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ひまをつぶしましょう

文壇バトル漫画?:『響 〜小説家になる方法〜』

昨日近所の本屋さんで試し読みしたら面白くてその後一気読みした漫画を記録しておきたいと思います。『響 〜小説家になる方法〜』。

響?小説家になる方法? コミック 1-9巻セット

響?小説家になる方法? コミック 1-9巻セット

 

タイトルに”小説家になる方法”なんて書いてあるのでそういうHow to系漫画かと思いきや全然違いました。

表紙に描かれている眼力の強い眼鏡の女子高生・鮎喰 響(あくい ひびき)15歳が、チートとも言える圧倒的な文学的才能と、ハッタリのために自分の指を折ることも辞さない卓越した信念と度胸をもって、自身の才能に群がる悪意ある大人や社会と戦っていく物語です。

 

響の暴力的なまでの天才性は読んでいて面白いです。

普通の人がどれだけ努力しても絶対に越えられない域にいる響。読書量は確かに少し多いですが、何か特別な修練を積んだわけでもないし、家庭環境も平凡すぎるほど普通。それでいて、自分の信念に反する輩に容赦なく暴力を振るったり、日本人的しがらみにためらいなく空気を読まずに暴れ怒りをぶつける彼女は、天才によくある人格破綻者のようにも見えますが、親友や自分の味方の人間に対して本気で助けたり思いやったりする愛情をちゃんと持ち合わせていて、そのバランス感覚が絶妙なんですよね。

漫画の中で響の作品の具体的な描写はほとんどないです。他の小説家の作品についても、作品の概要や設定などについては記載があっても、詳細な文章はほとんど出てきません。

響 〜小説家になる方法〜』は、文芸界を舞台とした、生まれつき異能的天性をもつ少女・響が敵と戦い仲間と成長しながら頂へ登りつめていくバトル漫画なのだと感じました。だから少年漫画を読んでいる時のワクワク感があります。

 

響みたいな天才が主人公の作品の中では、よく”天才にどうしても勝てない秀才の苦労”が描かれがちです。『ピアノの森』とか『とある科学の超電磁砲』とか、どの作品も秀才や凡人の、天才にどうしても太刀打ちできず努力が報われない様をドラマティックに表現しています。

もちろん『響 〜小説家になる方法〜』の中でも、そういう描写はたくさん出てきます。響の親友で有名作家を父にもつ祖父江 凛夏(そぶえ りか)もそうですし、文学賞の選考委員である昔売れてた有名作家たちや、作品がなかなか受賞できず思い悩む若手作家たちもそう。響の類いまれなる才能とその強者特有の無神経さに、傷つけられ、苦しみ、諦め、それでも前を向こうとする人間の切なさが彼らの描写から滲み出します。

けれども、それがあんまり湿っぽくなくて、そんなに心に迫る感じでもないんですよね。それはなぜかと考えると、響がそういう才能的弱者に一切の容赦がないからで、親友だろうがなんだろうがつまらないと思った作品に対しては具体的にどこがどう良くないと思ったか詳細に評するし、自分が理解できないことや自分に関係ないと思うこと、自分が興味を持てないことはバッサリ切り捨てる思い切りの良さをもって相手にストレートにそれを伝えるからだと思います。

 

一見響が冷たいように見えるかもしれませんが、私はこれ以上の合理的親切はないのではないかと思いました。「こんなこと言ったら傷つくかな」とか「こういう言い方はよくないかな」とか、グダグダ考えたところで事実は変わらないですよね。「ここはとてもよかったと思う、でも・・・」とかぼんやり濁されるより「ここがこうだからつまらない。これはこうだから伝わらない」って端的に指摘してくれる方がはるかにわかりやすいし無駄がないです。

 

響はその人の作品や、その人の悪意ある行動や行為には激しく攻撃的なことをするけれど、むやみに他人を傷つけることはしないんです。その響の線引きは、天才だからというよりは、彼女の独自の善悪の基準・信念に基づいているからだと感じます。

響の性格って、西欧的なところがあるなぁと読んでいて思いました。非常に合理的で、日本の嫌な空気システムが作用していない感じ。羨ましいと思いました。

 

***

 

ちなみに、この作品で私が一番好きな登場人物は、響の幼馴染の椿 涼太郎(つばき りょうたろう)です。

彼のヤンデレ具合、偏執的な響への情愛は作品の中で異彩を放っていると思います。

少年バトル漫画といった趣の『響 〜小説家になる方法〜』の中に、突如として現れる18禁乙女ゲームばりのヤンデレ変態男子涼太郎。彼の部屋の壁は幼い頃から現在に到るまでの響の写真で埋め尽くされ、毎晩寝る前に写真にキスしている涼太郎。初めて見たとき、キスじゃなくて写真で抜くのかと思ってヒヤヒヤしました。(ていうか本当は抜いてるでしょ絶対)。

涼太郎の異常な愛情を受け入れつつも迎合はしない響も凄いです。自分の写真だらけの涼太郎の部屋に気味悪がりつつも普通に会話できてるその精神力は、やっぱり響はいろんな意味で偉才だと言わざるを得ません。

私は個人的にもっと涼太郎のその薄気味悪くおどろおどろしい響への情愛をフィーチャーしてほしいです。むしろスピンオフでドラマCDとか乙女ゲームとかにしてほしいレベルです。

 

個性的なキャラクターたちと、暴力的なまでの卓越した天才・響のバトル譚、続きも楽しみです。おわり。

 

Kindle版もあります。