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れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

『海月姫』

Amazon無料試し読みでまたハマった作品がこちら。

海月姫(1) (講談社コミックスキス)
 

無料だった1巻と2巻はギャグ要素が強くて、普通に笑える漫画だったのです。

しかし、話が進むにつれて、ビジネスのグローバル化とデフレ、そして服とは・ファッションとは何かということについて描かれる場面が増えてきて、少し社会系な漫画にもなっています。

 

主人公のクラゲオタク・倉下月海18歳は、高卒で鹿児島から東京に上京してきます。ネットで知り合ったオタクコミュの下宿先”天水館”でアラサ―二―トの腐女子軍団”尼~ず”に加わり、毎日働きもせずオタクな趣味にふける日々を送っていました。

月海はある日ひょんなことから近所に住む金持ち政治家の次男で女装癖をもつ美少年・鯉渕蔵之介20歳と出会い、さらに天水館が町の再開発計画で存続の危機に陥り、蔵之介と尼~ず達は天水館を自分たちで買い取るために、月海の描いたクラゲのデッサンをドレスのデザインに見立ててファッションブランドを立ち上げます。

なんとかカジュアルラインまで作って原宿でアパレルの展示会に参加した蔵之介たちのもとに、アジアアパレル界を牛耳る実業家カイ・フィッシュが訪れ、偶然目にした蔵之介たちのブランド”Jellyfish”の作品、ひいてはそのデザインとデザイナーである月海に強い興味を抱きます。フィッシュ社長はついには月海を自分のシンガポールの服飾学校へ招待すると言い出して・・・、といったあらすじです。

 

この漫画はとにかくキャラクターの魅力が凄いんですよ。特に男性陣!も~良い男ぞろい!ヒーローである蔵之介はもちろん、蔵之介のお兄さんである鯉渕修(30歳童貞の政治家秘書)もいい。私はやっぱり奥手なやせ眼鏡が好きです。シュウシュウ兄ちゃんは服も行動もダサいし恋愛なんてとにかく不器用なんですけど、凄く優しくて人情に厚いんです。彼の告白シーンはグッときました。

そして蔵之介の父・慶一郎の運転手でベンツオタクの花森さんも面白い。とにかくベンツが好きで、その次に美人な女性が好きな人間のクズで、ベンツにつられて人の秘密をペラペラしゃべってしまう軽い男なのですが、とにかく面白い。憎めないチャラ男です。鯉渕家の金で遊びまくってるし。よくクビにならないな・・・。

そして一番気になる男がフィッシュ社長。彼はいつも穏やかなのにどこか怖い笑顔を浮かべていて、すらっとした長身で全身黒ずくめのスーツを着ているんですが、彼が出てくるだけでドキドキするんですよね。何言われるんだろう?ってひやひやするというか。ああいうクールなイケメンもいいですね。

 

そんなフィッシュ社長は、華僑の息子でシンガポールアメリカンスクール卒らしいのですが、13巻の最後の方を見るに、どうも孤児院かなにかの出身のようです(まだ13巻までしか読んでいません)。

フィッシュ社長が幼い時、欧米のお金持ち夫婦が、孤児院の優秀な子供を養子に貰いに来るという回想シーンがあります。

孤児院で一緒に暮らすヤン君が、夫婦に選ばれるために髪をきれいに切り、真っ白に洗った白いシャツを着るという策略を取りました。

ヤン君の作戦は大成功、彼はめでたく金持ち夫婦に貰われて行きました。

ヤン君を見送りながら、幼いフィッシュ社長は悟ったのです。人は装いで人生を切り開くことができること、装いは時として本人の能力以上に重視されることを。

フィッシュ社長がアパレル業界に進んだ原点がこの経験なんでしょうね。

このエピソードを読みながら、高城剛氏がよく著書で「白いシャツが一番入国審査で通りがいい」と書いていたのを思い出しました。

人は見かけによらないとも言いますが、人生でそんなにたくさんの人と深くかかわるわけではないし、たいていの人に対して、やっぱり人間は見た目で判断するんですよね。それは脳の情報処理的にも理にかなってると思います。

蔵之介も小さいときからミュージカル女優である母親の影響もあって洋服が大好きで、彼は見た目にとんと無頓着な尼~ず達に「鎧を身に纏え」と諭し、彼女たちをスタイリングします。

「いいか

着るもんひとつで人間これだけ変われるんだよ

 

だからってあんたらの服の趣味を今すぐ変えろって言ってるわけじゃない

おしゃれになれって言ってるわけじゃない

 

ただ

そんなカッコじゃ敵と戦えないってことだけ わかってくれ

悲しいけど世の中には

人を見た目で判断する奴がいっぱいいるんだ

もちろん敵もそういう奴らだ だから…

 

鎧を身に纏え!!!!」 

蔵之介にオシャレにされた尼~ず達が、これまた全然ウキウキしないんですよ。彼女たちのテンションが上がるのは、三国志や鉄道やクラゲなどの自分の好きなものと美味しい食べ物だけ。彼女たちにとって、オシャレな服はまさに鎧そのものです。

 

