れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

いつの間にかめちゃ応援してた:『風が強く吹いている』

ヴァイオレット・エヴァーガーデン』以来とても泣いたアニメです、現在放映中の『風が強く吹いている』。

 

あらすじは以下。

寛政大学4年の清瀬灰二(ハイジ)は肌寒い三月、

類まれな「走り」で夜道を駆け抜けていく蔵原走(カケル)に出くわし、 下宿の竹青荘(通称・アオタケ)に半ば強引に住まわせる。

ハイジには「夢と野望」があった。

高校時代の怪我による挫折。

でももう一度、走りたい、駅伝の最高峰・箱根駅伝に出て、

自分の追求する走りを見せたい。その「夢と野望」を「現実」にするにはあと一年しかない。

そしていま強力な牽引者が彼の目の前に現れたのだ。

竹青荘は特異な才能に恵まれた男子学生の巣窟だった。

寮生のため炊事をこなすハイジをはじめに、大学に5年在籍している25歳ヘビースモーカーの ニコチャン先輩(平田彰宏)、

双子の兄弟・ジョージ(城 次郎)とジョータ(城 太郎)、

留学生のムサ(ムサ・カマラ)、実家が山奥のど田舎にある神童(杉山高志)、

司法試験に合格済の音楽フリーク・ユキ(岩倉雪彦)、

クイズ番組好きのキング(坂口洋平)、

金と時間のすべてを漫画に捧げる王子(柏崎 茜)...。

そんな個性豊かな面々が、その竹青荘が実は 「寛政大学陸上競技部錬成所」であることなど知らずに共同生活を送っていた。

ハイジは彼らを脅しすかし、奮い立たせ、「箱根」に挑む。

たった十人で。蔵原の屈折や過去、住人の身体能力と精神力の限界など、 壁と障害が立ちはだかるなか、果たして彼らは「あの山」の頂きにたどりつけるのか―。

「走りとは力だ。スピードではなく、一人のままでだれかとつながれる強さだ。」

 

アニメ公式サイトより)

 

今週放送された第16話は、主人公たちが満を持して箱根駅伝の予選会に出場し、ギリギリの記録で本戦出場が決定した回でした。

結果発表の、本戦出場が決まった瞬間、「よかった〜!!!!!!」と思わず号泣してしまい、そしてふと、物語と彼らの行く末にのめり込んでいた自分に気づきびっくりしました。

 

私は普段テレビでスポーツ観戦をしたりしないので、ワールドカップも甲子園もフィギュアスケートも、リアル世界の箱根駅伝でさえ必死に応援したり観戦したりすることはないのですが、毎週紆余曲折ありすったもんだしていたアニメの中の大学生たちに、知らず識らずのうちに心奪われ本気で応援していました。

スポーツの力ってすごいですね。物語上で、実世界ではないのに、ここまで心動かせるとは・・・本当に驚きました。

 

物語の始まりの頃、「箱根なんて絶対無理でしょ」って感じの10人だったのに、だんだんみんなが本気になってきて、まさかまさかで本当に箱根で走れることになって、ああ、本当に頑張ったね、よかったねって、自分でも引くほど感動しました。涙がこみ上げるってこういう感じでしたね。。久々だったのでなんだか少し戸惑ってしまいました。

私は何も頑張らずただ毎週娯楽として観ていただけなのに、どうしてこんなに胸に迫るのだろうととても不思議な気持ちです。

 

響け!ユーフォニアム』もそうですけど、若者がスポーツや芸術や勉学や、何かに打ち込む姿を見ると、自分が失った”何かに打ち込む・夢中になる楽しさ”をいやが応にも思い出して、胸が苦しくなるのかもしれません。

自分自身が、もう何にも無我夢中になれないから、この作品の登場人物たちのように必死に何かに打ち込む姿が眩しくて羨ましくて心動かされてしまうんですね。きっと。

原作も読んでみようと思います。おわり。

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)

 

 

 Kindle版もありますね。

風が強く吹いている

風が強く吹いている

 

 

恋と宇宙:Friendly Fires「Love like waves」

最近とても気に入っている曲があります。

Friendly Firesの「Love Like Waves」。


Friendly Fires - Love Like Waves

Friendly Firesの曲って全体的に宇宙っぽくて最近すごく気になっています。

特にこの曲は歌詞も雰囲気的に好きです。

恋の始まりの、自分ではどうにもならない、洗濯機の中に入っちゃったようなめちゃくちゃになるグルーヴ感が切なくも楽しく、繰り返し聴いてしまいます。

先日エントリを書いた『チーズ・イン・ザ・トラップ』も、この曲をBGMに読み進めていました。

 

恋愛って、現実に起きるものなのに、どこか別世界に連れ出してくれる麻薬みたいなところがあります。

この曲は、そういうトリップ感を巧みに表現した名曲だと思います。

 

***

 

私は、人間の脳って、つくづく宇宙的だなぁと考えるのですが、皆さんもそうなのでしょうか。

今の職場は美容関係で、お客様も同僚も上司も後輩も、みんな肉体の表面・容姿について日々考えサービスを提供しています。

私も、肌のターンオーバーの話とか、保湿の話とか、自社商品の説明なんかをしながら、ぼんやりと、その空間にぷかぷか浮かぶ人数分の脳を思い浮かべます。

お肌がいくらツルツルになっても、その表皮を剥げばみんな肉塊で、この視界に映る世界は全て視覚野で認知した映像に過ぎないんですよね。

この、脳と脳が作用し合い、恋愛とか敵意とか打算とか、様々な感情と関係が立ち現れては影響し合い世界が広がっていっている・・・そう考えると、つまらない人間関係も、なんだか宇宙的でワクワクするというものです。おわり。

Love Like Waves

Love Like Waves

  • フレンドリー・ファイアーズ
  • ダンス
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

『チーズ・イン・ザ・トラップ』

2019年最初のエントリです。遅くなりましたがあけましておめでとうございます。

昨年末から夢中になって読んでいた漫画が『チーズ・イン・ザ・トラップ』!

