れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

『チーズ・イン・ザ・トラップ』

2019年最初のエントリです。遅くなりましたがあけましておめでとうございます。

昨年末から夢中になって読んでいた漫画が『チーズ・イン・ザ・トラップ』!

徹夜で読み進めるほどハマりました。

チーズ・イン・ザ・トラップ(1)

チーズ・イン・ザ・トラップ(1)

 

近所の書店で立ち読みして、なんとなくずっと心に残っていて、ネットで続きを読み進めるうちにどんどん夢中になってしまい、今月はずーっとこの作品のことを考えていました。

 

原作は韓国のWEB漫画で、物語に出てくる食べ物や風習などもところどころ韓国に準拠してるのですが、翻訳版は登場人物の名前や土地名も日本に置き換えられていて、主人公の女子大学生の名前は「赤山雪」、その先輩で彼氏の名前は「青田淳」と、登場人物も全て日本語名がついています。

誰がどう翻訳してそうなったのか調べていませんが、このネーミングセンスがとても秀逸だと感じました。キャラクターと実にぴったりなんですよね。

物語においてキャラクター名の響きや字面というのはとても重要で、人格やオーラが名前と一致しているというのは、実はとても大切なことなのだと改めて実感しました。

また、この作品は書籍やLINEマンガなど複数媒体で翻訳されていますが、ところどころ微妙にニュアンスが違うのも印象的でした。あまりに面白い作品なので、思わず韓国語を勉強したくなるくらいでした。

外国の物語ではありますが、この漫画を読む限り、韓国も大なり小なり日本と似たような閉塞感があるのだなと感じました。だからこそ、というか、かなり自然に登場人物の思考や感情が心にすんなり馴染み、違和感なく共感できました。

 

***

 

『チーズ・イン・ザ・トラップ』は、主人公の女子大生で苦学生の赤山雪が学費を稼ぐために休学してやっと復学してから卒業するまでの、彼女を取り巻く群像劇です。

雪が、自分と同じタイミングで留学から戻ってきたお金持ちでイケメンの先輩・青田淳と出会い、そして彼と関わる中で実に様々な人間関係のいざこざに巻き込まれ、それを乗り越える中で人生において大切なたくさんのことに気づき成長していくラブコメディでありラブミステリーでもあります。

この作品は物語の構成も素晴らしいですが、何よりひとりひとりの登場人物がとにかく魅力的なので、キャラクター別に感じたことを記録していこうと思います。

 

【赤山雪】

主人公の女子大生。努力家で情に厚いですが冷静で賢い女の子です。弟が一人いる一般家庭の長女として育ちました。

決して裕福ではない家庭において、なるべく家族に負担をかけず、しかし自身の力でできるだけのぞむ人生を手に入れるべく、誰よりも勉強し、誰よりも努力して名門大学と呼ばれるA大学において学科主席をも掴み取る秀才です。

雪は余計な見栄や驕りのない、とても共感できる女の子でした。乙女ゲームの主人公ちゃんみたいな感じ。

それでいて決してただのお人好しではなくて、自分の我慢できないことや許せないことには精一杯抗うし、自分の汚い面や弱い面を省みて自己嫌悪することもある、とても等身大で人間らしい子です。

嫌いなやつとは関わりを断つきっぱりしたところもあります。優しい人だけれど、見方によっては冷たくもある、そういう人だと感じました。

 

【青田淳】

もーほんっとうに好きです。彼が出てきただけで面白い。”ミスター・チーズ・イン・ザ・トラップ”です。

世界的大企業Z企業の御曹司にして高身長の眉目秀麗、いつもにこやかで羽振りもいい死角なしの鉄壁イケメン・・・なんですが、それは彼が幼少の頃から抑圧されて育ってきた中でつくられた表の顔で、実際は他人に一切の容赦がない自己中王子様です。

その家柄のおかげで、彼の周囲にはいつもおこぼれをもらおうと思惑を持った人間ばかりが集まるので、心の底からくつろいで話せるような人間関係は彼には皆無だったのです。

にこやかに穏やかに周囲を意のままに操る淳のその本性を、独自の嗅覚で感知し警戒していた雪。そんな雪に気づいた淳は、最初は自分を見破られたショックと恐怖で雪に敵意を感じ、そこから2人は険悪な関係になっていくのですが、その途中で淳はだんだん嫌悪が興味に、興味が好意に転じていきます。

この描写もとてもリアルだな〜と思いました。第一印象が最悪で、その後急に好転して大好きになったこと、ありませんか?