私は昔は蔵之介寄りで、小さい頃から洋服とかオシャレが好きで、お小遣いもバイト代もことごとく洋服やアクセサリーやヘアメイク代に消えて行きました。

昔は非常に限られた予算だったので、安くて微妙なものもいっぱい買ったし、失敗もたくさんしました。そのおかげで、10代後半頃には結構良い着こなしができるようになりました。放課後書店のファッション誌コーナーで端から雑誌を立ち読みし(お金無かったんですすいません・・・)、常にファッション市場の流れもチェックしていました。

そんな私が大学に入ってしばらく経った20歳頃、いきなりオシャレをしなくなりました。

少し体調を崩したのと、他にもいろいろあって、女の恰好をすることに疲れてしまったのです。そのころから私にとって、女のオシャレな服は重くてしんどい鎧になったのです。

それまで毎日ヒラヒラのワンピースドレスばかり着ていたのに、それらをすべて封印して、メンズの服ばかり着るようになりました。髪もショートにして、女子トイレに入るとびっくりされる程に男みたいになりました。

男の恰好をしていると、とても楽です。変に緊張しなくてもいいというか、性別についてあまり意識しなくて済むのです。女の恰好をしていると、何故か周囲の視線が気になるのですが、男の恰好をしているときはあまり他人の目を気にしません。

 

ところが社会人になって、また好きな人もできて、また少しずつではあるものの女の恰好もしようかなという気が起きてきました。髪も伸びました。

でも結局、昔のようにヒラヒラしたスカートで表に出ようとはしませんでした。

最近は、別に洋服は着るだけが愛で方じゃないとも考えるようになりました。

美しいシルクのドレスは、眺めているだけでも恍惚となります。別に毎日着なくても、持っていることで嬉しくなる服もあっていいと思うのです。・・・まあ着てナンボやろというのも分かるんですが・・・。

さらに、時代的にも今はそんなに物を持っててもねぇ、って感じであまり洋服を買わなくなりました。大学時代から何度も引っ越しを経験して、服はことあるごとにバンバン捨てました。やはり持ち物は少ない方がいいです。断捨離が流行っているような時代ですしね。

 

そういう背景もあって、現代のアパレル業界は非常に厳しいそうですね。このことは物語の中でもたびたび描かれています。

洋服についての漫画で真っ先に思い浮かぶのは矢沢あいParadise Kiss』ですが、あの漫画は私が小学生とか中学生のころの話で、あれからアパレル業界の様相はより一層辛辣なものになりましたね。

蔵之介がドレスの製作を発注したインドの会社の社長の妹・ニーシャが語る今のアパレル業界の説明はとても的確です。

 「見てみい街を歩いてる奴らの格好を

ハイブランドのコレクションラインをパクッた服着た奴だらけやんか

 

今のファッション界はハイブランドから下層の安いブランドまで シーズン後追いで高いほうから低いほうへ順番に同じデザインが伝わっていくんや

 

ハイブランドと似たようなデザインの服がどこそこで3千円で売ってんのに誰がわざわざこの不景気に高いほう買うんや

安い服をワンシーズンで着て捨てるんやから質なんてどーでもええ

 

ええか もう終わってんねん

アパレル業界は終わってんねん」

確かに日本くらい成熟した経済の国で、高い服をたくさん売るのはもう無理かもしれませんね。

もう、ヴィトンのバッグもシャネルの靴も「だから何?」って扱いだと思うんですよ。

そんなものよりオーガニックな野菜とか、旅行とか、野外フェスとか、そういうことに人々の関心は向いていて、一生ものとか逸品とか言って物にこだわるのはせいぜいバブル時代に青春を送った40代以降の人々なのではないでしょうか。

 

一方蔵之介は、ファストファッション店をリサーチした後、月海と修と3人で表参道で食事をしながらこう考えます。

このペラペラの服を着て

服と同じ値段のピザを食う

 

世界を変えなきゃダメだ

 

オレ達がやろうとしてるのはそういうことだ 

安かろう悪かろうなお手頃商品ばかりが売れるアパレル界をなんとかしたいと思う蔵之介。

蔵之介の母・リナは大の着道楽だったのですが、彼女のクローゼットには高価だが上質なものしか置いていなかったと蔵之介は振り返ります。

上質でいいものを作っても必ずしも高値で売れるわけではない現代。

フィッシュ社長も当然そのことをよく分かっていて、彼は高くていいものと安くていいものを両方作りながら、やはり世界を変えたいと思っています。

 

もう昔のように狂ったように服を買い漁ることはないと思いますが、やっぱり洋服について無関心になることはできないですね。

そりゃあ生物学的に生きるのに一番大事なのは水と食糧ですけど、社会的に生きるのに衣服は欠かせませんし。

さらに人間は装いで人を判断しますしね。

この物語を読みながら、自分にとって服とは何か、自分にとっての適正価格はどれくらいか、己に問い直したりしています。おわり。

 

海月姫(1) (KC KISS)

海月姫(1) (KC KISS)

 

こちらはもう少し穏やかな時代だった頃のアパレル物語。これを読んだ後に海月姫を読むと、本当に世界は急変していると実感できます。

Paradise kiss 全5巻 完結セット (Feelコミックス)

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