大変面白いBLゲームをプレイしました。
大正時代を舞台ないしモチーフにしたゲーム作品って、なんでか好きなものが多いです。
大正×対称アリス、月影の鎖シリーズ、蝶の毒花の鎖も確か大正時代だったような。
あらすじは以下。
時は大正末期。日本が軍事国家として世界と争わねばならない、熾烈な時代。 主人公・柊 京一郎は帝國大学へ進学するため、帝都へと上京する。 勉学に邁進し、郷里のためにひとかどの人物になると決意していた京一郎はしかし、 己が持つ特別な力のために軍部-大日本帝國陸軍-に目をつけられることになる。 死んだ人間――死霊が見えるようになったのは大病を患った幼少時。 その時からずっと京一郎にとって恐怖の対象でしかなかった死霊を、 軍部は外国の脅威に対抗するための力として用いようとしていた。 軍部とその計画を阻止しようとする者たちの対立が、 京一郎の運命を巻き込んで帝國の未来を変えていく――。
(公式サイトより)
とにかくシナリオが濃く、遊びごたえがありました。
キャラクターも魅力的だし、音楽も雰囲気に合っていて、難易度やオマケ要素の量もちょうどいい。素晴らしいゲームでした。
何より、プレイした後の余韻・読後感が心地よいのです。萌えるし笑えるけど、切なくて悲しくて、なおかつ考えさせられる。
重厚な物語世界にずっと浸っていたい欲に駆られます。
主要キャラクターの感想を書きます。
【主人公・柊京一郎】
総受けの帝大生。桃木村という田舎から、進学のために上京してきたお坊ちゃま。育ちの良さが前面に出ています。
いろんな運命が絡まって、霊が見えたり破魔の力を使えたりする異能を持っており、そのせいで帝都のいざこざに巻き込まれていきます。
そして後述しますが、神様をも籠絡する色気ムンムン美青年として描かれます。本人は無自覚ですけどね。そこもかわいい。京一郎かわいい。
お煎餅が大好物とのことで、物語の中でも度々お煎餅を頬張る場面があるのですが、私もすっかり感化されておやつが醤油せんべいになりました。
【時雨】
あまりよく考えず選択肢を選んでいったら、時雨のルートに入っていました。
時雨が照れたり余裕がなくなったりすると非常に萌えました。時雨も生まれつき異能を持ちつつ京一郎とは違った運命をたどり、孤児となって影の異能集団・五本刀に属することになるのですが、五本刀で大切に育てられてきたため、末っ子気質の愛され気質を持っているように見えました。
それでも彼は五本刀頭領として若いながらも奮闘し、面倒見の良さも併せ持つようになります。おかげで京一郎相手だと恋人時々オカンみたいな人になります。そこも愛しい。
【千家伊織】
登場人物の中で一番好きです。彼が登場した時、魔王オーラがすごくて一瞬で虜になりました。千家様最高。
千家は物語の大半で悪役として描かれ、ダークヒーロー的な立ち位置です。煮ても焼いても食えない性格ですが、難儀な生まれで過酷な人生を歩んできた苦労人でもあります。そして、その苦労を正当化するために、ひたすら国を憂い、強国・大日本帝國を熱望し暗躍する軍人。
千家は大変な読書家でもあり、彼の思考形態は独特なものを感じます。
例えば、京一郎と仲睦まじくなりつつも、互いの性別について京一郎が何か小言を言った時、彼は
「肉体など、所詮魂の器に過ぎない。
ただの器でしかないものに、
男だ女だと拘るなど愚かだ」
とおっしゃいました。
物語がそもそも心身二元論的世界観で描かれているので、こういう発言が繰り出されるのですが、二元論者でない私でもこの言葉は救いを感じました。
千家は幼い頃からとてつもない苦行と期待をその身に一心に受けて育ち、親も兄弟も全て失い、己と憂国だけを拠り所に生きてきた孤独な人です。
なので、神のような、信仰する対象にすがるような真似はしません。自分の人生に何の希望も持っていない、あらかじめ絶望から思考が始まっている人です。
でも、だからこそ強い。彼が戦いのときに静かに言った台詞が、かなりシビれます。
「私が神ならば、事は容易い。
ただ欠伸をこらえつつ、
この世の全てを消し去るだけだ」
(中略)
「飽かず欲を追い求め、権力に順い、裏切り、呪う。
神代の昔から纏綿と繰り返された営みごと吹き飛ばし、
空劫の零とするだけだ」
「しかし、どう足掻いても神ならぬ身であれば--」
千家は流れる仕草で刀を抜き放つ。
京一郎も躊躇わず抜刀した。
「-ー戦って勝つしかなかろうな」
かっこいいーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!抱いて!!!!!!
