れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

肉体関係と人間関係と性産業と:『目を閉じても光は見えるよ』

新年明けましておめでとうございます。

晦日から元旦へ向かう午前0時を跨いですぐ、なぜかBL漫画をダウンロード購入して読んでいました。

年明けから読み応えのある良作に出会えました。

年末年始、家族とともに過ごす方も多いと思いますが

改めて家族とか友達とか、人とのつながりの在り方について考えるきっかけを与えてくれる作品でした。

 

舞台はゲイビデオの制作会社です。

主人公の天羽光は人気急上昇のネコ男優。

そしてもう一人の主人公・猪原仁35歳は、ノンケ向けのAV男優として活躍していましたが、仕事仲間のマリ子さんが腐女子向けのゲイビデオレーベルを立ち上げる際にスカウトされ、ゲイビデオのタチ男優として光とタッグを組むことになります。

体の相性は良い二人でしたが、仕事以外ではほとんど関わりがありませんでした。

 

そんなある日、光の家にストーカーが侵入し部屋に猫の死体を送りつけられる事件が発生し、実は光と仁は同じマンションに暮らしていたことがわかります。

事件を解決する中で二人はだんだんと打ち解け、友人関係になります。

 

光は仁と付き合いが長いマリ子から、仁のとある過去について聞かされました。

それは、仁が昔、セフレだったAV女優に本気で惚れられて、避妊具に細工されて子供ができてしまった時のことでした。

「絶対堕ろせ 産むな 産んだとしても俺は絶対認知しないって一筆書かせ」た仁のことをマリ子は”男としてはゴミカス”と評しましたが、仁本人もそれに反論するつもりはないようです。

ここの、仁と光が釣り堀しながら仁の考え方について会話する場面が印象的で好きです。

「俺は特定の一人とつきあったり家庭を持つことに昔からまったく興味がなくて・・・

というか生理的に無理なんだよね

子供なんてできたら困るから避妊はキッチリ神経質にしてたし

用心してたんだけどなぁ・・・若かったし甘かった

怖いから俺もうパイプカットしちゃったよ」

私はここまで徹底した考え方を持つ仁をゴミカスとは思えませんでした。

仁はフツーの家庭で育ったそうですが、どことなく他人に対して冷めていて常識とズレているところがあると光は感じていて、だからこそ一緒にいて居心地がいいのでした。

 

ふたりが釣り堀で遊んでいた帰り、突如仁のケータイに連絡があります。

前述した仁の中学生の息子・斗真が万引きして捕まり、母親が連絡がつかず父親である仁の元に連絡が来たのでした。

元AV女優の母親は金だけ置いて恋人のところに行ってしまい、金を遣い切ってしまった斗真は腹が減って菓子パンを盗んでしまったとのこと。

店に頭を下げ斗真を引き取り3人で仁の家に向かう途中、仁と斗真は言い合いになります。

ここもなかなか読み応えのある場面です。

「他人にチンコ見せて金取ってる奴が偉そうにするんじゃねぇぞ恥さらし!」

「・・・・・・痛烈だな」

「薄汚え仕事しかできねぇド底辺のくせによく堂々と生きてんな」

「言っとくけど俺だって迷惑

急に君と暮らせだなんてまったく気がすすまない

でも俺は法的に責任があるから君の面倒をみなきゃならない

君も成人するまでは大人の保護のもとに暮らさなきゃいけない

それだけだ」

仁を冷たい父親だと思うことも可能ですが、これくらいハッキリ気持ちを伝えてくれる仁をある意味誠実だとすら思う私。

 

その後、斗真は隙を見て仁の家を抜け出し光の家に避難します。

光は思春期の難しい斗真にオロオロしながらも、放っておけず少しの間面倒をみることに・・・

だんだん光になついてきた斗真は、自分の家庭のことや学校でうまくいかないことをぽつぽつと吐露し始めます。

子供のことを1番に考えることができない元AV女優の母と現役AV男優の間に生まれた斗真。

運動神経抜群でサッカー部のレギュラーでもあった斗真ですが、ある日自分の母親のアダルト動画がクラスの間で拡散され、周りから笑い者にされて学校に行くのが億劫になってしまったのでした。