徹夜で読み進めるほどハマりました。

チーズ・イン・ザ・トラップ(1)

チーズ・イン・ザ・トラップ(1)

 

近所の書店で立ち読みして、なんとなくずっと心に残っていて、ネットで続きを読み進めるうちにどんどん夢中になってしまい、今月はずーっとこの作品のことを考えていました。

 

原作は韓国のWEB漫画で、物語に出てくる食べ物や風習などもところどころ韓国に準拠してるのですが、翻訳版は登場人物の名前や土地名も日本に置き換えられていて、主人公の女子大学生の名前は「赤山雪」、その先輩で彼氏の名前は「青田淳」と、登場人物も全て日本語名がついています。

誰がどう翻訳してそうなったのか調べていませんが、このネーミングセンスがとても秀逸だと感じました。キャラクターと実にぴったりなんですよね。

物語においてキャラクター名の響きや字面というのはとても重要で、人格やオーラが名前と一致しているというのは、実はとても大切なことなのだと改めて実感しました。

また、この作品は書籍やLINEマンガなど複数媒体で翻訳されていますが、ところどころ微妙にニュアンスが違うのも印象的でした。あまりに面白い作品なので、思わず韓国語を勉強したくなるくらいでした。

外国の物語ではありますが、この漫画を読む限り、韓国も大なり小なり日本と似たような閉塞感があるのだなと感じました。だからこそ、というか、かなり自然に登場人物の思考や感情が心にすんなり馴染み、違和感なく共感できました。

 

***

 

『チーズ・イン・ザ・トラップ』は、主人公の女子大生で苦学生の赤山雪が学費を稼ぐために休学してやっと復学してから卒業するまでの、彼女を取り巻く群像劇です。

雪が、自分と同じタイミングで留学から戻ってきたお金持ちでイケメンの先輩・青田淳と出会い、そして彼と関わる中で実に様々な人間関係のいざこざに巻き込まれ、それを乗り越える中で人生において大切なたくさんのことに気づき成長していくラブコメディでありラブミステリーでもあります。

この作品は物語の構成も素晴らしいですが、何よりひとりひとりの登場人物がとにかく魅力的なので、キャラクター別に感じたことを記録していこうと思います。

 

【赤山雪】

主人公の女子大生。努力家で情に厚いですが冷静で賢い女の子です。弟が一人いる一般家庭の長女として育ちました。

決して裕福ではない家庭において、なるべく家族に負担をかけず、しかし自身の力でできるだけのぞむ人生を手に入れるべく、誰よりも勉強し、誰よりも努力して名門大学と呼ばれるA大学において学科主席をも掴み取る秀才です。

雪は余計な見栄や驕りのない、とても共感できる女の子でした。乙女ゲームの主人公ちゃんみたいな感じ。

それでいて決してただのお人好しではなくて、自分の我慢できないことや許せないことには精一杯抗うし、自分の汚い面や弱い面を省みて自己嫌悪することもある、とても等身大で人間らしい子です。

嫌いなやつとは関わりを断つきっぱりしたところもあります。優しい人だけれど、見方によっては冷たくもある、そういう人だと感じました。

 

【青田淳】

もーほんっとうに好きです。彼が出てきただけで面白い。”ミスター・チーズ・イン・ザ・トラップ”です。

世界的大企業Z企業の御曹司にして高身長の眉目秀麗、いつもにこやかで羽振りもいい死角なしの鉄壁イケメン・・・なんですが、それは彼が幼少の頃から抑圧されて育ってきた中でつくられた表の顔で、実際は他人に一切の容赦がない自己中王子様です。

その家柄のおかげで、彼の周囲にはいつもおこぼれをもらおうと思惑を持った人間ばかりが集まるので、心の底からくつろいで話せるような人間関係は彼には皆無だったのです。

にこやかに穏やかに周囲を意のままに操る淳のその本性を、独自の嗅覚で感知し警戒していた雪。そんな雪に気づいた淳は、最初は自分を見破られたショックと恐怖で雪に敵意を感じ、そこから2人は険悪な関係になっていくのですが、その途中で淳はだんだん嫌悪が興味に、興味が好意に転じていきます。

この描写もとてもリアルだな〜と思いました。第一印象が最悪で、その後急に好転して大好きになったこと、ありませんか?

