前の職場を退職して3週間くらいが経ちました。
ニート生活がこんなに天国なのは、いい漫画、いい映画、いいアニメ、いいゲーム、いい本などなど、いい作品が世の中に溢れているからに他なりません。本当に、全てのクリエイターに感謝します。
そんなニート生活の中でハマってる漫画が渡辺ペコさんの『1122』(いいふうふ)です。
その結婚は、
幸せですか、
辛いですか。
妻・相原一子(あいはら いちこ)。ウェブデザイナー。
夫・相原二也(あいはら おとや)。文具メーカー勤務。
結婚7年目。
子供なし。
私たちには秘密があります。
結婚をしたい人もしたくない人も、
結婚を続ける人もやめた人も、
「結婚」を考えるすべての人に届けたい——、30代夫婦のリアル・ライフ。
『にこたま』完結から4年、渡辺ペコ待望の新連載!!!
(モーニング公式サイトより)
笑える面白さがちゃんとありつつも「あー面白かった」で終われない意地悪さのようなものがザクザクあって、とてもコシのある作品です。
いちことおとやはセックスはしないけれど仲良しの友達みたいな夫婦です。
ある時いちこの気が乗らなかったことからセックスレスになり、そこから相手の恋愛とセックスには干渉しないというルールを作り、セックスなしでも楽しく暮らしている二人。
おとやには外にW不倫関係の恋人・美月がおり、いちこはそれを公認しつつも、恋に浮かれているおとやに若干の不満を抱えています。
元はいちこのセックス拒否から始まったことなので、いちこは理屈ではおとやの外での恋に納得はしているものの、自分のちょっとした欲求不満や、おとやだけが外で満たされている状況に羨望に近い嫉妬があるんだと思います。
おとやは私からするとすごく理想的な男性です。
仕事に情熱はないけどちゃんと稼いできているし、男性特有の厚かましさみたいなものもないし、かといって優柔不断でも弱々しくもない。極めてバランスのいい、素敵な男性だと私は感じました。
2巻でいちこもおとやのことを褒めていますが、つくづくおとやはナイスガイ。
「相手をよく見てよく聞いてより添ってくれるし労ってくれるし
言葉だけじゃなくて ちゃんと動いてくれるし面倒くさがらないし
あとねー
家事やってくれるし器用だし気がきくし
ケチじゃないし店員さんとかに横柄じゃないし
仕事だってじゅーぶんちゃんとやってると思うし」
「てへへ そうかな」
「おとやんはナイスガイだよ」
このあと二人はいい雰囲気になり、久々にセックスするかと思いきや勃たないおとや。笑
中途半端に目覚めた性欲をもてあますようになったいちこは、友人から噂で聞いた女性向けの風俗に興味を持ち始めます。
いちこ夫婦以外の主要登場人物に、おとやの恋人で専業主婦の美月とその夫・志朗、二人の息子・ひろがいます。
美月を見ているのが私は一番つらいです。
息子のひろは2歳になるものの、知能その他の発達が1年以上遅れているといいます。ぱっと見た感じ自閉症っぽいですね。
夫の志朗は家事育児一切を美月に丸投げで、稼ぎは十分だしそれなりに責任感もありそうだし妻も子供もそれなりに愛してはいそうだけど、思いやりを全然感じられません。
志朗と美月はセックスレスではないけれど、志朗相手のセックスが美月には肉体的にも精神的にも苦痛で仕方がありません。
いつから夫とのセックスが苦痛と恐怖を伴うものになったのだろう
挿入されながら
枕元の重い花びんを手に取って
夫の頭に振り降ろすところを想像する
そうしてわたしはこの時間をやり過ごす
美月は多分志朗のことをもう好きになれないんじゃないかと思うんですよね。
美月は不倫の恋人・おとやを愛してしまっているように見えます。救いのない息詰まる生活の中で唯一心のオアシスとなっているおとやの存在が、心のバランスをとる以上に膨らんできてしまっているような。