家庭内も、恋人にうつつを抜かして息子のことはお構いなしの母親と存在すらろくに認知していない離れて暮らす父親しかいない斗真は、「オレは・・・ひとりぼっちなんだよ」と光の同情を引こうとしおらしく振る舞います。

しかし、そこで「そんなことないよ」とか気休めを言わない光。

父も母も、1番とはいかなくても、何番かには斗真のことも大切に思っているかもしれないと励まし、切ない顔のまま続けます。

 「そういう・・・2番とか3番とか10番とか100番くらいの愛情を細かく稼いで生きてくしかないときってあるんだよ」

「普通オヤって子供に1番の愛情をそそぐもんじゃねえのかよ!!」

「普通なことばっかじゃないんだよ

でも・・・生きていかなきゃ」

励ましている様子が伝わって、斗真はいつしか光にメロメロになってしまいます。

仁のDNAを受け継いだ色気のある中学生・斗真にちょっとクラッときてしまう光もかわいくて笑えました。

 

まあ、すべての親御さんが子供を1番に愛してくれていればいいなとは他人事のように思いますが、現実にそんなことは全然ないことはよくわかっています。

人の親だと言っても、所詮はただの人間です。自分本位になって当たり前です。

最初は可愛かったかもしれない子供も、自我を持ちわがままになったら面倒になるかもしれないし、そもそも生まれる前から面倒に思う母親・父親だっているでしょう。

自分勝手だとは思うけど、どうにもなんないんでしょうね、きっと。いつの時代もそういう親はいるでしょう。斗真の母親のような。

 

もう一つ、斗真の境遇を見て”性産業で働く人”を取り巻く環境についても考えてしまいました。

大学の応用倫理の講義でもこの話題を何時間も掘り下げて議論したことがあります。

大学生の頃の私は、フェミニズム的な考えと、それでもあんまり女性の味方もしたくない、複雑な気持ちでレポートを何枚も書いていましたが、今でも先生が言っていたことを覚えています。

「性産業も一つの産業として成り立っているし、そこに需要も供給もあることは確か。でも、例えば母親がAV女優だったり父親がAV男優だったりする子供が、自分の親の仕事を誇りに思って周りに自慢できるかといったら、どうしてもそうはならないと思う」

話を聞いていた自分も、もし自分の親が・・・と思考してみましたが、やっぱり先生と同じ結論に辿り着きました。

自分の子供が周りにおおっぴらにできないからといって、性産業で働く事が絶対悪になるとは思いません。

光も、虐待されたり医療少年院送りになったりした辛い過去の末行き着いた今のゲイビデオの現場を充実していると感じているし、仕事を楽しいと心の底から思っていたし、仁も多少後ろめたい気持ちはありつつも自分の仕事を恥じたりはしていません。

「世界中に顔とケツの穴晒して仕事してんだよ・・・

今更おれに守りたいもんがあると思う?」 

上記は光のセリフです。光は綺麗な顔で普段は穏やかな青年ですが、このセリフの時は迫力がありました。

 

この話題をあまり掘り下げても仕方ないとは思いますが、光みたいな男優と、AV女優ではまた違う部分もあると思うんですよね。

社会システムもそうですけど、この性産業界、ひいては性に関するあらゆる面で未だに男性と女性の扱いの非対称性は強固だと思います。

 

なんにしても、一般企業のしがない営業マンとしてくさくさしながら働いている自分よりは、体張ってゲイビデオで稼いでいい仕事仲間にも囲まれている光や仁たちの方がずっと幸せだと思いました。

私は中度の男性潔癖性で世の中のほとんどの男の人に触ると気持ち悪くなってしまうのと、レズビアンでもなければ顔も体も人前に晒せるようなレベルじゃないので生涯性産業では働かないし働けないですが、もし働けたらもうちょっといい稼ぎにありつけたのになぁとしみじみ思うことはあります。

 

***

 

物語はその後、光の重い過去がネットに広まったりその過去の清算があったりすったもんだありますが、最終的には仁と光は互いを1番に愛し合うようになりハッピーエンドとなります。よかった。

いろんなBLがありますが、やっぱり愛に溢れたセックスが1番ですね。やっぱ愛でしょ、愛!

 

ま、そうは言っても愛とはそうそうありつけるものではありません。現実には。

そんなわけで、今年も物語の中の愛の夢をたくさん見て、心の栄養としながら孤独に生きていく所存です。おわり。