私は新卒で勤めていたメーカーで、最初大嫌いだった上司が、ちょっとしたきっかけでそのあと大好きになってメロメロになった経験があります。

嫌悪という感情はある意味強い興味でもあるので、何かのはずみでどうにでも化けるんですよね。そのことを淳たちを見て改めて気づきました。

さて、青田淳がなぜ”ミスター・チーズ・イン・ザ・トラップ”かというと、彼が他人を陥れる様がまさにネズミを罠にかける様子そのものだからです。

淳はある意味サイコパスです。自分と、自分の大好きな雪、その周辺の人間以外は基本的にどうでもよく、自分や雪に害をなす人間には非道な仕打ちをします。

しかしその非道な仕打ちは、決して”淳が手を下した”とはわからないようにおこなうのです。

雪にしつこく付きまとうストーカーの横山翔、雪の持ち物を盗んだり難癖をつけてきた清水香織、自分や雪をはじめ後輩たちにタカリを繰り返す柳瀬健太など、この物語には悪役とも呼ぶべき困った登場人物がたくさん出てくるのですが、彼らはことごとく社会的裁きを受けます。

それは淳がクラスメイトや先輩後輩それぞれの性格や思考回路を読み、人々が自分の望むように動くよう餌を撒いてうまく誘導するからです。

このやり口が本当に毎回シビれました。ドミノが綺麗に倒れるように、登場人物たちが自然と淳の思惑通りに動き、ターゲットである悪役が追い詰められて行く様を読み進めて、なるほどだからこの作品のタイトルは『チーズ・イン・ザ・トラップ』なのだなと納得しました。

本当に頭のいい人というのは、勉強だけではなく人心掌握にも長けているのですね。。

全てが思惑通りに動いて邪魔者が消えた後の彼の涼しげな笑顔は最高です。

しかし、物語が進むと、そんな完璧冷徹王子の仮面が少しずつ剥がれていきます。これがまた面白かったです。

雪が大切で大好きで、そんな雪が自分や周囲の人間と関わる中でどんどん成長し変化して行くことで、淳は隠してきた自分の本性が全て暴かれる恐怖に苛まれていき余裕がなくなっていきます。

最後は涙を流してまるで幼い子供のようになってしまった淳も、逆に可愛くてしょうがなかったです。あー、好きだわー淳。

でももっと好きなのが・・・

 

河村亮

この漫画のキャラクターの中で1番好きです。亮は本当にイケメンで可愛くて愛いやつです。

異国の血を受け継ぐ亮は目鼻立ちのはっきりしたイケメンです。彼は幼い時に両親を亡くし姉の静香と2人親戚に引き取られるのですが、そこで叔母が静香に虐待するなど、なかなか波乱に満ちた幼少期を過ごしました。

淳の父が亮たちを引き取り援助したため、淳と亮たちは幼馴染となります。

亮は天性のピアノの才能があり、高校生になった頃にはその名声は凄まじいものでした。亮自身も自分の才能に自信満々でやや天狗状態でしたが、もともと裏表のないはっきりした性格だったので、打算的ないやらしさはなかったです。

しかしそんな彼のまっすぐさが、周囲の人間の羨望や嫉妬と複雑に絡み合い淳との間に軋轢を生み、そこから大きな事件が起き、亮の左手は潰されてしまいます。

ピアノが弾けなくなった亮は高校も中退し、自分の左手が壊れる事件の引き金を引いた淳への凄まじい恨みだけを宿し姿をくらませますが、ひょんなきっかけで戻ってきます。

初めは淳への復讐のために雪へ近づいてきた亮ですが、雪の素直さやひたむきさに触れるうちに雪へ好意を持ち始めます。

この、雪への好意を自覚したときの亮のいじらしさが・・・可愛すぎて胸がキュッとなりました。

亮は粗忽者に見えたりしますが本当は誰よりも優しくて情に厚い男です。淳が雪を好きな気持ちは恋で、そこには欲望が見て取れますが、亮が雪を好きな気持ちは恋でもありますが愛でもあり、とても謙虚な感じがするんです。

亮は雪のそばにいたいけれど、決して彼氏である淳から奪いたいとは思わず、ただ雪がひどい目に合わず笑顔で過ごせたらそれでいいと考えています。雪を自分が守れたら嬉しいけれど、必ずしも自分でなくても雪が危ない目に合わないならそれでいいのです。

淳は雪が危険にさらされた時、自分以外の人間(特に亮など)が雪を助けるとかなり気にくわないです。雪には自分だけでいいと思っています。これが2人の決定的な違いです。

亮が、雪のそばにいるために高卒認定試験の勉強を口実にして、雪に「勉強を教えてくれ」と請う場面がすごく好きです。本当に・・・亮が可愛くて可愛くて仕方ないです。

雪も亮に何度も助けられたし、その素直さに触れて亮を心から信頼しています。でも二人は恋愛関係にはならない。友情に近い、でもそれだけでは片付けられないほど強い結びつきを感じます。

亮と雪の関係性ってある意味で彼氏彼女の結びつきより尊いと感じました。家族愛に近いのかなぁ?うまく表現できませんが・・・でも、笑顔でいてくれたらそれでいいっていう、包容力に溢れた優しい愛情をもてる亮を本当に尊敬します。なんでそんなに利他的に愛せるのだろう、って。

