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れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

女、男、取り分の差と暴力・・・『先生の白い嘘』

一昨日と昨日、仕事で研修に行ってきました。

営業の勉強会のような内容で、日中座学やディスカッションなどがあり、夜は2日間懇親会という名の宴会でした。

1日目の宴会ではテーブルが各グループごとに分かれた形となっており、余興なども用意されていました。

私の所属する業界では、営業マンはまだまだ男性の数が多く、各テーブルに女性は1人ずつしかいませんでした。

グループ対抗でゲームをいくつかやらされ、優勝チームには大したことない賞品が用意されていました。

私はもともと懇親会や飲み会が大嫌いなのですが、職業柄止むを得ずと考えていましたので、ちびちびビールを飲みながらご飯を黙々と食べていました。

ところが、ゲームがそこそこ盛り上がりを見せる中、部長や支社長レベルのオヤジたちの女性への(おそらく無意識レベルの)セクハラが目に余るようになってきました。

身体に触るという分かりやすいセクハラは、他の男性陣がワーワー避難したりもしますが、それもどこかおざなりというか、ニヤニヤしながら軽くいなす程度。

言葉でのセクハラについては、おそらく若い男性も含めてまったく気にとめられないようでした。

 

私はどんどんバカらしい気持ちになり、後半はずっと煙草を吸っていました。

 

女性陣の中には男たちのセクハラを逆手にとってうまく立ち回る利口な人もいました。(というか、実際私以外の女性は皆そうやってうまくかわしていたように見えました。)

でも私はその雰囲気自体がどうしてもダメで、不快感を押し殺すことができなかったように思います。

顔が険しくなったり、もともと良くない愛想がさらに悪くなったりしたかもしれません。

日中に聴いた勉強になる話が全部流れてしまうかと思うくらい腹立たしい気分になっていました。

 

どうしてあんなにイラついていたのか、そして今もモヤモヤした気持ちが消えないのはなぜなのか、

何に対してこんなに納得がいかないのか、未だに心の整理がつきません。

しかし、この気持ちは初めてではない気がするのです。

社会に出て、いろんな大人と働く中で、何度もこんな気持ちを味わってきたように思えるのです。

 

ふと、この、うまく言語化できない問題のひとかけらを、巧みに表現した漫画を最近読んだことを思い出しました。

それが鳥飼茜『先生の白い嘘』です。

先生の白い嘘(1) (モーニングコミックス)

先生の白い嘘(1) (モーニングコミックス)

 

Kindleで1巻無料だったのです。運良く。

結構話題になっている作品のようですね。

Wikipediaを見ると「レイプを題材にしている」とのことですが、私の読後感としてはレイプというよりは、もっと広い性差別とかジェンダーとか男女差の扱いの難しさのようなものを浮き彫りにした作品だと感じました。

 

主人公は高校教師の美鈴で、ひとえまぶたで内気な24歳です。

大学時代に友人・美奈子の恋人・早藤にレイプされ、以後脅されながら体の関係を続けており、強いストレスから生理は1年止まっています。不眠や味覚障害も自覚しているようで、見かけ以上に重い心の傷を抱えています。

そんな美鈴の受け持ちのクラスの男子生徒・新妻君は、ひょんなきっかけでバイト先の人妻熟女とホテルに行くことになってしまい、そこで自分の意に反してセックスすることになったのを「人妻にレイプされた」と考えていました。

ホテル街での目撃情報が教室で広まり、教師陣の命で美鈴は新妻君の事情聴取をすることになるのですが、そこで新妻君は「女の人のアソコが怖い」と打ち明けます。

この進路指導室での美鈴と新妻君の会話は、現代漫画史上に残る名場面だと思います。ここだけでも読む価値あります。

「あの日

どこまでが俺の「そうしたかった事」なのか

わかんないんです・・・今も」

「自分の欲求満たしておいて

自分のせいじゃなかったって言う話?

(嫌な話)

男の癖に・・・」

「先生も

セックスはいつだって男のせいだって思ってますか

その人はそういう風に言ったんです

あの時直前になってやっぱ違うって思って

「ここまでついて来たけどできません」って謝ったんです

でもすでに遅かった

空気が・・・もうそれまでと違ってたんです

それまでのすごい親切な俺の知ってる青田さんじゃなくなってた」

(嫌)

「俺 なんかその空気にのまれるって思って

のまれたら終わりだって気がして

フタしたんです 怖いって気持ちに

そしたら段々・・・途中から俺 わかんなくなっちゃったんです

違うし嫌だって思ったのに

もしかしてこれ 自分の意思なのかなあ?って

確かに怖いって逃げたいって思ったのに

逃げないでそこに居続けたのはなんで?って」

(嫌な話) 

新妻君の独白を聞いながら、自分の過去を思い出す美鈴。

ここでシーンは美鈴が早藤にレイプされた4年前になります。

 私が声をあげることをしなかったのは ある可能性に気づいたから

すべて私の

すべて女の自分のせいという可能性

 

生きてるだけでこんな目に遭う

私が女のせいで

女が女というせいで

そうして美鈴は自分がされた仕打ちは自分のせいだと思い込むようになったと言います。自分のせい、女のせいだと決めることによって蓋をした美鈴は、男である新妻君が被害者ぶった発言をすることで自分の蓋を開けられるような心地悪さを覚え、新妻君に当たります。

 「・・・みとめない」

「え」

「だって男だもん・・・

本気で逃げようと思ったら 力ではね返すことはできたでしょう?」

「力じゃない暴力もあると思います・・・

暴力の前でやるしかないから・・・やったんです」

「・・・力を持ってる側の人がそれを言うの?」

「だって先生 男も女も平等じゃないんですか?」

(平等のわけないだろう)

「知らないの?

