このブログで何度か池辺葵さんの漫画について書いていますが、現在連載中の『ブランチライン』もとても印象深い素晴らしい作品だと思います。
あらすじは以下。
4姉妹と母。女たちが抱く罪悪感と宝物。
アパレル通販会社で働く4姉妹の末っ子・仁衣。
喫茶店を営む三女・茉子。
役所勤務の次女・太重。
シングルマザーの長女・イチ。
そして、実家を一人で守る母。
今はそれぞれ離れて暮らしているが、
女5人で育てた長女の息子・岳は
皆にとっての宝物だ。
けれど、岳にとっての女たちは、
いつも正義であっただろうかーー?
あなたにもきっと、思い当たる感情がある。
だからこそ、この物語はあなたの呼吸をふっと軽くする。
池辺葵が紡ぐ様々な世代の女たちと家族のあり方について。
(pixivコミック作品サイトより)
池辺さんの作品に出てくる人たちって、みんな他人との距離感が絶妙だなぁと思います。
『ブランチライン』は家族を中心に描かれていますが、こんなバランスの取れた家族って実際どれくらいいるんですかね。というか存在するかなぁ。
私は一人っ子で両親も離婚していて、家族というにはだいぶ散り散りになっていますが、
ハハは三姉妹の次女で長男である弟も含め4人兄弟で、彼らの両親(つまり私の祖父母)も健在、つまり現在も家族が機能しています。
還暦間近のハハですが、最近癌がみつかり、現在入院中とのこと。
離れて暮らしていてろくに連絡も寄越さない薄情な一人娘の代わりに、入院の手続きなど面倒を見てくれているのは7歳下の妹(私の叔母)です。
昔から軽口を叩き合っている姉妹たちでしたが、みんなそれなりの高齢者になってあちこち身体にガタがきている中、こまめに連絡を取り合っては助け合っている様子で、私はものすごく助かっています。
これだけ書くと、ハハの家族もこの漫画の4姉妹のように、付かず離れず、けれど相手をきちんと尊重している家族のように思えるかもしれません。
しかし、実際はもっと泥臭くて後ろ暗い、恨みとか諦めとか意地の悪い感情もたくさん持ち合わせているよなーと私は考えています。
だから、助け合ってくれてて有難いんだけど、彼らを見ていてもこの漫画を読んだ後のようなほっこりした気持ちには全然ならないです。
いったい何が違うのかなぁと考えると違いは明白。
ハハ含め私の親戚一同には無くて、この作品の家族・八条寺家にあるもの、それは『自尊感情』です。
八条寺家には卑屈な人が全然いません。各々バラバラな性格でも、みんな自分を大切にしていて、だから親でも兄弟でも、他人を敬うことも当たり前にできています。
ハハの家族は(そして私もその血を受け継いでしまっている)、祖母を筆頭にみんな自尊感情が低くて卑屈です。彼らが幼い頃の昔話を聞いても、成人してからの思い出話を聞いても、成功体験が全くない。
誰も経済的に成功していないのはもちろん、伯母は2回離婚してて叔母も離婚はしていないが自分の旦那が大嫌いな人です。いとこABも子供の頃や若いうちは愛されていたかもしれませんが、いい歳になってもパラサイトなままのいとこAは本気で伯母に恨まれてるようです。
仕事も嫌々するしかなく、暖かな家庭も築くことができなかったハハたちは、憎まれ口を叩き合い傷つけ合いながらも、お互い支え合うしか選択肢がないのかもしれません。
それでも、誰もいないよりは100倍マシなのかもしれないですよね。
私がもしハハと同じ状況になったら、助けてくれる兄弟はいないし、もちろん配偶者も子供も友人も恋人もおらず、文字通り一人でどうにかするしかないです。そしてそんなことができるほど、私に気力はすでに無い。
内心気に食わないけれど頼れる血縁者や家族がいた方がいいのか、気に入らない人間に頭を下げるくらいなら孤独でいた方がいいのか。最近流行りの“正解のない問題”ってやつですかね。
まあ、実際選択肢なんてないんですが。
***
今回この漫画の八条寺家と、ハハの姉妹や家族たちを比較してみて、あらためて自尊感情ってとっても大事なんだなぁと実感しました。
池辺さんの作品世界のように、悪者がいないというか、みんな自分と他人を思いやる気持ちが持てるようになるには、ベースに自尊感情が不可欠だと思います。
自分を大事にしていない人間は、結局のところ他人も大事にできないですね。
ハハは一人娘の私が一番大事だと口では言いますが、言われた私はちっとも嬉しくなく、大事に育ててもらったとも思いません。そもそも大事って何ですかね?
なんていうか、自分を大切に思っていない人に、好きだとか大事だとか言われたところで、そもそもズレている気がします。
自尊心のない人に何かしてもらっても、ありがた迷惑だし押し付けがましい感じがします。私に何かしてあげようと思う前に、自分を労れよ、って言いたいです。
・・・なんて、書きながらブーメランで全部自分に返ってくるんですけどね。
30年以上卑屈に生きてきて、成功体験を積むことができなかった大人が自尊感情をうまく抱くことって、かなり至難の業ではないでしょうか。
ましてや60年近く生きてきたハハたちも、90年近く生き延びた祖母たちも、今更どうやって自己肯定感を育めばいいのやら。
死ぬまで自分の人生を嘆き、何かを誰かのせいにしたままっていうのも、なかなかつらいものですね。でもそういう人生も確かにあるのです。
なんかもう、来世に期待としか言えないですね。笑。
いつものように救いのない結論に落ち着いてしまったので、最後に八条寺家長女の息子・岳の大学院の教授の素晴らしい名言を引用しておこうと思います。
「何億 何十億年かけて風化していく石の寿命に比べて 人間の寿命は短い
生きて死ぬだけで十分なのにねー」
生きて死ぬだけで十分だと言われて育ったら、卑屈にならずに済んだでしょうか。おわり。