雪が亮に勉強を教えるシーンや、亮がリハビリを始めて雪と並んでピアノを弾くシーンなど、心に残る名場面がたくさんあります。

また、亮には左手が潰れたことによる、輝かしかった過去への執着ともうあの頃には戻れないという深い絶望があるのですが、これがまた強烈に共感できてどうしようもなくなってしまいました。

私も中学や高校の頃の、勉強や部活やなんやらの、うまく行っていたときの幸福な気持ちや万能感の記憶があります。あれから15年近くが経ち、もうすぐ29歳になるというのに、いまだにそのころのキラキラした記憶が不意に切なく息づき、何もかもうまくいかない現在の自分が本当にどうしようもなくなるような感覚があります。

物語の最後、亮は自分をがんじがらめにしていた過去のしがらみを一つひとつ清算し、前を向いて再スタートを切ります。最終章の髪の伸びた亮のかっこよさと言ったらもう・・・最高です。

どうやったら亮みたいにまた前を向けるようになるのでしょう。雪のような、大切な誰かに出会わなければ無理なのでしょうか?

 

***

 

他にも雪の親友の伊吹聡美と福井太一、雪の弟・蓮など、魅力的なキャラクターがたくさん出てきて、彼らが恋や進路や様々な人間関係に悩み右往左往する様がとてもドラマティックで本当に面白かったです。

 

人と真剣に関わるって、やっぱりとても面倒だし骨が折れることだと思いましたが、だから面白いし、だからこそ物語になるんですよね。こんな、連勤明けに徹夜して読み進めてしまうほど面白い物語に。

他人から自分がどう思われるかとか、誰がどんな思惑で誰と付き合い何を言葉にするかとか、昔はすごくすごく考えていた気がするのですが、それこそ雪たちのように大学生になった頃から、私は逆に希薄になった気がします。

誰がなんと言おうと私は私だし、他人が何を考えてようがどういう思考回路だろうが、自分に害がなければ好き勝手すればいい、そんなさっぱりした気持ちで、他人に興味が全然もてない。いつの頃からかそうなっていました。

おかげで人間関係で思い悩むことはないし、雪のように振り回されることもほとんどないけれど、だからこそなんの思い出もないのです。

 

次から次へと災難が降りかかり、でもそれを乗り越えていく雪やその周囲の人々の様子はとてもエキサイティングで本当に面白い物語でした。が、振り返って自分を省みると、なんとも複雑な気持ちになる物語でもあります。

7年かけて連載されたようで、すごく重厚で長い物語なんですが、何度も読み返したくなる素晴らしい作品です。おわり。

 

書籍版は翻訳がなんとなくマイルドな感じがします。 LINEマンガは誤字がやや目立ちます。

チーズ・イン・ザ・トラップ(2)

チーズ・イン・ザ・トラップ(2)

 

 

チーズ・イン・ザ・トラップ(3)

チーズ・イン・ザ・トラップ(3)

 

  

チーズ・イン・ザ・トラップ(4)

チーズ・イン・ザ・トラップ(4)

 

 

manga.line.me

どうしようもなく寂寥:「心の瞳」とグリッドマン

毎日いろんなアニメを観てるんですけど、ちょっとしたエピソードで泣けて、つくづく歳をとったなぁと感じます。

やがて君になる』の七海先輩の姉への投影とそれが両親や周囲の人々に受け入れられない葛藤とか、『寄宿学校のジュリエット』のペルシアが自分のせいで恋人がズタボロになってしまったことへの不甲斐なさと悲しみと悔しさとか、そういう登場人物の感情の起伏がいちいち心の琴線に触れて涙がホロリと出てしまうんですよね。

で、今日は『SSSS.GRIDMAN』を観ていて、物語に共感して泣いたわけではないんですけど、劇中歌で有名な合唱曲「心の瞳」が流れて、中学から高校にかけて何度も聞いたことのあるこの曲が、10年以上の時を経てこんなに心に響くものなのかと本当に驚いたので記録しておこうと思いました。


2年2組 心の瞳

 

私は中学3年から高校1年にかけて合唱部でした。

もともと音感があって音楽だけは何も努力しなくても得意で、ソプラノがとてもよく出るので歌うのは大好きでした。

中学でも高校でも学校行事でクラス対抗の合唱コンクールというものが毎年あって、クラスの誰よりも良く通るソプラノだったので得意げになってました。

歌の上手いクラスメイトたちにも恵まれて優勝した年もいくつもありました。けれど、この「心の瞳」は自分のクラスでも部活でも歌うことはありませんでした。

いい曲だとは思っていたけど他にもっと歌いたい曲があって、定番だけれどこの曲では優勝は狙えないとも考えていました。そして実際この曲は銀賞や銅賞のクラスの歌でした。

部活の地区大会や吹奏楽部でさえも、演奏の良し悪しと同じくらい選曲というのは賞に響くものです。いくら高い技術を持つチームでも、つまらない選曲をすると勝てないことがままあるのが音楽コンクールなのです。

「心の瞳」はメロディも美しいし、歌詞も年長者にとってはぐっとくるものがありますが、どこか平均点でどこか無難で当たり障りのない優しい歌、というのが長年合唱に携わっていた学生から見た感覚でした。

 

けれど、そんな青春をかけて合唱に打ち込んだ日々も遠い過去に消え、惰性で日々を生きる中年となった今の私には、「心の瞳」という曲はどうしようもなく沁みる歌となっていたのでした。

