れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』

あけましておめでとうございます(もう15日ですが)。

昨年末から今年にかけて面白い本に立て続けに出逢い、いろんな思いが帰省ラッシュ東名高速道路くらいの大渋滞を起こしています。

少しずつ噛み締めていきたい、そんな正月。

面白い本渋滞のわりと先頭の方に読んだのが、木下斉『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』でした。

社会派っぽいタイトルですが、小説仕立てになっており、物語としても楽しめました。

 

主人公は三十路を過ぎた独身サラリーマン・瀬戸淳。淳は高校卒業とともに上京し、そのまま東京で働いており、出身は東京から少し離れた地方都市です。

淳の実家は商売をしており、父の他界後母がひとりで切り盛りしていましたが、母が店をたたむ決断をしたことから、店仕舞いの手伝い等で淳はこまめに地元に出入りするようになります。

そんな折に偶然再会した高校の同級生・佐田が、地元でさまざまなビジネスを立ち上げ地域を盛り上げていることを知り、本当に畳んでいいのか迷っていた実家の家屋をビジネスに活かせるかもしれないと考えた淳は、佐田と2人で新たな会社を立ち上げることに。しかし事業を進める中で様々な問題や思惑にぶち当たり・・・といったストーリーです。

 

私も淳の地元と似たような東京から少し離れた地方都市出身なので、衰退していく地元のもの哀しい感じや、田舎にありがちな保守的で閉鎖的な村社会と事なかれ主義な様子などを読んでは「めっちゃわかるわ〜」と共感しきりでした。

私は28歳までほぼ地元で過ごしており、地元の企業で働いてきた経験があります。なかでもマスコミで働いていたときは、他の民間企業よりも"官"との繋がりが濃くて、役所や商工会議所などのイヤ〜な部分もたくさん見てきたので、補助金関係の話は特に「ほんそれ(本当にそれな、その通りだな)感」が一入でした。

 

淳は最終的に東京の会社を辞めて、佐田と立ち上げた事業を軌道に乗せて地元で再び暮らすようになります。なんだかんだ思い入れもあったのかもしれません。

私は28年暮らした地元に対して、大嫌いとは言わないまでも、そこまで好きでもないと思っています。

在来線で東京へ日帰りできるくらいの距離感ですが、考え方や人間関係のあり方はどちらかというと保守的で村社会的な地域でした。他所者には好奇と偏見まみれの目が向けられるし、家父長制と男尊女卑も甚だしくてセクハラも横行してるしで、若くて時代に沿った考えの人々は都会へ流出してしまって、都会への憧れはあるけど飛び出す勇気はない人たちだけが踏みとどまっているような、そんな閉塞感で満ちた街。それが私の地元であり、もしかしたら淳の地元や、他の日本の地方都市も似たようなものなんじゃないかとも思います。

 

何か決定的にイヤなことがあって地元を出たわけではないですが、あのままずっといるのはやっぱり耐えられなかっただろうなと感じます。

その一方で、地元のことを思い返すことがままあります。コロナ禍で数年地元の地を踏みしめていないせいもあるかもしれません。

 

この数年でしみじみ感じるのが、「私は地元に胃袋掴まれてるなー」ということです。

東京にも美味しいお店はたくさんあります。でもまず値段が数段高いし、「これじゃないと!」という決め手に欠ける味が多いのです。

私の地元はローカルグルメが多彩で、安くて美味しい店がいっぱいあります。全国的に有名な老舗カフェや、全国メディアでも取り上げられるレベルのパン屋やレストランもあったりして、とにかく食のレベルが高いです。

その背景には、東京と近いという地理的要因も関係していると思います。

県民は東京が近い分、都会で流行っているグルメにも精通しています。その上で、家賃は東京より圧倒的に安いし、人口や交通量は少なくて自然豊かで空気も水も数段美味いので、いい素材が東京より安く容易に手に入る土壌があります。

だからこそ東京に負けないレベルの味を、東京よりはるかに安く、かつ広くて清潔な店内で提供することが可能なのです。

 

地元を離れてもうすぐ4年が経とうとしていますが、いまだに「〇〇の麻婆豆腐が食べたい」「△△でアフタヌーンティーしたいなぁ」「××の薬膳スープ飲みたい」など、熱望する"あの店のあの味"が多々あります。

また、年に数回ハハが思いついたように地元の果物や特産品を送ってくれる時があるのですが、それを食すたびに「やっぱり地元の食材はレベルが高いな〜」と感じます。

もちろん東京にもそれらは流通しているわけですが、値段が数段上がってしまうし鮮度も落ちます。

 

けれど一方で、今住んでいる街が自分の生まれ故郷だったら、もっと華やかな青春時代を過ごせたんじゃないかと考えを巡らせることもたくさんあります。

様々な展覧会や展示会があちこちの美術館で開催され、マイナーなアーティストの追加公演が急遽開催されたりするライブハウスがあちこちにあり、水は決して綺麗ではないけれど港もビーチも存在する海辺があり、貴重な資料も閲覧できる充実した図書館も書店も山ほどある。街を歩くたびに感じる、都会ならではの文化レベルの高さや街の多様性を目の当たりにするたび、「生まれ変わったらこの街の子供になりたい」とすら感じます。