私は新卒で勤めていたメーカーで、最初大嫌いだった上司が、ちょっとしたきっかけでそのあと大好きになってメロメロになった経験があります。

嫌悪という感情はある意味強い興味でもあるので、何かのはずみでどうにでも化けるんですよね。そのことを淳たちを見て改めて気づきました。

さて、青田淳がなぜ”ミスター・チーズ・イン・ザ・トラップ”かというと、彼が他人を陥れる様がまさにネズミを罠にかける様子そのものだからです。

淳はある意味サイコパスです。自分と、自分の大好きな雪、その周辺の人間以外は基本的にどうでもよく、自分や雪に害をなす人間には非道な仕打ちをします。

しかしその非道な仕打ちは、決して”淳が手を下した”とはわからないようにおこなうのです。

雪にしつこく付きまとうストーカーの横山翔、雪の持ち物を盗んだり難癖をつけてきた清水香織、自分や雪をはじめ後輩たちにタカリを繰り返す柳瀬健太など、この物語には悪役とも呼ぶべき困った登場人物がたくさん出てくるのですが、彼らはことごとく社会的裁きを受けます。

それは淳がクラスメイトや先輩後輩それぞれの性格や思考回路を読み、人々が自分の望むように動くよう餌を撒いてうまく誘導するからです。

このやり口が本当に毎回シビれました。ドミノが綺麗に倒れるように、登場人物たちが自然と淳の思惑通りに動き、ターゲットである悪役が追い詰められて行く様を読み進めて、なるほどだからこの作品のタイトルは『チーズ・イン・ザ・トラップ』なのだなと納得しました。

本当に頭のいい人というのは、勉強だけではなく人心掌握にも長けているのですね。。

全てが思惑通りに動いて邪魔者が消えた後の彼の涼しげな笑顔は最高です。

しかし、物語が進むと、そんな完璧冷徹王子の仮面が少しずつ剥がれていきます。これがまた面白かったです。

雪が大切で大好きで、そんな雪が自分や周囲の人間と関わる中でどんどん成長し変化して行くことで、淳は隠してきた自分の本性が全て暴かれる恐怖に苛まれていき余裕がなくなっていきます。

最後は涙を流してまるで幼い子供のようになってしまった淳も、逆に可愛くてしょうがなかったです。あー、好きだわー淳。

でももっと好きなのが・・・

 

河村亮

この漫画のキャラクターの中で1番好きです。亮は本当にイケメンで可愛くて愛いやつです。

異国の血を受け継ぐ亮は目鼻立ちのはっきりしたイケメンです。彼は幼い時に両親を亡くし姉の静香と2人親戚に引き取られるのですが、そこで叔母が静香に虐待するなど、なかなか波乱に満ちた幼少期を過ごしました。

淳の父が亮たちを引き取り援助したため、淳と亮たちは幼馴染となります。

亮は天性のピアノの才能があり、高校生になった頃にはその名声は凄まじいものでした。亮自身も自分の才能に自信満々でやや天狗状態でしたが、もともと裏表のないはっきりした性格だったので、打算的ないやらしさはなかったです。

しかしそんな彼のまっすぐさが、周囲の人間の羨望や嫉妬と複雑に絡み合い淳との間に軋轢を生み、そこから大きな事件が起き、亮の左手は潰されてしまいます。

ピアノが弾けなくなった亮は高校も中退し、自分の左手が壊れる事件の引き金を引いた淳への凄まじい恨みだけを宿し姿をくらませますが、ひょんなきっかけで戻ってきます。

初めは淳への復讐のために雪へ近づいてきた亮ですが、雪の素直さやひたむきさに触れるうちに雪へ好意を持ち始めます。

この、雪への好意を自覚したときの亮のいじらしさが・・・可愛すぎて胸がキュッとなりました。

亮は粗忽者に見えたりしますが本当は誰よりも優しくて情に厚い男です。淳が雪を好きな気持ちは恋で、そこには欲望が見て取れますが、亮が雪を好きな気持ちは恋でもありますが愛でもあり、とても謙虚な感じがするんです。

