寒くなってくると初期のRadioheadを聴いたり自殺志願者の掲示板を見たり、なぜか暗いものに惹かれるんですよね。いや、年中惹かれてますけど。
そんなおり、漫画『少年のアビス』を読みました。暗い、けど、めっちゃ面白いです。
あらすじは以下。
高校生の黒瀬令児は、看護助手の母、引きこもりの兄、認知症の祖母との4人で何もない地方の町で暮らしていた。苦労している母親の手助けをするために、大学に進学せずに就職することを希望していた令児は、自分の住む町を出たいと心の底では願いつつも半ば諦めて、自分が町に縛られていることを理解しながら漠然と日々を過ごしていた。
しかし、ある日ふとしたきっかけで、令児の好きなアイドルグループ「アクリル」のメンバーの青江ナギと知り合い、親しくなる。令児は身の上の話をしながら、ナギからの頼みで町を案内するが、彼女は町の自殺の名所である「情死ヶ淵」を話題に出し、「私たちも今から心中しようか」と持ちかける。
(Wikipediaより)
閉塞感たっぷりの田舎で、これだけ逃げ場がなかったら、死にたくなるのは全然不思議ではないです。
でもそんな中で、殺しても死ななそうなくらい、仄暗い情熱を感じさせる登場人物がいます。
それが主人公・令児の母・夕子です。
物語が進むにつれ、彼女にどんどん魅了されていきました。
夕子も令児と同じく生まれた時からこの閉鎖的な町で生きていますが、彼女は女性であり、また、とても美しい少女でした。
そして令児と同じく(もしくはそれ以上に)家庭環境に恵まれず、思春期を迎え一際可憐になった夕子は、親の命令で母の勤めるスナックの2階で売春させられていました。
けれども、夕子からはあまり悲壮感は感じないんですよね。彼女はつとめて明るく、ボーイフレンドに「この町で結婚して子供を産む」と宣言しているんです。
なんで?????????????って到底理解できないんですが、でも彼女は本当にこの町で生き続けて、宣言通り令児という子供を産んで育てたのです。そして夕子が令児に向ける感情は、親の愛情というにはかなり歪で、しかし非常に強力な執念を感じるものです。
令児に降りかかる不幸も、彼の幼なじみたちや担任教師などの周囲の人間たちが直面する悲劇も、全ては連なりあい、絡まり合っているようで、この狭い町のなかで数々の思惑や憎しみや悲しみや不幸がグツグツと煮詰まっているような、そんな物語だと思いました。
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私は地元の街を出て、4年が過ぎました。まだそんなもんか、って感じですが、遠い昔のようにも思います。
今も在来線で日帰りできるくらい近いと言えば近いんですけどね。
私の地元も内陸のど田舎ですが、令児たちの町と違って東京が案外近い関東平野に位置していたので、令児の幼馴染のチャコちゃんのような「とにかく東京に出たい!!」みたいな強い気持ちが生まれにくかったです。電車ですぐ遊びにいける場所だったので。
でもその半端な距離感が、かえってフットワークを重くさせたのかもしれないとも思います。なんとなくここは嫌だけど、かといってすごく逃げたい場所があるわけでもないような。
それに、夕子の生き様を読んだら、詰まるところ同じ場所で生き続けようが、遠くへ逃げようが、一生自分は自分でしかいられないし、それと人生の幸・不幸は別の問題だとも感じました。
むしろ、「この町で一生生きていく」と腹を決めた人間の迫力に気圧されたとも言えます。
だって、それって自分から退路を断つ行為ですよね。
私のように、中途半端に逃げたいのかそうでもないのかわからないフラフラした人間には到底想像できないような、強い精神力がないとできない決断です。
夕子のようになりたいわけではないですが、やはり彼女はすごいな、と尊敬の念すら抱きました。
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もう一つこの漫画を読んで強く感じたのは、人間関係のダイナミックさです。
この狭い町でこれだけ多彩な悲劇が折り重なるのは、登場人物それぞれが関わり合い、傷つけあうからに他なりません。
一人でひっそりと生きていれば、同じく不幸に見舞われるとしても、ここまで複雑怪奇な悲劇は起きないと思います。
なのにこの漫画の登場人物は、みんな誰かに干渉し、干渉され、言葉を交わし、感情や劣情を互いにぶつけ合っています。だから次々と悲惨な状況になって、それが全然終わらない。
当人たちは非常に苦しいでしょうし、自分だったら絶対御免被りたいですが、でもだからこそ物語として極めて面白いのです。
そして、それは時に不可抗力であることもわかります。
夕子のあの可憐な少女時代を見たら、恋に落ちない青少年はいないと思えます。
関わったらまずいと本能的に感じたとしても、抗えない魅力を持つ人間というのが世の中には確実に存在するんですね。そしてまた悲劇が起きる・・・人間って本当に面白いなぁと思いました。
でも翻って、やっぱり私は一人で静かに生きたいとも思いました。
最近仕事でもそれ以外でも他人と話す機会が重なって、私の精神のバランスは完全に破壊されていると感じます。
一人で退屈ながら穏やかな日々を過ごしていたのに、一体どうやったらその頃の状態に戻れるのか、皆目見当がつきません。
毎日不眠で自律神経もズタズタです(これは元からかも)・・・。
別に大きな幸せなんていらないので、小さく穏やかに過ごしたい、ダイナミックな人間模様は物語の中だけでいいと強く思ったのでした。おわり。