだまだつらい展開が待っているのでしょう。

けれど、主人公のリコを始め、アビスで生きてく探窟家たちは皆とてもタフです。

自分の命が常にいろんなものの苦しみや悲しみの上に成り立っていることをちゃんとわかっていて、その上で先に進もうとしています。

精神的にも体力的にもつらいアビスの中で、汚いものも痛いものも臭いものも信じられないくらいつらいことも山ほど味わい、それでも奈落の底を目指して潜ることをやめないリコたちは、本当に強いなと思います。

ここまで諦めない何かを見つけられる人生って、本当に羨ましいと思います。

 

書いていて思い出しましたが、ボンドルドの娘・プルシュカの生い立ちで、似たようなことを思った描写がありました。

プルシュカはボンドルドの手下か誰かの子供で詳しくはわかりませんが、”運び損じ”扱いされ呪いのせいでひどい精神崩壊を起こしており、再起不能に思われました。

しかしボンドルドは彼女を自分の娘とし、育てることにします。

喜びしか知らぬ者から祈りは生まれません

生を呪う苦しみの子・・・

君にしかできないことが必ずあります

君の名はプルシュカ 夜明けの花を意味する言葉です

パパです 私がパパですよ 

投薬もうまくいかないプルシュカに、ある日ペットとしてメイナストイリムというふわふわした生き物を与えるボンドルド。世界の全てを拒絶していたプルシュカが、初めて興味を示し心を開きます。

プルシュカ・・・好きなものが出来たのですね

プルシュカ たった今から 君の世界は変わってゆきます

生のすべてを呪っていた君が 最初の喜びを見つけたのです

これからの一歩一歩が君を創ってゆくでしょう

今日が君の誕生日 君の冒険の始まりです 

ああそうか、好きなものが出来てから人生というものは始まるのだと妙に納得しました。

恋愛もそういう表現されますよね。「君を好きになって世界が変わった」とかそういう。

冒険も旅も、好きなものから始まるのかもしれません。

好きなもの、喜び、私が見つけた最初の喜びって何だったか、思い出せないです。

思い出したいなぁ。そうしたら、今抱えている閉塞感を突破できそうな気がします。おわり。