『純情ロマンチカ』にハマって以来、順調にBL趣味に走っています。。
純ロマの中村春菊先生の作品は、絵も可愛い系で話のテンポもコミカルで、必ず1話に1回セックスシーンがあり、どちらかというと1話完結型です。
だからサクサク読めるし、セックスシーンもそこまでエロく感じない、まさにファンタジー的なBL作品なんですね。登場人物がみんな妖精系男子というか。
対して今日とりあげる高永ひなこ『恋する暴君』は、もう少し大人のエッセンスが入った、ドキッとする作品です。
実は「BLってなんか面白いな」と感じ始めたきっかけのひとつが、『恋する暴君』のOVAを観たことだったりします。
数年前、夜中にいろんなアニメを無作為に鑑賞していて、BLだと知らずにテキトーに観始めたんですね。
そのとき、BLがこんなに笑えて、なおかつドキドキするものなんだと初めて知りました。
それからだいぶ時が経ち、今回原作を1から読み始め、まさかここまでだだハマリするとは思っていなかったです。
農学部の修士学生・森永哲博は、博士課程の先輩・巽宗一に5年も片思い中のゲイです。
先輩は過去に色々あり「ホモ嫌い」を標榜する気性の激しい変わり者。そんな"暴君"ながらも根は優しく人一倍気を遣う宗一に、自身がゲイであることと、宗一をずっと好きであることをカミングアウトしたのは1年前で、気持ちを受け入れられることはなかったものの、それまで通りそばにおいていてくれる宗一に、森永は感謝と苦悩を同時に募らせます。
そんなある日、友人であるゲイバーの店員・ヒロト君に相談するとあやしい催淫ドリンクを渡され、既成事実を作ってしまえとそそのかされます。先輩にそんな事ができるわけがないと捨てかけますが、ヒロト君の使用後の感想が思い出され、捨てきれずに結局自宅に持ち帰ってしまいます。
森永はタンスの奥へとそれをしまい込みましたが、その後たまたま森永の家で酒盛りすることになった宗一が、酔ったノリでそのドリンクを勝手に見つけて飲んでしまいます。
催淫ドリンクを飲んだ直後はなんともなかった宗一ですが、夜中に目を覚ますとクスリの効果がてきめん状態に。
酒の飲みすぎで具合が悪くなったと思った森永は宗一を介抱しますが、宗一の体の変化に気づいた森永は、理性を保てなくなり、とうとう宗一を抱いてしまいます。
宗一はその後、自分が男に抱かれた事実にうろたえ、森永に激しく怒ります。
森永は絶望に打ちひしがれ、宗一の前から姿を消し、大学を退学しようとします。
宗一は森永が姿を消すと、自分が抱かれた怒りとは別のイラつきが自分を支配していくことに戸惑い、森永に居なくなってほしくないという気持ちに気づきます。
そして、森永を退学させない手段として、森永とのセックスに応じていく宗一・・・。
それから、恋人でも友達でもない、摩訶不思議な2人の関係が始まります。
一緒に生活する中で、森永は「ひょっとしたら先輩も自分のこと・・・?」と感じる瞬間が何度かあり、その度に期待とそれを打ち消そうとする気持ちでごちゃごちゃになります。
一方宗一も、「ホモは大嫌い」という気持ちと「森永は嫌じゃない」という気持ちに上手く折り合いがつけられずモヤモヤする日々。
宗一の不器用さと森永の優しさがすれ違い、ある日とうとう2人の関係が終わりかねない大きな喧嘩をします。
森永はこれまで抱いてきた淡い期待が結局すべて幻想だったのかと絶望しましたが、周囲の人々からいろいろな事実を聞かされ、宗一が心の底から森永を嫌がっているわけでないことを知ります。
そして宗一は、森永と距離を置く中で自分は森永とどうなりたいのか、森永をどうしたいのか自分に問うようになります。
そして、森永がもう一度きちんと宗一と話し合おうとする場面で、宗一の気持ちがついにあふれ出します。
「オレのこと幸せにできるのは先輩だけですから・・・」
「・・・・・・ッ
・・・い
・・・いいかげんな・・・こと言うな・・・・・・!!
(中略)
お前は・・・いっつもそうだ・・・!!