記憶に焼き付いているピアノの優しいイントロが始まっただけで、胸が締め付けられ切ない気持ちになり涙もろくなった瞳からほろほろ涙がこぼれ出します。

自分のクラスでも部活でも一度も歌ったことがないのに覚えているメロディと歌詞が口をついて出て、それと同時にもう戻らない若かった日々の思い出が次々と思い出されて苦しくなりました。

 

認めたくないけれど、あの頃の私は本当に本当に幸福で仕方なかったんだと思います。

何にでもなれて無敵で可能性しかなくて弱いけど速いから強くなれたんです。スーパーマリオBダッシュみたいに、七色に点滅してダメージを食らって小さくなっても意に介さず前進することができていました。そういう時代が私にとっては10代半ばだったんですね。

 

改めて、きっと私は死ぬまでその自分にとって輝かしい過去を拠り所にしながら生きてくんだろうなと思いました。ダサいしアホくさいししんどいけど、きっとそうなのだろうなと。

どんなに自己欺瞞しても、あの頃以上に幸せを感じられないのです。もうずっと、何年も何年も。

信じられないくらい楽しかったあの日々。もうかさかさになった手の中には何一つ残っていなくても、その記憶だけがよすがなのです。

毎週なんとなく観ているロボットアニメからこんなに哀愁を感じるとは思いませんでした。

 

あの素晴らしい愛をもう一度」とかもそうですけど、合唱曲って、中学生や高校生にとってはピンとこないけどなんか深いっぽい歌詞の曲が多いですね。

若さが永遠に失われて人生の苦さをしみじみ振り返るような歌を、若くて何にも怖くないようなあどけない子供の声で歌わせるというのは、なかなか倒錯してる感じがします。でもそのアンバランスさがいいのでしょうね、きっと。

おわり。

 

手紙を通して世の中を知る:『三島由紀夫レター教室』

先日青山の某コーヒースタンドに置いてあった『三島由紀夫レター教室』という文庫が面白くてハマってしまいました。小説を読んでこんなに爆笑したのは本当に久しぶりです。

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

 

三島由紀夫近代文学の中でも特に好きな作家です。こんなに美しい文章を書く人は後にも先にも彼しかいないとずっと思ってきました。

しかし、この『三島由紀夫レター教室』はもっとブラックユーモアに富んでいてなおかつ実用的で、とにかく笑えるエンタメ作品でした。

 

まず目次の一番最初が作中の登場人物紹介から始まるのですが、ここからすでに笑えます。登場人物紹介がそのまま登場人物の悪口なんですもん。しかもその悪口が上品な皮肉というか、とても巧みな悪口なのです。落語を一級品の文学にしたような。

  • マダム然とした未亡人の氷ママ子(45)
  • 元田舎者のちょいワルおやじデザイナー・山トビ夫(45)
  • 小悪魔OLの空ミツ子(20)
  • 舞台演出に情熱を捧げる堅物青年・炎タケル(23)
  • ミツ子の従兄でテレビ大好きダメ男の丸トラ一(25)

上記5名の、世代も境遇もバラバラな登場人物たちに共通するのが”筆まめである”ということで、彼らの文通がそのまま物語になっています。その様子を作者である三島由紀夫が俯瞰で見ているという構図で、こういう趣向もあるのかと感嘆しました。

 

まず面白かったのが、山トビ夫がエロオヤジらしく若いミツ子を口説きにかかる手紙で、そこでミツ子の肉体を賞賛する文章でした。

変態この上ない文章なのですが、不思議と可笑しくて笑えてしまうのです。

特に胸に関する記述はなんだか実にもっともだと思いました。

あなたの胸は、ふくれて、口をとんがらして、「何よ」と言ってるみたいな形で、かわいいこと、この上なしだ。胸が謙虚にうなだれていては困るのです。

(「肉体的な愛の申し込み」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4) 

確かに!!!とゲラゲラ笑ってしまいました。”謙虚にうなだれた胸”って・・・言葉のセンスが秀逸すぎます。

 

話は変わって、今回この作品を読んで改めて驚いたのが、三島由紀夫という作家が、あまりにも女について熟知しすぎているということです。ここまで女の生態を見抜いている男性が他にいるのでしょうか?

例えば次のような記述。

女の子から、「ちょっとイカすわね」と言われれば、うれしいにきまっているが、男は軽率に自分の男性的魅力を信じるわけにはいきません。

女の子というものは、妙に、男の非男性的魅力に惹かれがちなものだからです。しかし同性からそう言われたら、もう僕の男としての魅力には疑いがない。なぜなら向こうも男であるのに、その男が膝を屈して愛を打ちあけるのだから、僕の男性的魅力は、水準以上ということになります。 

(「同性への愛の告白」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4)

確かに男の非男性的魅力に弱いですね。私はもう女の”子”ではないですが、とてもしっくりきてしまいました。

ちなみにこれは炎タケルが同性の三枚目男優・大川点助からラブレターをもらってしまったことについて氷ママ子に相談している手紙なのですが、これに返答するママ子の文章がこれまたいいんですよねぇ。

