れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

絶望したまま生活する:『心臓』

さらっと読めるけど心に傷跡をのこすような漫画に出逢いました。

心臓 (トーチコミックス)

心臓 (トーチコミックス)

 

結構前から気になってたんですが、なんとなくスルーしていた作品。

取引先からAmazonギフト券をもらったので購入してみました。

なぜ気になっていたかというと、作者の名前が”オクダアキコ”で好きな作家の奥田亜希子さんと漢字一文字違いだったので。それだけです。

 

『心臓』は短編集で、特にいいなと思ったのは2話目の「ニューハワイ」と最後の「神様」という話。

 

***

 

「ニューハワイ」は27歳古本屋バイトのなおちゃんの日記調の独白がメインです。

なおちゃんの高校時代からの友人・冬子は、DV彼氏にしょっちゅう暴力を振るわれてなおちゃんに泣きついてきます。

「通報しよう」となおちゃんが言うと、必死に止める冬子。

「私は私のやり方で彼のメンタルを救ってみせる」とニコニコして帰っていく冬子を”一人芝居でもしてるみたいで痛々しい”と評するなおちゃんの、一歩引いた冷めたスタンスが好感持てます。

 

ブックオフっぽい古本屋でのバイトの様子も面白いです。ズレた感じの変な男性客の描写とか。

ある日、年下の女の子バイトと年上の男性バイトが自分の話をしているところを立ち聞きしてしまう場面が特に好きです。

「なおさん?夢でもあるんじゃないっすかね」

「だからってこんなとこ2年もいます?」

「オレ4年」

「だって なおさんもう

27才っすよ」

(中略)

9月15日

陰口に

腹も立たない

私、人生のどの地点から ここまで自分に絶望してるんだろう

 

(奥田亜紀子「ニューハワイ」『心臓』リイド社 2019.7.30)

読みながら私も、自分にいつから絶望してるのか考えてしまいました。

 

実は大学生の頃一瞬だけ、なおちゃんみたいにブックオフでバイトしたことがあります。ブラックで1か月くらいでやめましたけど。

あの頃はもう自分に絶望してた気がする。となると、二十歳の時点でもう絶望してるなぁ。

 

物語はその後、大地震とかいろいろあって、さまざまな心の機微がありつつもなおちゃんと冬子とDV彼氏で熱海旅行に行ったところで終わります。

ざっと説明するとなんじゃそりゃ、と言う感じですが、いい話でした。

 

***

 

「神様」は四時子という女性と彼女の炊飯器やマフラーや靴などの付喪神として振舞う神様の話です。

あまり笑わない四時子には、学生時代に交通事故に遭って以来寝たきりの双子の妹・五時子がいます。

また、サトという彼氏もいて、サトは四時子を本気で好きで、結婚したいと思っています。

サトが本当にいい彼氏で、自分と結婚したがっていることもわかっている四時子ですが、五時子のことを言い訳にして自分が幸せになることを避け続けるんです。

「私 幸せはこれ以上要らない

・・・五時子が死んじゃう気がして」

 

(奥田亜紀子「神様」『心臓』リイド社 2019.7.30)

「ニューハワイ」も「神様」も、他の短編も、この作品に出てくる主人公たちはみんな自分や自分の人生に絶望しているんですね。

そしてそういう”自分や自分の人生に絶望している人”に強く惹かれる私自身に気づきました。

惹かれるというか、ひたすらに共感する感じ。

 

「幸せはこれ以上要らない」なんていうほど幸せではないんですが、この絶望を脱ぎ捨てられるイメージが全く湧かないです。

今までもこれからも、この絶望を背負って生き延びるしかないんだという諦念。

絶望したまま生活する疲労感と、その中で見出すあるかないかの小さな幸せ(熱海旅行に行くとか、面白い漫画に出逢うとか)をかき集めて記憶する作業。

そういう絶望人生にすごく共感して、なんとなく励まされ安心するのだなぁと思いました。

 

生身の人間が生きるろくでもない感じを、とても軽やかに表現した良作漫画でした。終わり。