以前、登場人物「オウニ」のかっこよさについて綴った梅田阿比『クジラの子らは砂上に歌う』のアニメ最新話を見て
これまでと全く違うことを考え、自分でその思考にちょっとびっくりしたので記録したいと思います。
先日放送されたアニメ第11話「夢の話だ」では
主人公たちの暮らす孤島”泥クジラ”の中での2つの人種とそのありかたについて描かれていました。
泥クジラの民は、サイミアという超能力が使える”印(シルシ)”と、サイミアが使えない”無印(むいん)”の2種類の人種がいます。
印はサイミアを使って戦うことも、農作業を効率良く行なうことも力仕事もできますが、無印は我々と変わらないただの人です。
そして、印はサイミアを使える代わりに皆短命で、無印は総じて長寿です。
なので、泥クジラの政は代々無印がおこなってきました。印が長となってしまっては、代替わりが早すぎますし。
しかし、泥クジラの首長となる無印はただの無印ではありません。
「印のことを誰よりも大事に思うことのできる」無印なのです。
現在泥クジラの首長であるスオウは、幼いころから印の短命を治そうといろんな実験をしてきた生粋の印思いの無印でした。妹のサミが印なことも影響していたかもしれません。
先代の首長であるタイシャ様も、やはり誰よりも印の短命を嘆き、印の幸せを願う無印でした。
印たちも、自分たちを大事にしてくれる首長を尊敬しており、泥クジラはサイミアを持つものと持たざる者が絶妙なバランスで互いを敬い平和に暮らしていました。
ところが、そこに帝国の奇襲から始まる戦争の脅威がやってきました。
どうしてもサイミアという圧倒的な力を持つ印たちに泥クジラの民は頼らざるをえず、対して無印は戦では足手まといになるため身を隠すことしかできない。
印たちはその能力を単純に身体的な差異としか考えないので、特に疑問も持たず最前線で戦いました。
そして印は多くの命を落とし、無印で死んだのは長老会の老人1人のみ。
その事実に疑問を呈し、印による印のための政治を目論む双子の少年・シコンとシコクが集会を開き印たちをけしかける場面が、アニメ11話の終盤でした。
原作の漫画も読んでおり、話の流れはわかっていたのですが
今回改めてアニメを観てはじめて、自分の職場のことを想起してしまいました。
私が現在働いているのは某マスメディアで、社長を始め取締役会の役員たちは皆、役所や地銀や他のマスメディアから天下ってきたオジサンたちばかりです。
彼らは定年を過ぎてから、全くの異分野であるこのマスメディア企業へやってきて、使いこなせないパソコンの前で昼寝したり、無駄に長い会議をしてみたり、思いつきで会社の方針を決めたりしながら、何十万円もの月収と役員報酬と何百万円もの退職金を吸い上げていきます。
現場のことは何もできない・何も知らない60歳を過ぎたオジサンたちが、会社の大事なことや社員の報酬などについて決定を下すことに、部長をはじめとするプロパーの社員や契約社員、外注の制作会社の人々たちも不満でいっぱいです。しかし、もともと天下り先として立ち上げられた会社なので、大赤字をこいて回らなくなるまでおそらく今の体制は変わりません。もしかしたら、倒産しかけたところで役所が税金を遣って救済してしまう恐れすらあります。
2〜4,5年単位でコロコロ変わる腰掛けの天下り役員たち。
そのほとんどが、偉そうな口だけ叩く使えないオジサンとして社員たちから嫌われるわけですが、稀に”いい人”として名を残す役員も存在します。
「あの人はいい役員だった(もしくはマシな役員だった)」と言われる人の特徴は下記です。
- 現場の社員も顔負けなくらい仕事ができる(パソコンスキルが凄かったり、制度を合理的に変えたり)
- 社員に対して羽振りがいい(おごってくれる、いいお土産を買ってくれるなど)
- 社員の意見を真摯に訊いて、場合によっては取り入れてくれる・対応してくれる
これです。
一緒にしたら怒られるかもしれないし、そういうことではないと思われるかもしれませんが、
今回『クジラの〜』アニメ11話を観て、憤りで声高らかに反旗を翻そうとする印の双子・シコンとシコクが、会社の同僚たちと重なって見えてしまいました。
会社の人たちだって、役員がみんなスオウやタイシャ様みたいに、自分たちのことを心から思って尽くしてくれる人々ならば、もうちょっと仲良く頑張ろうと思うのかもしれません。
しかし、現実にそんな役員は現在いません。
社員の給与は定額で歩合制ではないので、頑張っても頑張んなくても手取りは変わりません。
社員がバカバカしい気持ちになるのもわかります。
若い社員が数年で辞めていくのも理解できます。
私だって・・・と思います。
こんなことを考えて、最近しみじみ思うのですが
同じ作品でも、何度も読み返したり、違う媒体(漫画とアニメ、漫画とドラマCD、アニメと小説など)で多方面から鑑賞すると
違った見方や新しい視点が宿ったりするんですね。
物語って奥が深いなぁと感じました。おわり。