毎日笑ってゴキゲンに過ごしたい。そう思う気持ちも嘘ではないですが
時折どうしても暗いもの、悲しいもの、怖いものに惹かれてしまいます。
自分の中の明るい部分と暗い部分のバランスをとるように。
そんなわけで、『SWEET CLOWN ~午前三時のオカシな道化師~』は暗いけど面白いゲームでした。
主人公の橿野柘榴17歳は、5年前に双子の弟と白樫の森で離れ離れになって以来、心の中の何かが欠けたままの女の子です。
ある日明らかに怪しげな"午前3時のお茶会"の招待状を受け取った彼女は、
そのお茶会の場所と日時が弟を失った日と同じであることに引っかかりを感じ、その危ないお茶会に出向いてしまいます。
そこで出会ったのは、柘榴と同じように「何かを失い欠けている」少年たちと、「スイートクラウン」と名乗る悪魔とその部下たちで・・・というような話。
BGMも背景デザインも全体的に不気味でダークでゴシックな雰囲気で、物語世界にぐんぐん引き込まれました。
イラストは綺麗で幼い感じで可愛らしいですが、キャラクターの性格は主人公の柘榴も含めて総じて悪くて、でもそこがいいと思いました。
明るくていい子で応援したくなるような登場人物には心が洗われますが、共感できるかどうかは別問題です。
その点、このゲームのキャラクターたちは、ゲスすぎて呆れてしまう人もいますが、「気持ちはわかる」と思わず共感してしまいます。
以下キャラクターの感想です。
【蜜原誠丞】
生まれついた美貌と両親から正しい愛を注がれなかったことによる歪んだ性格で女たらしのゲス野郎になってしまった少年。話せば話すほどクズ、でも嫌いにはなれないタイプでした。彼は演技をするのが大変上手な分、綺麗事を許せない純粋さと真理を見抜く慧眼を持ち合わせていて、そこは素直に感心しました。
「俺は最初から誰も好きなんかじゃないし、誰も信じちゃいない」
「”ありのままの貴方が知りたい?”綺麗事言うな」
「人間、知り合いには皆偶像を作る。興味があればあるだけ、偶像は膨らんでいく」
「そしてその通りの人物でなければ、人は失望する。”ありのまま”を受け入れる人間なんていないんだよ」
さすがよくわかっていますね、蜜原少年。私も肝に銘じたいと思います。
【久瀬蒼馬】
スイートクラウンの手によって柘榴のために作られた菓子人形の少年。魂は蜜原が生まれるときに失った双子の弟。菓子人形なので人生の記憶がほとんど無いけど柘榴のことを大切に思っている、都合のいい存在でした。こんな人形が1人くらいいたらいいかもしれません。
【古橋旺一郎】
パッケージデザイン的にメインヒーローっぽいのに影が薄い青年でした。物語の根幹に関わる元王子様で、スイートクラウンの双子の兄だった人。
【日之世武尊】
眼帯のイカれサド少年。とにかく頭おかしい感じの人ですが、柘榴と両想いになった後は結構可愛い男の子でした。ツンデレはやっぱりいいですね。いや、ツンデレとはちょっと違うかもしれませんが・・・一番性欲もありそうで、性格はゲスですが健康的な少年でした。
【真井知己】
このゲームの中で一番萌えました。実は柘榴の双子の弟であった少年。
双子の姉である柘榴のことが好きすぎて好きすぎて(もちろん性的な意味で)、己の欲に耐えられずにスイートクラウンの力に頼らざるをえず、5年前に離れ離れになったのでした。
血縁の兄弟なので、彼のルート(真相ルート)ではラブラブになることはありません。でも、どのエンディングも胸がきゅっとなるストーリーでした。
私は一人っ子なので姉弟の近親相姦ものには抵抗がなく萌えに萌えます。双子の姉と弟で愛し合う閉じた世界は歪んでいますが美しいと思いました。
【スイートクラウン】
骨のピエロみたいな姿をした悪魔。午前3時のお茶会を開いた首謀者。
彼の能力はゲーム全体の核なんですが、非常にユニークな能力ですね。「他人の願いを叶えることができるが、願いを叶えた本人をお菓子にして食べてしまう」という。
さらに、「スイートクラウンになると甘いお菓子と紅茶しか受け付けない体になる」って、面白すぎます。私もスイートクラウンになってみたい。
柘榴を次のスイートクラウンにしようとするのですが、スイートクラウンになるためには"欲"の力が足りない柘榴。強欲になればなるほどスイートクラウンに近づくのです。すごいなぁ、この設定ひらめいた企画者は天才です。
柘榴が攻略対象に恋心を抱き始め、好きになればなるほどお腹が減ってお菓子を食べずにいられなくなる様は、やっぱり不気味で怖いです。でも面白い。
恋の、相手の全てが欲しくて欲しくて仕方がなくなるどうしようもなさを巧みに効果的に描く素晴らしい設定だと思います。
【ネージュ】
サブキャラクターのロバでスイートクラウンの部下である悪魔なんですが、彼(彼女?)の一挙一動には本当に笑いました。多分登場人物の中で一番性格が悪いんじゃないでしょうか。でも好きです。
以下、ネージュの名言。
「卑劣なのは当たり前。人間なんて皆不幸のどん底に落ちて泣きわめけば良い。 その方がずっと面白いです」
「この面白さが分からないなんて哀れです。心から可哀想な奴ですよ」
共感しちゃいけないかもしれませんが、共感できて笑ってしまいました。
私だって、いつも他人の不幸を望んでいるわけではありません。
世界が平和になればいいと思うし、皆好き勝手して幸せになれればそれが一番いいとも思います。
しかし、世界はいつまでたっても平和になんかならないし、理不尽と不条理に満ちているし、綺麗事にはヘドが出るのが現実です。
そんな現実に揉まれて、時には「皆死ね」と思ってしまうことはありませんか?
私はあります。
そういう心の毒素をいい感じにエンターテイメントにした作品がこのゲームだと思います。
SWEET CLOWN ~午前三時のオカシな道化師~ オープニングムービー
音楽も本当に世界観によく合っていました。サントラ欲しいな〜。
前向きでおあつらえ向きな予定調和に辟易している乙女にオススメのゲームでした。おわり。