れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

なんだってマーケ:『ぼくは愛を証明しようと思う。』

大学で専攻した心理学は、そこそこ面白かったですがあまり夢中にはなれませんでした。面白かったなーってだけで、卒業したあと生活に役立てることもなかったし、学んだ知識もぼんやりとしか記憶に残っていませんでした。

だからびっくりしたんですが、藤沢数希著『ぼくは愛を証明しようと思う。』の中で、それまで「ふーん」としか思ってなかった理論の数々が活きた知恵として駆使され、次々と結果を出す様子が読んでいてとてもエキサイティングでした。学問って実際きちんとワークしてるところを見ると、こんなに楽しいものだったんだなって。

ぼくは愛を証明しようと思う。 (幻冬舎文庫)

ぼくは愛を証明しようと思う。 (幻冬舎文庫)

  • 作者:藤沢 数希
  • 発売日: 2018/04/10
  • メディア: 文庫
 

物理学のPh.D.だったりトレーダーだったりして現在投資家としても活躍しているゴリゴリの理系の著者が創出した新学問「恋愛工学」。本書はあらゆる科学的手法を恋愛に組み込んだ、この新しい学問の入門書のようです。小説の形態をしていて物語としてもよく作り込まれており、笑って学べるハウツー本って感じでした。芥川龍之介作品のようによく計算されたタイプの物語で、最後の最後まで楽しめます。

 

主人公の渡辺正樹26歳は、東京・田町の特許事務所で働く弁理士の青年です。男子校出身で女性経験は浅く、物語序盤に付き合っている彼女に高額バッグのクリスマスプレゼントを渡した後トンヅラされ、打ちひしがれて冴えない27歳になったところからストーリーが始まります。

渡辺は気晴らしに学生時代の友人と行ったクラブで、仕事で知り合った永沢さんというイケてるおじさん(?おじさんではないかもですがモデルは多分著者だと思う)が美女にモテモテな様子を偶然目撃します。

永沢さんのモテっぷりに衝撃を受けた渡辺は、メールで永沢さんにアポをとり、どうやったら永沢さんのように美女にモテることができるのか、そしてセックスに困らなくなるのかについて教えを請います。こうして永沢さんによる恋愛工学指南が開始されたのでした・・・。

 

最初に成る程と思ったことは、男性にとってのセックスの重要さって計り知れないなということです。生物学的・遺伝子的要因とか色々理由はありますが、なんにせよ女性が渡辺たちのようにセックスのためにこんなに試行錯誤して取り組むことはそうそうないと思います。

なんだかんだ言って、やはり女性というだけでセックスにありつくハードルは全然低いんだなと。よって女性と男性ではモテの定義も成り立ちも全然違うんですね。

ちなみに、この作品で紹介される男性のモテの公式はこちら。

モテ=ヒットレシオ(女が喜んで股を開く確率)×試行回数 (女を誘った回数)

この説明だけ見ると、女性を道具としか見てないとか軽んじてるとか不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。特にこういう文学的なテーマに科学的アプローチを持ち込むとアレルギー反応を起こす人も少なくないと思うので。

 

しかし作者はそこにきちんと予防線を張っていて、私はとても感心しました。本当のところどう考えているかはわかりませんが、随所できちんと女性を人間として立てている記述があります。

「渡辺、ひとつ言っておくことがある」と永沢さんは言った。「お前もふくめて、多くのモテない男が、無視したり、ひどいことを言ったりする若い女のことをビッチと呼ぶ。本当は自分が相手にされないからむかついてるだけなんだが。世の中にビッチなんて存在しないんだ。彼女たちは、じつは、ただシャイだったり自信がなかったりするだけで、心をいったん開いてやれば、一途でとてもやさしかったりするもんだ。だから、これからは誰もビッチと言うんじゃない。わかったな」

確かにそうだな〜と。男性の言う「ビッチ」はつまり負け惜しみってことですね。

同性である女性がビッチと呼ぶことも結構ありますが、これは男性とは使い方が違いますね。

実際、貞操観念低めの女性が過去にレイプ被害にあっている確率が高い傾向はままあって、”心を開けば一途でやさしかったりする”のはあながち嘘でもないです。

 

