お盆ですが猛暑のニュースにビビって家から出る気が起きない30歳の夏。
暇なときGYAOの無料映画欄をのぞくのですが、今とてもいい映画やってました。橋口亮輔監督作品『恋人たち』。
今月30日までGYAOで無料で観られるようです。別にPR案件じゃないですよ。
何の前情報もなくたまたま目について再生しただけだったんですが、こんな良作に出会えるなんて何だか嬉しいです。
Wikipediaからあらすじを拾ってこようと思ったら、ネタバレどころかストーリーの全てが書いてあって笑ってしまいました。
ストーリーの内容よりも、一つ一つの場面の描写に胸を打たれる映画だと思います。
観た後すごく「いいもの観たなぁ」と感動して、ひとに勧めたくなるんですが、「どういうところが面白いの?」とか聞かれると多分かなり悩む気がします。
愛していた妻を通り魔に殺されたアツシの話は本当に辛くて悲しいし、長年の片想いがこじれて色々うまくいかない弁護士の四ノ宮の話もしんどいし、田舎の弁当工場で働く瞳子の話も何だか滑稽で居心地が悪い。
どれもこれも不幸の無数のパターンの中からピックアップされたような話で、現実世界のどこかにありそう。リアルな描写にとても引き込まれました。
特に瞳子とアツシの暮らしぶりは、私に新卒時代働いていた食品工場を思い出させました。
何度も転職を繰り返し、今はたまたま東京の高層ビルでOL勤めをしていますが(といってもここ数ヶ月狭い賃貸マンションでテレワークですけど)、私の原体験ってやっぱりあの田舎の工場なんだなって改めて実感しました。
瞳子とその同僚たちが自転車置き場から「お疲れ様です」と言い合って散り散りに帰宅していく様子も、狭い事務所で作業着を着たおじさんや事務のお姉さんたちが馬鹿話で笑い合う様子も、既視感でいっぱいでした。
あの頃マーケティングとかブランディングとか、そんなカタカナなことは微塵も気にしなかったし、考えてなかったです。
朝早く起きて、ママチャリで田舎道を走り、おんぼろな畳敷の更衣室で作業着に着替えて、おばちゃんおじちゃんたちと腰痛いとか暑いねとか寒いねとか言い合って、朝から晩まで働いてクタクタになって、帰り道にそうめんとかお酒とか買って、帰って食べて飲んでお風呂に入って眠る。
シンプルで、忙しいけど全く充実していなくて、難しいことは何にもないけど憂鬱な日々。
多分一緒に働いていたおばちゃんたちも色んな不幸を抱えて生きていたんだと思います。当時はそのことにあまり思い至らなかったですが。
偏見もあるのを承知で言うと、あの場にいた誰もが何かを諦めていたんだなって感じます。
みんな多分「こんな仕事つまらない」って思ってました。もちろん私も。こんな仕事誰でもできるって。(今の仕事だってそうですけどね)
そして単調な仕事に加えて、単調な生活。単調な家庭。刺激のない田舎の生活と村社会。
車のローンや子どもの学費や親戚づきあいや同僚たちとの人間関係といった面倒で瑣末なこと。
改めて思い出すと、本当に閉鎖的で平坦な生活だと思います。
けれど、みんなそれを受け入れていて、諦めていて、足掻くことなく、変に飾りたてることもしなかったです。
諦めた上で、それぞれがささやかな楽しみを持っていて、無駄に前向きになることも後ろ暗くなることもなく、ただただ生きていました。
ブルーカラーとホワイトカラーという言葉がありますよね。近年ではゴールドカラーというのもあるようです。
ゴールドカラー以外は大きな違いはあまりない、どちらもただの労働者だと思います。
ただ、ホワイトカラーはゴールドカラーに比べて虚飾がちょっと多いなと感じました。諦めが足らないというか。
特に都会であればあるほど虚飾具合が過剰になる気がします。きっと都会はその虚しさでお金を回している節があるんじゃないでしょうか。別にそれが悪いとかではなく、それはそれで面白いなと思います。
社会は階層構造で、それぞれの階層にそれぞれのスタンスと不幸があるんだなって。
ただ、この『恋人たち』みたいな映画や漫画や小説に出会うたび、きっと私はこれからもあの工場での日々を思い出すし、そこで一緒に働いていたみんなの生活を思い出します。
そしてどんなにオシャレでキレイなところに行ったとしても、私の本質的なところは多分ああいう場所にあるんだろうなと思い返す。
飾りを剥がされるような感じです。
ああ、そうか。この映画は精神的な飾り・虚飾を剥がしにくる作品なんです。だから読後感がいいのかな。
ゴテゴテしてんな〜と思う人に観てほしいかも。おわり。