れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

何者かであることと夢と仕事:『Sketchy』

ガールズスケーター漫画『Sketchy』の5巻にうんうん頷きました。

アラサーのレンタルショップ社員・川澄憧子がスケートボードと出会い、それをきっかけに人生が変わっていく様子を描いたヒューマンドラマです。

5巻では憧子が勤めていたレンタルショップの閉店が決まったり、長年付き合った彼氏と別れたり、ずっと練習してたスケボーの技・オーリーができるようになったりと、憧子の感情の振れ幅が結構ありました。
 
印象に残った場面の一つが、憧子が職場の閉店が決まったことを彼氏に話した場面。
「・・・・え なんだ よかったじゃん
これで辞められるじゃん」
・・・・そんな 辞めたいみたいなふうに言わないで」
「うーん・・・・でも 一生続けてく仕事なの?
アコちゃんの代わりになる人沢山いる仕事でしょ?
同級生たちに劣等感感じてるんでしょ?」
「そんなの・・・・っ感じてない!
勝手に決めつけないで!
何者かであることがエライだなんて思わないで
何者じゃなくても私は毎日満足してる・・・・
怜君だって“自己実現の鬼”なんて言ってるけど
理想を語るだけで何も実現してないじゃん!
・・・・
・・・・」
・・・・ごめん 言いすぎた」
 
(マキヒロチ『Sketchy(5)』ヤンマガKCスペシャル 2022.2.18)
自己実現の鬼”とか標榜しちゃう彼氏も痛々しいけど、そんな彼が言うことも結構的を射ていますよね。憧子も図星だったからムキになって言いすぎたんだと思いました。
 
こんなことを言うと元も子もないですが、“代わりになる人沢山いる仕事”じゃない仕事なんて、世の中にありますかね?
『恋物語 ひたぎエンド』で貝木泥舟が言っていたように、かけがえのない・かわりのないものなんかないと私は思っています。
いくら高度だろうがクリエイティブだろうが、自己実現の結晶だろうが、代わりのない仕事なんてないんじゃないですかね。彼氏の怜君は仕事というものを神格化しすぎな気がします。
 
一方で、「何者じゃなくても毎日満足してる」という憧子も本当はそんなに満足してないんですよね。
前述の彼氏と別れた後、定期的に集まる学生時代の同級生同士の女子会にて、憧子が本音を吐露する場面でそれが垣間見れます。
・・・・いや 別れた」
「え!!  いつ?なんで教えてくんなかったかったの!?」
「うーん・・わざわざ報告することでもないし
別れた上に 仕事もなくなった」
「えぇ!? 大丈夫?最悪じゃん!!
彼は置いといて どうすんの仕事!? もう決まってんの!?」
「決まってない やりたい仕事なんかないし
結婚もできないしお金も大してないし
趣味も全然 上達しないし
・・・・みんなといるとボンヤリする やりたいこと欲しい物だらけでさ
中学から一緒なのに 私は みんなと全然違う
呼ばれりゃ行くけどさ 年々 溝が深く感じる」
 
(同上)
共感だわ〜と言いながら読んでました。
憧子はスケートボードという趣味があり、それがこの物語の軸にもなるのでまだ救いがありますが、私にはそんな打ち込める趣味もありません。
それでもってやりたい仕事もなく結婚もできずお金もないわけで、そりゃボンヤリするしかないでしょって感じです。
 
憧子は学生時代から映画を観るのがとても好きだった描写がありました。その流れもあって入社したレンタルショップでしたが、サブスクの波に押されて店舗は閉店、あとには何も残らず、憧子の心にはポッカリ穴が空いたようでした。
でもその後、スケボーでずっとできなかったオーリーという技を決めることができた憧子は、長年得られなかった成功体験と達成感を手にして、人生をあらためて前に進める決意をするのでした。
 
こういう、挑戦したり達成したりできる趣味っていいなぁと思いました。
私の趣味といえばアニメ鑑賞や漫画などの読書、一昔前では乙女ゲームに旅行などでしたが、どれも受身の趣味でこれといった挑戦もないし達成感もないんですよね。
日本全国鉄道乗り潰しをしていた頃は少し挑戦してる感もありましたが、47都道府県を制覇したあとは目標を見失ったような心持ちでした。
 
じゃあ仕事で何か挑戦すればと思われるかもしれませんが、クソつまらんと思ってる仕事にそんな気力はまったく湧きません。
そもそも社会人になって約10年、いかに自分が働くのが嫌いか骨身に染みつづけてきたのです。自分の嫌いなことで達成感を得ようなんてどだい無理な話でしょう。
 
話は飛びますが、先日3年ぶりくらいに叔母に会う機会があり、いとこをはじめ親戚一同の近況報告を受けました。
ワクチン接種による体調不良と仮病を使い仕事をサボりまくったいとこAや、運よくコネ入社できたが仕事がろくにできなくて毎日愚痴ばかり言ってるいとこBなど、みんな私と同じくらい働くの嫌いで笑いました。
私のハハも叔母たちも仕事は必要悪という感じの人たちだったので、その影響をしっかり受け継いでしまったのか、親戚はみんなうだつの上がらないサラリーマンばかりのようです。
 
そんなダメリーマンたちの話を聞いて、私はなんとなくほっとしてしまいました。
私の職場は業績回復の見込みがなく先行きの暗い業界なのに、働いている人たちは皆意識とプライドだけは高くて“やりがい”だの“成長”だのを仕事に求める人たちばかりなんですよね。
そういう、気持ちだけはアツい人たちと仕事をしていると、嫌々仕事をしている自分が悪なのかと思うことがありますが、別に善も悪もないですよね。嫌々でも仕事はしてるんだし。
そりゃあやりがいを持ってキラキラ働くのは素晴らしいことだと思いますが、全ての人がそんなふうに働くことはないし、そんなこと無理だろうと思います。
世の中には私みたいに働くこと自体が好きになれない人間が一定数いるし、それは血液型くらい変えようがないんじゃないかと思いました。
 
***
 
5巻の終盤、憧子はスケボー仲間のアトリエに招かれ、そこで自分の夢を見つけます。
それは、どこか自分の気に入った外国の街でスケボーに乗ること。
新たな夢を見出した憧子の気持ちは少し上向きになりました。
 
私が最後に夢を持っていたのはいつだろうと振り返ると、高1くらいまでだったかなーと思い出されました。その頃は英語か数学の教師になろうと思ってた気がします。
結局その後家庭内のゴタゴタなどがあって夢はなくなり、そのまま今に至ります。
47都道府県全ての鉄道に乗ろうとか、ヨーロッパに行こうとか、地元を離れて暮らそうとか、スモールゴールは叶えてきましたが、憧子の夢のように「それがあるから頑張れる」みたいなレベルの夢や目標はもうずっと持っていません。もう持てる気もしないです。
でも、夢や希望のない人生って本当に生き続けるのがしんどいんですよね。なんかいつも同じこと言ってますね、私。
 
夢ってどうやって見つけるのか、それは結局この漫画を読んでもわかりません。スケボーなんてしたら絶対コケて骨折とかする自信があるのでやりたくないし。
まあそれは置いといて、マキヒロチさんの漫画はどれも現代の等身大の大人を描いた作品で、共感できる部分が多いのでおすすめです。おわり。