センパイセンパイって寄ってきて・・・こっちのテリトリーまで入り込んで来るくせに
何かあるとすぐ黙っていなくなろうとする・・・!!」
「それは・・・
先輩の気持ちが解らないから・・・オレだって不安になる・・・
そばにいていいか解らなくなるんです・・・」
「なんでわかんないんだよ!
オレはホモが嫌いだ!!
けどお前は・・・
お前にだけは・・・オレは今までどうしてた!?
このオレがなんでそこまでしてるか・・・なんで・・・
お前にいて欲しいからに・・・決まってるだろ・・・!!」
「えっ・・・」
思わず叫んだ後に、自分でもびっくりした宗一。
そして、自分は森永にそばにいてほしいのだという気持ちに、やっと気づいたのでした。
もう、このシーンが本当に笑えて泣けて切なくて愛しくてたまりませんでした。
何かあるとすぐ手だの足だの出す乱暴者で、研究に没頭すると寝食を忘れる変わり者で、口も悪いし素直じゃない宗一が、
顔を真っ赤にして森永になんとか自分の気持ちを伝えようと四苦八苦するさまは、まさに「恋する暴君」。
タイトルがここまでピッタリな作品はなかなかないです。
そしてまたこの宗一が、濡れ場になると色っぽくて仕方ないんです!
長髪なのも手伝って、とにかくセクシー、お色気ムンムン。
思わず唸る宗一の色香は必見です。
『恋する暴君』は大体1冊に1回くらいの頻度でセックスシーンが入ります(スピンオフ作品など除いて)。なので純ロマなどに比べると、必ずしもいっぱいあるわけではないのですが、
その分詳細で繊細な心理描写がふんだんになされており、同性愛ならではの心の機微がよく描かれています。
BLはしばしばファンタジーとして扱われ、実際の同性愛とはセックスの手順も違っていたり、やたら体毛がなかったりして、
登場人物の男子たちはリアルの男性というよりはむしろ妖精に近い存在だと思うのですが、
『恋する暴君』はリアル男子と妖精の間くらいの印象をうけました。
BL特有のファンタジー加減はあるものの、
読む中で自身のセクシャリティを顧みるようにもなるというか、
性のあり方・考え方をもう一度再考せざるをえない部分があります。
特にハッとしたのは、第8巻での森永とその兄の会話です。
森永の兄は長年自分をノンケだと思っていた人で、普通に異性と結婚したけれども上手くいかず、そんなとき昔の親友・真崎(ゲイ)と再会して自分の本当の性嗜好に気づき始めます。
どうしていいかわからない森永兄は、身内のゲイである弟に思っていることをそのまま相談します。
「お前は・・・
明日から女性を愛せと言われて 出来るのか?出来ないだろ・・・・・・・・・!
セクシャリティーを超えるのは簡単なことじゃないぞ
時間がかかるのは当たり前じゃないか・・・!」
「・・・・・・っ」
「オレだって怖いんだ・・・
今までの 自分を丸ごととりかえるような・・・
それでも分かちあいたいと思うのは
真崎のこと大切だから・・・・・・」
兄の話を聞いた森永は、宗一も同じような気持ちなのではないかと思い至りました。
私はこの部分を読んで、自分が女性に恋愛感情を抱く可能性について考えてみました。
私は今のところ異性しか好きになったことはありませんが、それ以前に自分が女性であるということにいまだに納得しきれていない部分もあります。
一時期ずっと男の恰好をしていたのですが、そのときの方が気持ちも身軽だったしリラックスできていました。
でも、そのときも好きになった(恋愛感情を抱いた)相手は男性でした。
この先強く心惹かれる相手がもし女性であったら、私はどう振舞うのか、なんだかうまくイメージできませんでした。
好きな相手の性別と、自分の性自認。
時代と考え方が現在進行形で変わってきているとはいえ、まだまだマイノリティの苦悩は続くなぁ、と改めて感じました。
まあ、そんな難しいことを少し考えつつも、
『恋する暴君』は笑いと色気と愛に溢れた名作であることは間違いないです。とってもおすすめです。
「カッコ良くて男前で可愛くてっ色っぽくてっナイスバディでフェロモンだだもれ」の巽宗一を是非ご覧ください!!!おわり。