亮は雪のそばにいたいけれど、決して彼氏である淳から奪いたいとは思わず、ただ雪がひどい目に合わず笑顔で過ごせたらそれでいいと考えています。雪を自分が守れたら嬉しいけれど、必ずしも自分でなくても雪が危ない目に合わないならそれでいいのです。

淳は雪が危険にさらされた時、自分以外の人間(特に亮など)が雪を助けるとかなり気にくわないです。雪には自分だけでいいと思っています。これが2人の決定的な違いです。

亮が、雪のそばにいるために高卒認定試験の勉強を口実にして、雪に「勉強を教えてくれ」と請う場面がすごく好きです。本当に・・・亮が可愛くて可愛くて仕方ないです。

雪も亮に何度も助けられたし、その素直さに触れて亮を心から信頼しています。でも二人は恋愛関係にはならない。友情に近い、でもそれだけでは片付けられないほど強い結びつきを感じます。

亮と雪の関係性ってある意味で彼氏彼女の結びつきより尊いと感じました。家族愛に近いのかなぁ?うまく表現できませんが・・・でも、笑顔でいてくれたらそれでいいっていう、包容力に溢れた優しい愛情をもてる亮を本当に尊敬します。なんでそんなに利他的に愛せるのだろう、って。

雪が亮に勉強を教えるシーンや、亮がリハビリを始めて雪と並んでピアノを弾くシーンなど、心に残る名場面がたくさんあります。

また、亮には左手が潰れたことによる、輝かしかった過去への執着ともうあの頃には戻れないという深い絶望があるのですが、これがまた強烈に共感できてどうしようもなくなってしまいました。

私も中学や高校の頃の、勉強や部活やなんやらの、うまく行っていたときの幸福な気持ちや万能感の記憶があります。あれから15年近くが経ち、もうすぐ29歳になるというのに、いまだにそのころのキラキラした記憶が不意に切なく息づき、何もかもうまくいかない現在の自分が本当にどうしようもなくなるような感覚があります。

物語の最後、亮は自分をがんじがらめにしていた過去のしがらみを一つひとつ清算し、前を向いて再スタートを切ります。最終章の髪の伸びた亮のかっこよさと言ったらもう・・・最高です。

どうやったら亮みたいにまた前を向けるようになるのでしょう。雪のような、大切な誰かに出会わなければ無理なのでしょうか?

 

***

 

他にも雪の親友の伊吹聡美と福井太一、雪の弟・蓮など、魅力的なキャラクターがたくさん出てきて、彼らが恋や進路や様々な人間関係に悩み右往左往する様がとてもドラマティックで本当に面白かったです。

 

人と真剣に関わるって、やっぱりとても面倒だし骨が折れることだと思いましたが、だから面白いし、だからこそ物語になるんですよね。こんな、連勤明けに徹夜して読み進めてしまうほど面白い物語に。

他人から自分がどう思われるかとか、誰がどんな思惑で誰と付き合い何を言葉にするかとか、昔はすごくすごく考えていた気がするのですが、それこそ雪たちのように大学生になった頃から、私は逆に希薄になった気がします。

誰がなんと言おうと私は私だし、他人が何を考えてようがどういう思考回路だろうが、自分に害がなければ好き勝手すればいい、そんなさっぱりした気持ちで、他人に興味が全然もてない。いつの頃からかそうなっていました。

おかげで人間関係で思い悩むことはないし、雪のように振り回されることもほとんどないけれど、だからこそなんの思い出もないのです。

 

次から次へと災難が降りかかり、でもそれを乗り越えていく雪やその周囲の人々の様子はとてもエキサイティングで本当に面白い物語でした。が、振り返って自分を省みると、なんとも複雑な気持ちになる物語でもあります。

7年かけて連載されたようで、すごく重厚で長い物語なんですが、何度も読み返したくなる素晴らしい作品です。おわり。

 

書籍版は翻訳がなんとなくマイルドな感じがします。 LINEマンガは誤字がやや目立ちます。

チーズ・イン・ザ・トラップ(2)

チーズ・イン・ザ・トラップ(2)

 

 

チーズ・イン・ザ・トラップ(3)

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チーズ・イン・ザ・トラップ(4)

チーズ・イン・ザ・トラップ(4)

 

 

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