仕事に疲れてくさくさした心を癒してくれるのはアニメとお酒と乙女ゲームです。
オトメイトの人気作品『Collar×Malice』のファンディスク(続編)をここ数日だらだらプレイしていたのですが、本編のバッドエンド後のアナザールートともいうべき”アドニス編”がなんとも良い余韻を残していて、ずっと世界観に浸っていたい気分になっています。
Collar×Malice -Unlimited - PSVita
- 出版社/メーカー: アイディアファクトリー
- 発売日: 2018/07/26
- メディア: Video Game
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『Collar×Malice』という作品のあらすじは以下。
連続凶悪事件――通称【X-Day事件】が起き、危険な街となってしまった新宿で、警察官として働く主人公。
地域の安全のために日々奔走していた彼女は、ある夜、何者かに襲われ、毒が内蔵された首輪をはめられてしまう。
混乱する主人公の目の前に現れたのは、素性の怪しい男性たち。
元警察組織に所属していた彼らは、独自で凶悪事件を捜査しているのだという。
彼らを信用していいのかわからないまま、突如、大事件の鍵を握る存在となってしまった主人公。
死と隣り合わせの首輪を外すため、悪意に包まれた新宿を解放するため、彼らと共に捜査を開始することになるが――。
彼女の命は誰が握っているのか。そして、新宿が再生される日は来るのか――。
(公式サイトより)
『Collar×Malice』は物語自体はそこまで深みがあるものではないのですが、まずキャラクターデザインが秀逸で美しく、音楽も雰囲気にピッタリあっていて、とにかく構築された世界観が素晴らしいのです。
メインの攻略キャラクターたちはそれぞれイケメンで萌えるポイントをきちんとおさえていて、ゲームの難易度もそこまで高くなく、乙女ゲームとして大変よくできた優れた作品だと思います。
そして今回のファンディスクに追加された新たなシナリオ”アドニス編”のあらすじがこちら。
「私に残された希望は……たったひとつだけ」
新米警察官の主人公・星野市香がX-Day事件を追っている最中に起きた、ある“惨劇の日”から2年――。
テロ組織アドニスは警察の目から逃れ、水面下で再び計画を推し進めていた。
2年前のX-Day事件の際に“執行者”として利用した彼らを 正式な構成員として招き入れたことにより戦力も増え、
教祖・ゼロが主導する“X-Day計画”は再始動に向けて着実に進んでいく。
同じ2年前に“ある目的”のため、アドニス構成員として加入した星野市香は、ゼロの部下として組織に身を捧げ働いていた。
X-Day計画の再始動まで【あと30日】に迫った日。
ゼロから呼び出された主人公は密命を受ける。
それは――ユダ探し。
X-Day計画が目前に迫った今、2年前に加入した“執行者”が裏切るタイミングだと踏んだゼロは、 彼女に彼らを探るように命じた。
罪悪を抱える者、野望を抱く者、悪の道に誘った組織を憎む者―― 様々な思惑がうずまく執行者たちの中に裏切り者(ユダ)がいるはずだ、と。
最も疑わしいはずの自分になぜそのような任務を命じるのか。
ゼロの真意を疑いながらも、彼女は静かに動きだす。
これもまた、自身の目的を果たすための布石と信じて――
(公式サイトより)
いきなり重大なネタバレで申し訳ないんですが、テロ組織アドニスの教祖・ゼロの正体は、主人公・市香の警察学校時代の同期で親友の男性・冴木弓弦です。
本編で最初に見た時からルックスも声も大変好みで「なぜ彼が攻略対象じゃないんだ・・・!」と頭を抱えたものですが、物語の最重要人物と言っても過言ではないくらいキーとなるポジションの人です。
今回の”アドニス編”は、最初の【X-Day事件】を解決できなかったばかりか、仲間も最愛の弟の命も事件の最中で失った市香が、復讐のために自ら冴木の手を取りアドニスの中でその時を虎視眈々と狙う日々が描かれます。
冴木は深くは語られていないものの非常に複雑な生い立ちのようで、性格も人格もねじれ過ぎて破綻してて掴み所のないキャラクターです。
弱者が踏みにじられる理不尽な世界を変えたい気持ちは本物ですが、現実的にアドニスの目指す世界が創造不可能であることもわかっていて、でも今更ここまで進めてきた計画を放擲することもできないでいます。
自分にないものを持っている市香に確かに惹かれるものの、他の攻略キャラクターたちのようなわかりやすい恋愛感情ではなく、もっと強くて激しくてでも形をなさない執着心を抱いていて、その昇華の仕方もわからない・・・ものすごく難儀な人です。
一方の市香は、最愛の弟をはじめたくさんの大切なひとの命を奪ったアドニス、その教祖である冴木を心の底から憎んでいます。アドニスの新たな【X-Day計画】の開始の日に、組織を壊滅させ冴木を自分の手で殺す算段も完璧です。
しかし反面、警察学校時代からの長い付き合いの中で見てきた冴木を忘れることもできないでいます。たくさんの時間を共に過ごしてきた思い出が、今の冴木とうまく合致せず消化不良のまま憎しみの対象となっているのです。
冴木は市香が来たる日に自分を殺すことをわかっていて、まるで揺さぶりをかけるようにユダ探しのような密命を下したり、いきなりデートに誘ったりと不可思議な行動に出ます。
市香は戸惑ったり迷ったりしますが、最終的にはどうしても冴木を殺さないといけないという結論に至ります。
冴木も市香も、言ってみればもう余生みたいなものなんですよね。冴木はもともと世界に絶望しているし、市香もたった1人の心の拠り所であり家族であった弟を失い、仲間も失い、これ以上失うものがない。今更アドニスを辞めたところで、これまでおこなってきた人殺しの罪が消えるわけでもない。彼らはもともと警察官で、生来強い正義感を持っている人たちなんです。自分の正義や信念を曲げてまで生き延びることになんの魅力も感じないのです。
そうしてクライマックス、【X-Day計画】再始動の為に構成員が一堂に集まったところで市香の仕掛けていた爆弾で組織もアジトも粉々になり、誰も助からない終わりの中で市香は冴木に銃口を向け、2人は最後の会話を交わします。
このクライマックスが、とっても良い終末感なんですよねぇ。2人の世界が終わる感じ。諦めと、こうするしかなかったのかという悔しい気持ちと、もう頑張らなくて良いんだという仄暗い安堵がないまぜになったラスト。なんの教訓もオチもないけれど、不思議と心を掴まれるのです。
また、スチルが本当に美麗です。銃口を向けられて微笑む冴木のイケメンさときたら・・・ため息が漏れるほどです。花邑まい様(イラストの方です)、神です。
そしてここで流れる前作のメインBGM「モノクロの街」がさらに雰囲気をこれでもかと盛り立てます。
サントラ1曲目のこのBGM、ものすごく好きです。このエントリを書いている間もエンドレスで流してます。
この”アドニス編”の冴木ルートは、悲恋というには少し複雑な感じがします。そもそも恋なのか?というくらい甘さがないですし。
2人とも死んでしまうので悲劇とも言えなくはないですが、冴木の静かな諦念と絶望がやっと終わるのだと考えると、不思議と救いがある感じがするんですよね。全員死ぬのに。
最近気温も下がってどんどん空気が冷えていく季節になりますが、そういう時にこういう物語に出会うと、目がさめるような凛とした気持ちになれます。
深まる秋に心地よい終末感。癖になります。おわり。