面白い雑誌が出ました。
高城剛 写真/文『50mm』THE TAKASHIRO PICTURE NEWS (晋遊舎ムック)
- 作者: 高城剛
- 出版社/メーカー: 晋遊舎
- 発売日: 2018/03/26
- メディア: 雑誌
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高城剛氏が世界中を飛び回って風景や人をカメラで切り取り、国際社会の"今"と"これから"について書いた大判の雑誌です。
出版不況と呼ばれる昨今、「雑誌が売れないのは読者よりも広告主・企業に寄った内容でつまらないから」と断言する高城氏にとても共感し、本書を街の書店に買いに行きました。
前の職場がマスメディア企業だったので、この傾向がすごくわかるんですよね。
特に民放のテレビやラジオは視聴者から受信料をとっていないので、売上はスポンサーからか、公開収録やフェス等のイベント収益に限られます。自社の媒体価値は視聴者の質と量に担保されているのに、どうしても売上至上主義で視聴者よりもスポンサー企業の喜ぶものを作ろうとする傾向があります。(特に営業)
SNSやWEBメディアが民放より面白いと思うのは、制作している当人が自分で見て自分で書いて自分で編集して自分で発信している個人の経験に基づくコンテンツだから。個人の"リアル"がオンラインに溢れているのに、ご都合主義の広告コンテンツばかり放送していれば、受け手が民放にシラけて視聴を辞めるのも当たり前です。
雑誌もきっと似たような構図なのでしょう。
この雑誌では欧米の大麻ビジネスの最前線や、難民問題その他で揺れるヨーロッパの国々、宗教と資本主義に揉まれるアフリカの国など、世界中の様々なトピックが取り上げられています。
私が特に興味を持ったのは皆既日食とそれにまつわるフェスの話です。
現在は日本国内も春先から夏の終わりにかけて、全国的に音楽フェスが盛んですが、正直どこも似たようなラインナップ・似たようなグッズ展開・似たような会場レイアウトとフード出店で、なんだかつまらないなと思いませんか?
自分も以前フェスの運営側で働いていたのですが、毎年会社の売上の大部分を占めるフェスイベントは、集客を上げるため旬のアーティストを呼べるかどうかが一番の鍵で、当然"旬"な彼らはギャランティーが高額なので、チケットは即完売となり売上は上がるものの経費も相当かかり、結果薄利で運営的にも疲弊するだけ。
おまけにせっかく人気バンドを呼べたとしても、翌日や翌週に近場で開催される別のフェスにも"旬"な彼らは出演するわけで、結局同じようなラインナップとなり、自社のフェスの独自性も強みもあったもんじゃないです。
こんな現状を高城氏は鋭く記述しています。
21世紀に入り、フェスは特別なものではなく常態化された「コンビニエンス」なパーティに変わり、ヘッドライナーのギャランティの高騰から、ナショナルスポンサーが絶対的存在となる。資本主義下の巨大な集金装置となってしまった。それゆえ、毎年同じ場所で開催され、年々形骸化の道を歩み始めている。端的に言えば、もうフェスはつまらない。
ところが、皆既日食はその天文学的確立の低さゆえに、とても「コンビニエンス」とは言えない辺鄙な場所で、何万人もが一堂に会し空を見上げ、そこで大きな祭りが開催される。しかも気の利いたショップもなければ全裸の人ばかりという奇抜なフェスなのだそうです。いやぁ、知りませんでした。なんで全裸なんだろう。。
もう一つ衝撃的だったのは、イタリア・ボローニャの人々のインタビュー記事で目にしたリビアで差し止められている難民の現状についてです。
難民問題が欧州を中心にだいぶ前から騒がれているのはぼんやりと知っていましたが、自身からだいぶ距離があるせいで、そこまで深く知ろうとしていませんでした。「アウシュビッツ・オン・ザ・ビーチ」という言葉も初めて目にしました。(参考:auschwitz on the beach - Google 検索 )
日本だけでのほほんと暮らしていると、本当にこういう問題に疎くて、きっと28年の人生の中で触れずにきた社会問題は計り知れないだろうと思いました。
それで今まで困ったことはなかったけれど、この先も困らないとは言えないですよね。なんて言ったって、この十数年で世界は実に狭くなりましたから。
世界が狭くなるということは、隣の庭と自分の庭が混ざり合うようになるってこと。火事の起きている対岸と、此岸の間に可燃性の橋がいくつもかかるということです。
他にも世界中のいろんな問題について、50mmレンズのカメラで撮られた独特な写真とキレのある文章で書かれており、読みながら"国際感覚"の片鱗を見ることができる優れた雑誌だと思いました。
もちろん、本当の意味での国際感覚は、実際に自分の目で見て、その場の空気を感じて、現地の人と会話をすることによってしか磨かれないと思います。
引きこもりの人こそ一読の価値ありです。おわり。
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Kindle版もありますが、一度ぜひ紙の雑誌を手にとって見てほしいと思います。
とにかく大きいです。