 

47都道府県やいくつかの海外を旅行して分かったことの一つに、自分は自然豊かな田舎よりも都会の方がはるかに好きだということがあります。

確かに海や川や山のダイナミックな自然も魅力的ではありますが、それらはたまに遭遇するくらいで十分で、長い時間暮らすには静かすぎるし退屈すぎるのでした。

たとえ空気や水が汚くて、謎の湿疹が現れたり精神状態に支障をきたしたりしたとしても、夜真っ暗になって人がいるのかいないのかわからない静かな田舎よりは、夜中でもバンバン車が走ってて明るくてやかましい都会の方が私は好きです。

田舎で生まれ育ったのに、何故そうなったんですかね・・・。

ハハの昔話によると、私は幼児の頃従兄弟の家に行く途中、帰宅ラッシュの京王線新宿駅の人混みを見て目を爛々とさせ「楽しいね」と興奮していたそうです。そして身動きできない橋本行きの満員電車で立ったまま爆睡していたそうです。なんじゃそりゃ。

一人っ子だから人がたくさんいるのが珍しくて楽しかったのでしょうか。とにかく、幼い頃から過疎地よりは密集地帯の方が好きだったみたいです。

 

そんなこんなで、基本的には都会が好きだし今暮らしている首都圏の生活は十分素晴らしいと感じてはいるのですが、胃袋掴まれてる故郷の田舎のこともなんだかんだで気に留めてはいる、そういう状態です。

 

***

 

最近感じることの一つに「大人が考えをあらためるのって、よっぽどのことがない限り難しい」というのがあります。

私は現在31歳ですが、すでに今の時点で新しいことや未知の概念を吸収する力がかなり落ちてきているのを感じるんですよね。

転職も死ぬほど面倒くさいし、引っ越しもしんどい。新しいアイドルグループのメンバーはみんな同じ顔に見えるし、知らないカタカナ用語を調べる気力すら湧かないことがままあります。

これくらい変化に順応しづらくなった大人が、田舎は都会の比じゃないくらいの割合でいるのです。

さらに悪いことに、たとえ自分の年齢が若くても、周囲の先輩や上司が変化できない大人ばっかりだと、自分の変化許容性もかなり早い段階でストップしてしまうんですよね。前の職場の同い年の同僚がまさにそれでした。

「お前は大正か昭和の生まれなのか?」とつっこみたくなるほど全時代的な価値観を持っていた同世代のその同僚は、新卒からずっと半官半民みたいなメディア企業で市場原理とは遠く離れた価値世界で働いてきた人でした。私は彼に出会ったことで、先進的になるか前時代的になるかは、年齢の問題ではなく身を置く環境の問題なのだと気づきました。

 

地方にも頭の柔らかい若い思考を持った人は存在するし、そういう人が頑張って地域を盛り上げているのは私の地元も例外ではないです。

けれど、そうして頑張っている人たちの足を引っ張る土着の人々もたくさんいるのも事実です。

この本の帯にもあるように、補助金絡みのきな臭い事案もいくつもあります。私も過去にいくつも虚しいプロジェクトに携わってきました。

 

ムカつくことや受け入れ難いこともたくさんあるけど、なんだかんだ言って、やっぱり地元には元気でいてほしいと思います。

人間は楽しい思い出のある土地にどうしても愛着を抱いてしまうものです。

文化度が低くて港も浜辺もない街だとしても、地元にはどうしても揺るぎない青春の思い出がいくつもあるわけで、自分の人生から切り離すことはできないんですよね。そんな自分の一部とも言える街なわけですから、どうせなら活気にあふれていてほしいです。

 

まずは、市場原理とかけ離れた、わけわからん政治的事情やそれに付随した補助金ビジネスはマジで無くなって欲しいと、この本を読んで改めて思いました。

この国には、税金払うのが馬鹿馬鹿しく思えるようなアホみたいな補助金事業が掃いて捨てるほどありすぎます。

前の会社も、そうした補助金ビジネスで一時的に潤って、でもそれはどうしても一過性なのでその後の立て直しができなくてずっと苦しい状態でした。おそらく今はコロナ禍でさらに酷いかもしれません。

大震災とかパンデミックとか一極集中とか、補助金大義名分はいくつもありますが、マーケットの原理とかけ離れた大金っていうのは、最終的には毒にしかならないですね。補助金を受けた側はそれに依存した体制になってしまうし、元々マーケットのニーズがあったわけではない事業だから持続性もない。

 

今の会社はそういうのとは無縁だと思ってたんですが、このコロナ禍でまたいろんな種類の補助金ビジネスが立ち上がってるみたいで、どうもそこに一枚噛んでるみたいなんですよね〜・・・ほんと、関わらない方がいいのに。こちらもきな臭くなってきました。

自分の地元との距離感や、中央集権や既得権益との関わり方について、改めて問題提起をしてくれる良書でした。おわり。