下記も女性を立てていて、なおかつビジネスないしマーケティングに通ずる部分もあるなと思いました。

「ちょっとナンパができるようになって、何人かの女とセックスできると、すぐに勘違いしてしまう。女をまるで店の棚の上に並ぶ、お前の欲望を叶えるための商品みたいに思いはじめる。ちょっとばかりの労力、テクニック、それとデートのメシ代を払って、女の心を買おうとする」

「女は、自分をよく見せようと化粧をして、着飾っていても、決して売り物なんかじゃないんですね」

「そのとおりだ。そして、売り物なのは俺たちのほうだ。俺たちがショールームに並んでいる商品なんだよ。俺たちは、自分という商品を必死に売ろうとしている。女は、ショールームを眺めて、一番自分の欲望を叶えてくれそうな男を気まぐれに選ぶ。俺たちのような恋多きプレイヤーは、じつのところ、そうやって気まぐれな女に、選んでもらうことを待つ他ないんだよ」

さらに永沢さんは「だから、ときには売らないという選択をしなければいけないときだってある」と言います。絶対に自分を安売りするなと。

女は決して売り物なんかじゃないと書かれていますが、男も女もある側面では売り物だし、同時に買い手でもあると思うんですよね。なんか就職活動とか営業とかと似てるなーって思って読んでました。

調子に乗って勘違いしている男性が気持ち悪いと言われるのは、自分も同時に商品であり品定めされているということをわかっていないからです。変な圧迫面接するブラック企業も同じ。立場の強弱とは別に、それぞれが売り手と同時に買い手でもあり、どちらもそれぞれレビューされうるということを認識していない人は嫌われると思います。コミュニケーションの基本でしょ、とコミュ障の私でもわかる理屈。

 

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渡辺が果敢にナンパにチャレンジしどんどんいい女を手中に収める様は、次々とダンジョンをクリアしてボスを倒していくRPGのゲーム実況を観ているようで実にワクワクしました。永沢さんもよく褒めてますが、渡辺はとにかくガッツがあり、駆け出しの新卒が営業部のホープに成長する様子ととてもよく似ています。

まず女性を喜ばせることを大事にし、理論に裏付けされたテクニックを相手の出方に合わせて駆使して無事セックスにありつくことと、まずお客様に喜んでもらうことを大事にし、フレームワークや戦略戦術を駆使してPDCAを回して業績を出すマーケティングはおそらく本質的に同じなんですよね。

営業マン時代、同じく営業歴が長い同僚が「成績のいい営業ほどよくモテる」と言っていたのを思い出しました。この本を読むと余計にそうだろうなと思えます。

 

また、こと恋愛に関して女性の言うことは全く当てにならないと言うのも、顧客アンケートの結果通りに仕様改善しても業績が上がらないケースが多々あることと似てると思います。

恋愛工学を知れば知るほど、そして、実際にたくさんの女の行動を目の当たりにすればするほど、世間に広まっている恋愛に関する常識は、すべて根本的に間違っていることを確信した。恋愛ドラマやJ-POPの歌詞、それに女の恋愛コラムニストがご親切にも、こうしたら女にモテますよ、と僕たちに教えてくれることの反対をするのが大体において正しかった。

本当にこれです!乙女ゲームの攻略対象なら一途なワンコくんも愛が重いヤンデレも素敵ですが、現実にそんな男性に好かれても多分面倒なだけなのです。一途に自分のことだけを愛してくれる優しい男性はフィクションだから価値があり、実際一緒にいて楽しいのは話が面白くてセックスの上手い、適度な距離感で接してくれる男の人なのです。

 

ティーヴ・ジョブズもお客様アンケートなんて多分当てにせず、もっと潜在的な顧客ニーズを掴もうとしていたはずです。相手の表面的な言葉に踊らされていては、きっと結果を出せないんでしょう。

似ている・・・恋愛もビジネスも、やっぱり市場的で、なんだってマーケティングなんだなぁ。

 

ちょうど先日仕事で女性たちに恋愛と結婚に関するアンケート調査をしたんですが、この本のことを思い出してちゃんちゃらおかしくて笑ってしまいました。女の人って、本当に言ってることとやってることが全然一致しないんですね。私も女なんですが、指摘されるまで気づかなかったです。

女が相手の収入を重視しないわけなかろうて。おわり。

 

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なんと漫画もあるようですね。面白いのかな?表紙凄いけど(笑)