だからおとやの妻であるいちこが、自分たちの不倫を最初から知っていて公認していることを知って我慢ならなくて、自分がおとやたち夫婦の緩衝材のように思えて惨めでいたたまれなくなり「馬鹿にしないで」と怒ってしまったのでしょう。
それでも、腹がたってもやっぱりおとやを好きで手放せない美月。
しかし、今ふと気づいたんですが、美月は志朗と結婚したからこそおとやに惚れたんじゃないかなーと思いました。
だって志朗とおとやって全然タイプが違うんです。
私はおとやは大好きですが、志朗は登場するたびに腹がたって仕方がないくらい嫌いです。メガネのクールイケメンな見た目はどストライクでも志朗は許せないです。
例えば、志朗の母親がひろの育児に口出ししてきて困ってることを相談したときの志朗の返しが以下。
「あなたは 父親でしょう?」
「そうだよ だから働いて稼いでる
こうやって休日も持ち帰って仕事してる
それが俺の役割だから
君たちに経済的な苦労や心配させたことないよね?」
「そーゆうことじゃねーよ!」って、私なら殴りかかっちゃいますよ。
さらに志朗に対して「こいつはホントに無理」と思ったのが、美月の友人たちを家に呼んだらどうかという志朗の提案を美月が却下した時のエピソードです。
「志朗さん わたしの友達にジャッジ厳しいし」
「ジャッジ?」
「「あの子はブス寄りだけど笑顔がいいね」とか
「あの人箸の持ち方と食べ方がひどかった」とか
友達のこと品評みたいに言われるのやなの」
「1つ目のはほめてるし
2つ目のは単なる事実でしょ」
「わたしは求めてないのそういうの (後略)」
「1つ目のはほめてるし」?
ほめてねーーーーよッッッ!!!!!
ってイラっとしました。
どんなに顔が良くて稼ぎが良くても、志朗とは絶対仲良くなれないです。
でも、美月は志朗と結婚して子供までいるわけです。二人の馴れ初めはまだ知りませんが、昔は美月も少しは志朗に惹かれてたってことですよね?多分。
志朗に惹かれて、結婚して失望していたからこそ、おとやに出会って彼を好きになったんだと思うんです。
***
話の本筋からは離れますが、美月の境遇が見ていてつらいのは志朗のせいだけではありません。
人でなしと思われるかもしれませんが、私は美月の息子・ひろもどうしても可愛いと思えないのです。
障害があるのはわかります。それでも、ああして泣き叫ばれて言うこときけなくて暴れまわる息子と二人きりで家に閉じ込められたら、私は発狂するか虐待してしまっても不思議じゃない気がしました。
加えて姑からのオカルトな占いの勧めとか、夫の非協力的な態度や苦痛でしかないセックス(私はもうこれはレイプと同じだとすら思います)とか、追い詰められる要素しかない美月の環境は地獄そのものです。
唯一の息抜きである生け花教室とそこで出会ったおとやとの恋がなければ、美月はもう立っていられないのではないかと思うほどです。
私は美月とひろを見てあらためて、自分はやっぱり子供を生むことはできないと思いました。
自分が腹を痛めて産んだ子なら可愛いとか、全然信用できないです。自分の体から産んだって、たとえ心の底から愛する人との間にできた子だって、愛し育てる自信はないです。
ひろを見ている時の、あの形容しがたい嫌な気持ちは逃げ出したくなります。
だから、ひろをちゃんと抱っこしてきちんと根気強く育児している美月はとても強い女性だと私は思います。
彼女の強さが正しい方向に発揮されて、この地獄から抜け出せることを祈るばかりです。
***
来月3巻が出るらしいこの作品。
いちこは多分風俗に行くし、おとやは美月に確かに恋しているわけですが
セックスしない、子供ももたない仲良しの二人が婚姻関係を結ぶ必要性というのを、もっともっと多面的に検証していくことになるんだろうなぁ、となんとなく想像しています。
どうなっちゃうのかなぁと心配になりつつ、いちことおとやの夫婦って結構理想的に思えて、できれば二人には最後まで仲良しでいてほしいと願う自分がいます。おわり。