れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

お正月に観たい・読みたい『恋物語 ひたぎエンド』

今年も残すところあと数時間となりました。

年の瀬に、観たいなあと思うアニメがあります。

 昨年放送された『<物語>シリーズ セカンドシーズン』の終盤のお話です。

『<物語>シリーズ セカンドシーズン』のあらすじは以下のようなものです。

とある日本の田舎町に住む高校生・阿良々木暦は、春休みに襲来した吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに襲われたことで吸血鬼の体質を持つ人間となった。

それからの半年間、阿良々木暦は様々な怪異に関わった少女たちと出会い、その事件を解決していった。

夏休みが明け、私立直江津高校にも二学期が訪れようとしていた。怪異を克服したはずの少女達に新たな「怪異」が襲来する。

羽川翼の前に現れた炎の虎-「つばさタイガー」。
八九寺真宵と不死の亡者たち-「まよいキョンシー」。
千石撫子の恋心に絡む白い蛇神-「なでこメドゥーサ」。
忍野忍の過去に現れた正体不明の存在-「しのぶタイム」。
戦場ヶ原ひたぎに迫る死の運命-「ひたぎエンド」。
神原駿河の周囲に噂される悪魔様とは-「するがデビル」。

(Wikipediaより) 

そして今回ご紹介する「ひたぎエンド」のあらすじは以下のようなものです。

11月-千石撫子クチナワの怪異と同化し蛇神となってしまう。撫子が阿良々木暦を殺そうとしたその時、恋人の戦場ヶ原ひたぎは自分の命と引き換えに暦の命を助けてくれるように懇願した。ひたぎは撫子と取引をし、4ヶ月の猶予をもらう。-そして2ヶ月が経過した1月1日。ひたぎは一つの決断をする。

1月1日、詐欺師の貝木泥舟はかつて騙した少女の戦場ヶ原ひたぎからの電話を受ける。「騙して欲しい人間がいる」、と。咄嗟に沖縄にいるからと嘘をついて断ろうとする貝木だったが、ひたぎは沖縄にまで来ると言い出し、会うことになってしまう。話を聞くと騙す相手は千石撫子という少女らしい。撫子は蛇神となり、ひたぎとその彼氏である阿良々木暦を卒業式の日に殺すと予告しているという。あと74日の間に何とか彼女を騙し、ひたぎと暦の命を助けられないだろうか、という依頼だった。かつてひたぎの「奇病」を治す手助けをした怪異の専門家である忍野メメも行方不明となり、海外にまで探しに行っているが見つからない。こうなったらと藁にもすがる気持ちで貝木に依頼したのだと言う。

気の進まない貝木だったが、彼なりの考えからこの依頼を引き受けることになる。詐欺師・貝木の「神様騙し」という一世一代の大仕事が始まる。

(Wikipediaより)

原作は西尾維新さんのライトノベルで、いわゆる<物語>シリーズをそれなりにご存じでないと少し話が見えないかもしれません。

しかし、この『恋物語 ひたぎエンド』は、一連の<物語>のなかでも卓越して面白いと思います。

 

この話の主人公であり語り手である詐欺師・貝木泥舟は、前シリーズまでは、不吉な感じのイヤなオヤジといった印象なのです。

しかしこの「ひたぎエンド」では、一見嫌な奴に見える貝木の行動の根底には、彼独自の"哲学"とも言うべき理念が流れているのだと気付かされます。

貝木は千石撫子の部屋を家宅捜索し、撫子本人以外誰も開けたことのない「開かずのクローゼット」を開けます。

その中にあったのは・・・撫子がひそかに描き続けていた自作漫画の山でした。

後日、貝木はいよいよ撫子を騙しにかかりますが、あっけなくしくじり、撫子は自分に嘘をついた貝木を殺しにかかります。

そして「神様になりたくてなったわけじゃない」と言った撫子に、貝木は切り札を出すように訊くのです。「じゃあお前、漫画家になりたいのか?」と。

その質問ですべてを理解した撫子は、秘密を知られていたことに激昂し、あまりの羞恥心でうろたえます。このくだりがめちゃめちゃ面白いです。

しかしここからが最大の見せ場です。撫子にボコボコにされながらも、貝木は撫子を必死に説得します。それは詐欺やひたぎとの約束のためというよりも、もっと純粋に撫子のために語っているように見えます。

「千石。俺は金が好きだ」

「…………」

「なぜかと言えば、金はすべての代わりになるからだ。ありとあらゆるものの代用品になる、オールマイティーカードだからだ。物も買える、命も買える、人も買える、心も買える、幸せも買える、夢も買える―――とても大切なもので、そしてその上で、かけがえのないものではないから、好きだ」

(中略)

「逆に言うと、俺はな、かけがえのないものが嫌いだ。『これ』がなきゃ生きていけないとか、『あれ』だけが生きる理由だとか、『それ』こそは自分の生まれてきた目的だ―――とか、そういう希少価値に腹が立って仕方がない(後略)」

 

「貝木さんは、私のことなんか、何も知らないでしょう」

「色々調べた。だが、そうだ。何も知らない。重要なことは、何も知らない。お前のことは―――お前しか知らないんだから、だから、お前のことはお前しか、大切にできないんだぜ」

(中略)

「そしてお前の夢も、お前にしか叶えられない」

「……そんな、とっかえひっかえみたいな、適当なこと、してもいいの?」

人間は、と千石は言う。

俺は血を吐きながら、不明瞭な発音で答える。

「いいんだよ、人間なんだから。かけがえのない、かわりのないものなんかない―――俺の知っている女はな、俺のよく知っている女はな、今している恋が常に初恋だって感じだぜ。本当に人を好きになったのは今が初めてって感じだぜ。そしてそれで正しい。そうでなくっちゃ駄目だ―――唯一の人間なんて、かけがえのない事柄なんて、ない。人間は、人間だから、いくらでもやり直せる、いくらでも買い直せる。(後略)」

この最後の貝木の大演説とも言える名場面を読み返したくて、原作を買ったりもしました。

恋物語 (講談社BOX)

恋物語 (講談社BOX)

 

原作も勿論素晴らしいです。けれども、この場面は、是非ともアニメでご覧いただきたいと思います。

なんといっても貝木の声をやっている三木眞一郎さんが非常にいい仕事をされています。貝木をここまでいい男にできるのは三木さんしか居ません。最高です。

そして神前暁さんの音楽が、さらに台詞を引き立て、全体をよりドラマティックに仕上げています。

音楽、声、映像、そして言葉の力が物凄い相乗効果を生み、私の感情を強く揺さぶるのです。

 

私がこのアニメを「お正月(ないし年の瀬)に観たい」と思う理由は、まず第一に、この話が初詣のシーンから始まるからです。季節感がとてもマッチするのです。

そして内容も、新たな一年を迎えるのに、気持ちの上で非常に役に立つと思えるからです。

お正月に、ぜひお勧めしたい作品です。おわり。