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れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

『五つ星をつけてよ』

文学

先日勤務時間中にこっそり図書館に行き、借りてきた本が面白かったです。

奥田亜希子『五つ星をつけてよ』。

五つ星をつけてよ

五つ星をつけてよ

 

奥田さんの小説は他に2冊読んでおり、ここにも感想を書いたものもありますが、

とにかく面白いです。

文章の読みやすさと巧みさ、シーンの描写や読後感など、どれをとってもハズさない。すごい作家さんだと思います。

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『五つ星をつけてよ』は、表題作を含む6作品の短編集です。 

まず最初の「キャンディ・イン・ポケット」からほろりと泣けました。女子高生の卒業シーズンを描いた作品で、今の時期にぴったりの物語でした。

学校カースト定位置の主人公・沙耶が、ひょんなきっかけで3年間登校を共にした日向の女の子・皆川椎子への羨望とコンプレックスと、ふたりの間の独特の友情がとても心に沁み渡ります。

2話目の「ジャムの果て」は一転して執着と愛情の押し売りの激しい未亡人・晴子が、自立した娘や息子に拒絶されてバランスが崩れていく、なかなかに痛々しい話、

3話目の「空に根ざして」は、30を過ぎた独身男性・手嶋宗喜が、かつて長いあいだ同棲していた元恋人の結婚を友人のSNSで知り落ち込む話・・・と、現代・時には未来に生きる様々なライフステージで事情を抱える人間たちの群像劇が次々と立ち現れます。

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この短編集は、主に東京オリンピックの2度目の開催が決まった頃から現在にかけての時代の空気を非常に巧みに切り取っていると感じます。

LINEやブログやtwitterfacebookinstagramAmazon食べログ、そして今も健在の2ちゃんねるなど、私たちが今多用している様々なサービスが、彼らの日常に確実に作用していて、どれも身近なものであるために、物語が自分にどんどん迫ってくる感覚があります。

そして最後の最後には、ハッとする仕掛けがなされていました。

この、いろんな物語をめぐって最後に読み手である自分に帰結していく感覚は、なんだかドキッとするし、ちょっと愉快な気分にもなります。

映画『ソーセージ・パーティー』のラストみたいな感じです(わかりづらくてすみません)。

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この本の中で私が特に好きなのは1話目の「キャンディ・イン・ポケット」と5話目の「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」です。

どちらも思春期の女の子特有の苦悩が描かれていて、私はもうとっくに思春期は過ぎているんですけど、なんだか共感してしまうのでした。

アスファルトを踏むノーブランドのスニーカー、背中で跳ねる、近所のショッピングセンターで買ったリュックサック、母親の友だちの美容院で切ってもらっている、肩のあたりで揺れる髪。椎子とはなにもかも違う。でも。

私たちは、毎朝三十分間だけの友だちではなかった。

変な趣味だと思われたくなくて、紹介できなかった漫画。気持ち悪いと思われたくなくて、家に置いてきた手作りのチョコレートクッキー。貸せばよかった。持ってくればよかった。社交辞令だと決めつけずに、遊びに行く予定を立てればよかった。スルーしないで返事ちょうだいよ、とメッセージを送ればよかった。

三年間、そばにいてくれた相手を、どうして信じられなかったのだろう。

奥田亜希子「キャンディ・イン・ポケット」『五つ星をつけてよ』 新潮社 2016.10.20)

この話は本当に好きです。単純にいい話だなぁと思うし、私にも三年間そばにいてくれたにもかかわらず、やっぱり信用していなかった相手がいるので、なんだか不思議な気分でした。

高校時代の私は、この話の沙耶のように地味なカーストにはいなくて、椎子ほどではないにしてもどちらかというと派手な部類でした。

三年間一緒に登校していたのは、やはり1年生の時に同じクラスだったバスケ部のサバサバした女の子で、学年が上がってきた頃には彼女の可愛い後輩もよく一緒でした。

三年間同じクラスで同じグループで過ごしたバトミントン部の女の子とは、1度くらいは学校の外で遊んだこともあったし、誕生日プレゼントを交換したりもしていました。

でも、そのどちらも、高校卒業後は全く連絡を取っていません。

一度だけ、大学1年の夏休みに昔のグループで集まったことがありましたが、それがあまりに楽しくなくてびっくりした記憶があります。

そもそも、高校を卒業した時点で、私は多分ケータイ(その頃はまだみんな二枚貝のようなガラケーでEメールが主流でした)のアドレスを変えて誰にも知らせず、ほぼすべての人付き合いをフェードアウトしたのでした。誰とも喧嘩もしていないし、円満な卒業式だったのですが、私はもうずっと「大学に入ったら誰ともつるまず一人で本読んで生活したい」と考えていたので、それを実行した形でした。

本当にみんな善良でいい人たちだったと今でも思うのに、また会いたいと全然思わないのはなんでなのか、やっぱり不思議です。

別に裏切られたこともないのに、どうして信じられなかったのか、それは結局この物語を読んでもわかりません。

でも、その”信用できない”気持ちはとてもよくわかるのでした。

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そんなこんなで、いろんな人間関係の中で感じる孤独を軽やかで少し意地悪なタッチで描いていく、とても親しみやすくそれでも心を刺してくる、素晴らしい短編集でした。

星をつけるなら文句なしの五つ星です。おわり。

 

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