女が正しく生きられないのが誰のせいか・・・」

(中略)

「男のせい・・・って言うんですか」

「他に誰がいる?」

「先生は正しく生きてないんですか?」

(そう私は正しさを失ったのだ)

「よく・・・わかんないですけど

男ってだけで先生がそんな怒ってるなら悲しいです

だって俺男に生まれたくて生まれたんじゃないし

先生も好きで女に生まれたんじゃないわけで

両方選べないのは同じなら 男とか女だとかで争わない方法があるんじゃないですか

(中略)

なかったら俺も先生もこの先救われなさすぎます」

(中略)

「アンタが怖いのは女のアソコじゃない・・・

男に生まれてしまった自分自身よ

ホテルであなたは男と女が平等じゃないって知ったのよ

女から正しさを奪って 女から自由まで奪ってしまえる

そういう不条理な力を持ってること・・・誰かに許されたいだけよ

でも大丈夫・・・そのうちすぐ慣れるよ

これから沢山の女をみにくく汚して生きていくの

自分ではそんな気なくても そういう風にしか生きられないの

そんなの誰も許してくれるわけない

少なくとも私は絶対許さない

絶対許したりしない」

この美鈴の慧眼、本当にびっくりしました。

SFとか不条理小説とかいろいろありますけど、こんな身近に一番耐え難い”不条理”があることを、というかそれをまさに”不条理”ということをすっかり忘れていました。

新妻君の言うこともわかるんです。性別を選んで生まれてきたわけじゃないし、こんな考え方じゃ救いがないのもごもっともです。

でも、本当に救いがないんですよ。どうしたって平等じゃないんです。

というか、社会に平等なものなんてありますかね?

 

この美鈴との会話をきっかけに、新妻君は美鈴に強い興味を持ち、急速に惹かれていきます。

他にも、学校一の頭脳派美少女で奥手処女の三郷佳奈、「女のコはみんなかわいい」というチャラいイケメン和田島君、グラビアデビューして謹慎をくらった和田島君の元カノでトップオブヒエラルキー・緑川椿などなど、個性的でそれぞれ問題を抱える登場人物たちが有機的に繋がっていき物語は進みます。

私はまだ4巻までしか読んでないんですが、5巻 の表紙は三郷佳奈でしたね。この子の過去も明らかになるのでしょうか・・・。

 

私が一番好感を持ったのは和田島君です。女のコはみんなかわいくてセックスが楽しくて「チンチン最高!!」とまで言い切る彼はチャラいですが潔いし健全に見えます。

早藤と違って処女マニアでもないしレイプは好きじゃないし、きちんと避妊しているし、大変いい青年ではないですか。

緑川椿もかっこいいです。私は勝気な美人が大好きです。強者ゆえの暴力的なまでの正論を吐いたりしますが、芯が通っていて尊敬できます。

「先生

もっと自分の体のこと大事にしなよ?

 

って他人に言えるほど先生は大事にしてんの?

他人の意識変えようって気で喋るんなら

せめて自分に嘘つかないくらいの責任もちなよ」 

シビれる〜!緑川椿、やっぱりかっこいいです。

 

逆に一番嫌いなのは、当たり前かもしれませんが早藤です。

こんな人、近くにいたら嫌ですね。

婚約者となった美奈子が妊娠し、赤ちゃんのエコー写真を見て吐く早藤を見たときは少し「ざまあ」と思いましたが、早藤の子供として生まれてくる子がなんか不憫で・・・。

早藤はさらに頭がキレるから腹が立ちます。

「こういう・・・二人で会うのも もうやめるから」

「なんで?」

「だって・・・これって暴力ですよね?」

「ぶはは

違うよ? だって今日も自分の意思で会いに来たじゃん俺に」

「だから・・・暴力をやめてもらうために」

「わかんねー女だな 暴力じゃないよって言ってあげてんの

もしこれが暴力だったら 傷付くの誰か 自分が一番わかってんじゃん

ホントは暴力された女になんか成り下がりたくないんだろ?

私は求められた女なんだって思い込めば楽になれるよ

暴力も愛も自分の思い込み次第って

女ってそういうエゲツない生き物だろ」 

この”ヤプーの幸福”的論理構成、それをお前が言うかって感じでした。

こういう考えのもと処女をレイプしてるんですね、この男は。

「暴力も愛も自分の思い込み次第」って、男の人はどうなんですかね。男性もそういう部分ってあるんでしょうか。

でも、早藤ほど鬼畜ドSでなくても、男性は多かれ少なかれこういう考えを持っているんでしょうね、多分。

オヤジであればあるほどその傾向は強いように見えます。

女に一方的に値札をつけて棚に並べたり汚したり壊したりするんでしょう。

自分も値付けされうることを、彼らはいつまでもいつまでも考えないんですね。

 

とても読んでいい気分になれる漫画ではありませんが、読んだほうがいい作品であることは間違いありません。

物語としても非常に面白い優れた作品ですし、この作品を通して少しでも性差やジェンダーに関する問題に思考が生まれれば、とても素晴らしいと思います。

そして、くだらないセクハラまがいの暴力が横行するインチキ懇親会が、一刻も早くこの世から消えればいいのにと切に願うのでした。おわり。