大ていの女は、年をとり、 魅力を失えば失うほど、相手への思いやりや賛美を忘れ、しゃにむに自分を売りこもうとして失敗するのです。もうカスになった自分をね。

自分のことをちっとも書かず、あなたの魅力だけをサラリと書き並べた大川点助の恋文には、私たちは大いに学ばねばなりません。そして片ときも忘れぬようにしましょう。あらゆる男は己惚れ屋である、ということを。

(「同性への愛の告白」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4)

名文ですね。良すぎて唸ってしまいます。氷ママ子の手紙にはとにかくこういう名文が多いです。

恋敵をやっつけるなら、あらゆる悪らつな手を使って、うまく完全犯罪をおやりなさい。相手を見くびってはいけませんよ。相手はほんの小僧っ子でも、あなたが永久に失った「若さ」をもっているのは向こう様なのですからね。

そして恋愛にとって、最強で最後の武器は「若さ」だと昔から決まっています。

ともすると、恋愛というものは「若さ」と「バカさ」をあわせもった年齢の特技で、「若さ」も「バカさ」も失った時に、恋愛の資格を失うのかもしれませんわ。私にはそれが骨身にしみてわかっているつもりです。

(「恋敵を中傷する手紙」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4) 

ママ子様〜と跪きたくなるほどシビれるアドヴァイスではありませんか。見事に恋愛の資格を失っている私にも大変しみるお言葉でありました。

 

個性豊かでチャーミングな登場人物たちの中で、なんとなく一番共感できたのは丸トラ一です。

私はトラ一と違ってテレビは全く見ませんが、他人との距離感や言葉選びが一番身近に感じました。他力本願で怠け者なところもとてもシンパシーを感じます。

どうぞ、どうぞ、ほうっておいてください 。僕に一切かまわずにおいてください。僕はこれで十分幸福なのですから。他人の幸福なんて、絶対にだれにもわかりっこないのですから。

(「悪男悪女の仲なおりの手紙」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4)

ママ子とトビ夫、タケルとミツ子の2カップルの複雑な人間関係にうまく巻き込まれたトラ一が、タケルの己惚れた惚気の手紙にさらっと返信したこの葉書の文章で物語は終わります。

 

そしてこの先から、”レター教室”と銘打ったこの作品が、手紙を書く上での極意へと収束していきます。

手紙を書くときには、相手はまったくこちらに関心がない、という前提で書きはじめなければいけません。これがいちばん大切なところです。

世の中を知る、ということは、他人は決して他人に深い興味を持ちえない、もし持ち得るとすれば自分の利害にからんだ時だけだ、というニガい哲学を、腹の底からよく知ることです。

(中略)

世の中の人間は、みんな自分勝手の目的へ向かって邁進しており、他人に関心を持つのはよほど例外的だ、とわかったときに、はじめてあなたの書く手紙にはいきいきとした力がそなわり、人の心をゆすぶる手紙が書けるようになるのです。

(「作者から読者への手紙」『三島由紀夫レター教室』ちくま文庫 1991.12.4) 

私が人生でいちばんたくさん手紙を書いていたのは、おそらく中学生の頃だったと思いますが、もちろん田舎のクソガキだった当時の私はこんな哲学を知りませんでした。

クラスメイトとの秘密の打ち明けあいの手紙や、ネットの掲示板で出会った大阪や鹿児島のギャルとのプリクラ交換の手紙など、汚い字で実に多くの手紙を書いていましたが、結局その中のどれひとつとして記憶に残っている内容はありません。

私も、文通相手の彼・彼女たちも、みんな自分勝手で己惚れ屋で、相手に深い興味なんて抱いていなくて、その事実にまったく気づいていませんでした。

 

この先誰かに手紙を書くことがあるかわかりませんが、もし書くことがあれば、私は相手がまったく自分に関心がないことを前提として、ペンをとると思います。おわり。

情報化社会と夢と現実と:『CharadeManiacs』

また面白い乙女ゲームに出会ってしまいましたよ・・・!

CharadeManiacs - PSVita

CharadeManiacs - PSVita

 

次の日朝から仕事なのに、夜中の3時過ぎまで夢中でプレイしてしまう面白さでした。

キャラクターを1人また1人と攻略するうちに近づいていく事の真相、「現実とは?」と意識を揺るがす独自の世界観、それを盛り立てる音楽と美しいグラフィック、そして絶妙な声優キャスト陣・・・パーフェクトなゲームでした。

これだけ面白い物語に出会えると本当に嬉しくなります。

 

ストーリーと世界観の概要は以下。

【ストーリー】

近未来、とある都市。

夏休み間近、平穏な日々を送っていた高校二年生の主人公。

主人公が幼馴染と下校していると、突然目の前に現れた謎の人物に

『月が2つ存在する』奇妙な世界へと連れ去られてしまう。

気付いたときには、自分と同じ状況の人間が9人。

何が起こったかわからない彼らの前で、仮面の男は話を始めた。

「ようこそ異世界へ! アルカディアにいらっしゃい!」

「この世界は“ドラマ”を演じるだけで、なんでも願いが叶います!」

主人公たちは異世界から現実世界に戻る為ドラマを演じることとなり、

仲間たちと協力してドラマをこなしていく。

しかし、10人の仲間の中に自分たちをこの世界へ連れてきた 『裏切り者』が紛れている事実を突きつけられてしまう主人公たち。

『裏切り者』の目的は、ドラマが行われる本当の理由は……。

疑心と信頼の間で揺れ動きながら、最後にとるのは誰の手か―― 

 