となってしまうではありませんか。惚れ惚れしてしまいます。千家様最高。愛しています。
【館林開】
千家と昔馴染みで、なおかつ正反対の軍人。伯爵家のおぼっちゃまでノーブル感全開ですが、忠義に厚い素敵な人だと思います。
部下思いで、清濁併せ呑む懐の深さも持っています。理想の上司キャラってところでしょうか。ちょっと堅物ですが。
でも、そんな堅物もお色気美青年の京一郎の前では形無しです。
館林がどうこうというより、館林ルートでの京一郎がとても可愛かったです。恋とはこういうものだよね、というのがよく表現されていました。
京一郎の妹・櫻子が欲しがっている楽譜がなかなか手に入らず苦労している、という京一郎の何気ない話を館林が覚えていて、何かのお礼の際にその楽譜を京一郎にプレゼントするシーンがあるのですが、
帰宅後一人になった京一郎が嬉しさと切なさがないまぜになった表情で楽譜を抱きしめる場面が大好きです。
何の気なしに話したことを覚えていてくれて、なおかつさりげなくプレゼントしてくれるなんて、それが好きな人からなら喜びもひとしおです。
でも、男同士だし、自分は学生で相手は軍人で貴族で、社会的にも身分的にも釣り合わない悲しさもあって、この恋心は誰にも悟られぬよう自分の胸にしまって大切にしよう、という健気な京一郎。まるで古文の和歌のよう。美しいです。
【ミサキ】
ほだされの神様。桃木村の神木と柊家のいろんな働きかけのために京一郎と繋がってしまった彼は、好色で世話焼きでヤキモチ焼きの、その辺の千家なんかより何倍も人間らしい神様です。とにかく京一郎にメロメロ。
真相ルートの最後で、力を使いすぎてちっちゃくなっちゃったミサキも面白くて可愛かったです。
でも、キスも満足にできずに、欲求不満になるだろうなぁとちょっと不憫にも思えました。
「神様なめんな」って、ミサキしか言えないかっこいいセリフが好きです。
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サブキャラクターも素敵な人がたくさんいます。女軍人の時任さんとか。かっこいい女性でした。
キャラクター感想文からいかに萌えたかお察しいただければ幸いなのですが、でもただそれだけではない作品でした。
特に思ったのが、国を憂うってすごいなということです。
お国のためとか御上のためとか、現代ではなかなか考えることってないのではないでしょうか。
私も普段から大変個人主義的で、「国とか会社とかそんなののことは上の人が考えるべき」「一人一人が自分の幸せを追い求めるべき」「一人一人が好き勝手するべき」みたいな思想に走りがちなのですが、この作品でそんな考えをするのは神様であるミサキだけです。
一介の学生である京一郎を始め、軍人である千家と館林も、五本刀の時雨でさえ、日本国や天皇のことを心から誇りに思っていて、未来を危ぶんでいて、国や天皇のために自分の命を費やすことを是としているのです。
それがいいとか悪いとかは個人の自由なのでなんとも思わないですが、素直に「すごいなー」と感心してしまいました。
自分の人生やさだめに大きな意義を見出して、それを信じて邁進している大正の人々。
ゲームはあくまでフィクションですが、かつてこの日本にはそういう人たちがいて、その人たちが戦争したり復興のために尽力したりした末に、今の私たちの日本での暮らしがあるのだなぁ、と、改めて実感したのでした。
こんなに重厚な物語世界を味わうことができる作品に出会えて幸せです。『大正メビウスライン』まさしく日本ゲーム史に残る傑作だと思います。おわり。