面白い作品に巡り合いましたよ。
主人公の大島凪28歳は、前の職場で精神の均衡を崩し最終的には過呼吸に陥って退職。東京郊外で無職の節約生活をはじめ、人生の再スタートを切ります。
いや〜28歳無職って、私もまさに今28歳無職ですけど、凪のニート生活には愉快なご近所さんたちや拗らせすぎて不憫萌えな元彼など、面白い登場人物がいっぱい出てきて素晴らしい。私はここ最近お試し体験の英会話の先生(カナダ人男性34歳)と1時間喋った以外は店員さんとのレジでの「Suicaで」くらいしか喋ってないですよ。あとは独り言。
凪は節約術もすごい。料理上手だし金のかからないエクササイズにも詳しいです。ビニール袋でリフティングするやつには感動しました。こんな楽しくてお金のかからない運動がこの世にあったなんて!
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凪は空気を読みまくるおとなしい系女性なのですが、そのせいで精神的にやられて会社をやめたので、退職してからの彼女はちょっと辛辣になってクールで素敵です。
特に一番すごいと思ったのが第2巻終盤、ハローワークで出会った友人・坂本さんに強引に連れていかれた婚活パーティで偶然あった前の同僚・足立さんにまくし立てるところです。
「じゃあなんで今日の足立さんはそんなに肩出して迎合した格好してるの?」
「は?」
「雰囲気違くてビックリしたのはこっちもだよ
足立さんてもっとこう媚びないカジュアルって印象だったから
もしかして会社帰りわざわざ着替えたの? すごいガッツ!
なのに収穫ないってちょっと切ないね
でもエントリーシート見つめ直してから来いだなんて
さすが足立さん強気だなぁ」
「当たり前じゃない 突っこむだけの男とは違うのよ
こっちは受け入れる側なんだから強気で行くべきでしょ」
「それなんだけどさあ
男の人だって言う程誰でもいいわけじゃなくないかな?
自意識高くてこじらせた女性わざわざほぐして入れるのなんて面倒そうだし
向こうだって足立さんがしたように最低限の線引きはしてると思うけど
それにエントリーシート見直して来いってことは職業や年収がお眼鏡に適えばOKってこと? その人の肩書によっては抱かれちゃうってことだよね?
それって露出の多い服ってだけで寄ってく男と同じくらい浅ましくない? 」
慧眼〜というか、ほんと婚活パーティみたいな場所って双方向が評価し合うってことを失念している人が多いと思うんですよねぇ。前の仕事で散々運営してたので見ていてうんざりでした。
そして凪の偉いところは、他人にズバッと言った後で自分のこともちゃんと省みるところです。
凪の元彼・慎二。彼は営業部のホープでイケメンでした。自分もそんな彼の肩書に抱かれていたのかもしれない、と内省する凪。やっぱり彼女は根が謙虚なんですよね。
だから「ヤりたいだけの男も 肩書きに抱かれたい女も責められない」と自分を断じる凪なのでした。
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凪も可愛くてとても好きですが、私は凪の元彼・慎二がものすごく好きです。
最初はただの意地の悪い調子のいいイケメンだと思っていたのですが、2巻から慎二がいかに凪のことを好きか、そしてそれを素直に表現できない小学3年生もびっくりのガキっぽい性格かが描かれ、私は慎二に完全に萌えてしまいました。不憫萌えです。
好きな人をボロクソに言ってしまうあの心理。ガキっぽいと自分でも気づいているんですがどうにもできない時があります。私も幼い頃は若干その気があったので。
今は好きな人ができるとうざいくらい本人に好き好き言いまくるタイプになったんですが、いつどこでシフトチェンジしたのかあんまりよく思い出せません。
それにしても慎二好きです。可愛いなぁ慎二。でもやっぱり凪に「ブスになったな」はいけませんね。聡明なキャバ嬢の杏ちゃんも言っていましたが、”ブス”は女の子に言っちゃいけないワード万国共通ナンバー1です。
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凪の新生活は、私が新卒で入った会社をやめた時とよく似ていて、ちょっと懐かしくなりました。季節も夏だったし、失業保険の手続きもしてたなぁ。ハローワークのおばさんはずっといい人だったけど。
旅行にも行ったけど、それ以外は図書館で借りてきた本読んで、料理して・・・先の全く見えないあの、心もとないけどしっくりくる感じ。
次の仕事が決まっているから言えることかもしれませんが、ニート生活って誰しもやってみたほうがいいんじゃないかって思います。
やるべきことがまったくなくなったときの自分を数ヶ月眺めると、空気を読んで押し殺していた自分の本音が、わからなくなっていた自分自身がちょっとずつ見えてくる感じがするのです。
って言っても私は凪ほど空気読めないタイプなんですけどね。そして我慢強くもないので無理と思うとすぐ辞めてしまう。全然凪とは違います。
それでもすごく共感できるのは、この20代の数年のうちに何度かニート生活してるからに他なりません。
なんで今の職場にいるのかよくわからなくてもやもやしている、なんとなく惰性で職場に通っていてスッキリしない、そういう人に読んでほしい作品だとおもいました。おわり。