【世界観】

舞台は、人々の生活がシステムによってより快適に、

より幸せに活動できるようになった近未来―

厳重なセキュリティに守られた社会では、人々は豊かな生活をおくっている。

情報は全て検閲されている社会だったが、

主人公の周りには『ある都市伝説』が実しやかに囁かれていた。

――異世界配信。

そう呼ばれる違法動画は、誰が何のために流しているのか、

そういった内容は一切わかっていない謎の多い配信動画。

恋愛、サスペンス、ミステリー…… テレビやネット、日常で見ているありふれた内容のドラマを配信しているという。

情報が規制された社会で、何故こんな都市伝説が噂となって伝わっているのか。

それはおそらく、配信動画の噂と一緒に流れてくる話のせいだろう。

異世界配信に役者<キャスト>として出演すると、代わりになんでも夢が叶う』

誰が、何の目的で配信し、『どこ』で撮影されているかはわかっていない。

しかし、その撮影場所に行くことができれば、ドラマに出演することができれば 代わりに何でも願いが叶うという。

夢のような噂話は都市伝説となって広がってゆく。

豊かな生活を送っているが、厳しい情報規制をされている『彼ら』にとって、 そこはまるで『異世界アルカディア>』だった。 

 

公式サイトより)

 

物語の最初に主人公・ヒヨリの家で飼っていたペットの犬型ロボット・パルトが機械の寿命と廃盤で部品がなく永眠するという出来事があります。

ペットもロボットになるとこういう風になるのかぁと妙に感心しました。

 

人々は皆”バングル”と呼ばれる端末を身につけていて、連絡を取る手段も動画や画像や書籍データを見るのも生体情報を把握するのも全てバングルでの操作です。

現代のスマートフォンがもっと身体とつながりあって、さらにそれを情報局という国の中枢機関が全て集約し管理している世界が舞台である2100年以降の日本なんですが、こういう未来って実際もっと早く訪れそうだなと思いました。

さらに主人公たちが攫われた”月が2つある世界”というのはある種の電脳世界で、肉体は現実の世界で眠っていて、意識情報だけが月面基地と呼ばれる異世界に転送されている状態です。いわば「夢を見ている」状態だそうです。

元いた世界から見れば異世界はヴァーチャル・リアリティということになるのですが、主人公たちはそこで五感を全て感じることができます。お腹も減るし、食べ物の味もわかるし、痛みも疲労も感じる。少なくともそこが夢だとはずっと認識できなかったくらい現実だと思い込める世界だったわけです。

いくつかのルートで、エンディングに主人公たちは元いた”現実”の世界に帰って行くわけですが、果たしてそこは本当に現実なのか?異世界と元いた世界と、根本的な違いは論理的に説明できないのです。自分にとって都合のいい場所を「現実」と呼んでいるだけにすぎない。

すごくワクワクする未来だなぁと思いました。もしこの先食糧問題や環境問題など、人類が物理的に地球で生活できなくなってきたら、私たちはネットワーク上に世界を構築して、情報空間の中で生きるようになるのではないでしょうか。

そうしたら、肉体に縛られなくて良くなるんですね。容姿も性別も記憶も”情報”だから書き換えられる。意識だけが存在している・・・まさに夢みたい・・・なんて夢想してしまいます。

 

***

 

『CharadeManiacs』は世界観も大変優れていますが、乙女ゲームとして萌えもきちんと兼ね備えている作品です。

以下攻略した順にキャラクター感想。

【双巳リョウイチ】

第一印象から胡散臭い年上のお兄さん。正体は異世界のスポンサーと呼ばれる狂信者でした。頼れるアニキ系だけれど、底知れない怪しさと怖さが滲み出るいいキャラでした。

【獲端ケイト】

オカン系男子。料理がとても上手なツンデレで、主人公のヒヨリと喋ってるといつもツンケンして喧嘩っぽくなってしまうところが可愛かったです。根は優しい。

【射落ミズキ】

ゲームの真相までたどり着いてもなお男か女かわからないイケメン情報局員。とにかくかっこよかったです。声も最高。ずっと聞いていたくなる声です。グイグイくるずるい大人って感じが素敵です。

【茅ヶ裂マモル】

人間と異世界人のハーフという特殊な大学生。最初はなよなよすぎて頼りない感じでしたけど、意外と最後は萌えました。

【明瀬キョウヤ】

射落さんの部下的なお兄ちゃん。いい人だけど意外と存在感薄いかも・・・。

【萬城トモセ】

主人公ヒヨリの幼馴染の年下男子。とにかくヒヨリが大好きなのが伝わってきました。ずば抜けた演技力と表現力で、最後シャレードゲームに勝利するところはカッコよかったと思います。

【凝部ソウタ】

引きこもりゲーマーで主人公の同級生。チャラチャラしてるけど切れ者で負けず嫌いなところと、みんなとの会話での飄々とした返しがとても面白い人でした。周囲をイライラさせることを自分で類い稀なる才能と言い切るポジティブさが最高でした。

【陀宰メイ】

前回の異世界配信に巻き込まれたせいで大切なものを色々奪われた不憫なヒヨリの同級生。陀宰君ルートで無事彼が報われた時は心底よかったよかったと感動しました。しかしほぼ物語全体の真相に近づき、途中からその先のラスボス的な廃寺の方が気になって仕方なかったです。

【廃寺タクミ】

物語全体の真相でありラスボスであり異世界配信の創設者の人工知能くん。

30年前に進行していた2つの月を使って世界をよりよくしようとしていた「モルペウス計画」の実行メンバーであった研究者・ヒヨリの祖母によって生みだされたAIである廃寺は、事故で生みの親であるヒヨリの祖母をはじめ周囲の人間を全て失い、孤独の中で異世界配信をつくり出し現実世界の人々を巻き込んでいたのでした。

世界が電脳空間なら、AIだろうがプログラムだろうが人格があればもう人間ですね。廃寺くんを見てそう思いました。AIも恋するんですね。とても萌えました。廃寺くん見た目もタイプだし。

登場人物が皆高校生以上の中で、最初廃寺くんだけが12歳の小学生で、漢字も読めないし全然ものを知らないしいつもぼーっとしてるんですけど、見た目はどう見ても12歳じゃないので完全に怪しまれてました。

ストーリーの終盤で廃寺くんと凝部の掛け合いがあり、そこで初めて見せる廃寺くんの悪い顔がとてもツボでした。悪い廃寺くんいいな〜好きだな〜。

彼のルートだけBADエンドが複数あるんですが、ヒヨリを異世界に閉じ込めちゃうエンドがヤンデレっぽくてとても好きです。

真相エンドではヒヨリに現実世界に持ち帰られてパルトの中に入ってしまいます。攻略対象が犬型ロボットのペットになるエンドとは・・・大変斬新な乙女ゲームですね。革命的です。でも可愛いからアリです。

 

結局トロフィーをコンプリートする頃には廃寺くんで頭がいっぱいになってしまいました。さすが真相くん。でも射落さんもかなり好きです。

 

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あ〜本当に面白かったです!システムも快適だったし、全体的なデザインもとても好みでした。輪るピングドラムみたいなパステルカラーの近未来的な雰囲気で、音楽もポップテクノっぽい感じで、とにかく世界館の作り込みが素晴らしいです。

それでいてきちんと哲学的なSF要素が取り込まれていて、思考実験の材料としてもとても優れていると感じます。

このゲームみたいな世界が早く現実になればいいと思いました。脳だけで過ごせる世界。バングルで意識がネットワークと繋がれる世界。自分の存在・自意識がデータとなって改変可能になる世界。ああ〜夢のよう。

 

また、それぞれの事情で集まった10人の中に紛れる裏切り者を探し当てるという人狼的要素もとても面白かったです。謎解きってこんなに面白いんですね。推理ゲームの真髄を見せつけられた気がしました。

萌えとエンタメと哲学が織り混ざった傑作ゲームでした。おわり。


PS Vita「CharadeManiacs」 プロモーションムービー

終末感に浸りたい:『Collar×Malice -Unlimited』

仕事に疲れてくさくさした心を癒してくれるのはアニメとお酒と乙女ゲームです。

オトメイトの人気作品『Collar×Malice』のファンディスク(続編)をここ数日だらだらプレイしていたのですが、本編のバッドエンド後のアナザールートともいうべき”アドニス編”がなんとも良い余韻を残していて、ずっと世界観に浸っていたい気分になっています。

Collar×Malice -Unlimited - PSVita

Collar×Malice -Unlimited - PSVita

 

 

『Collar×Malice』という作品のあらすじは以下。

連続凶悪事件――通称【X-Day事件】が起き、危険な街となってしまった新宿で、警察官として働く主人公。

地域の安全のために日々奔走していた彼女は、ある夜、何者かに襲われ、毒が内蔵された首輪をはめられてしまう。

混乱する主人公の目の前に現れたのは、素性の怪しい男性たち。

元警察組織に所属していた彼らは、独自で凶悪事件を捜査しているのだという。

彼らを信用していいのかわからないまま、突如、大事件の鍵を握る存在となってしまった主人公。

死と隣り合わせの首輪を外すため、悪意に包まれた新宿を解放するため、彼らと共に捜査を開始することになるが――。

彼女の命は誰が握っているのか。そして、新宿が再生される日は来るのか――。 

 

公式サイトより)

『Collar×Malice』は物語自体はそこまで深みがあるものではないのですが、まずキャラクターデザインが秀逸で美しく、音楽も雰囲気にピッタリあっていて、とにかく構築された世界観が素晴らしいのです。

メインの攻略キャラクターたちはそれぞれイケメンで萌えるポイントをきちんとおさえていて、ゲームの難易度もそこまで高くなく、乙女ゲームとして大変よくできた優れた作品だと思います。

 

そして今回のファンディスクに追加された新たなシナリオ”アドニス編”のあらすじがこちら。

「私に残された希望は……たったひとつだけ」

新米警察官の主人公・星野市香がX-Day事件を追っている最中に起きた、ある“惨劇の日”から2年――。

テロ組織アドニスは警察の目から逃れ、水面下で再び計画を推し進めていた。

2年前のX-Day事件の際に“執行者”として利用した彼らを 正式な構成員として招き入れたことにより戦力も増え、

教祖・ゼロが主導する“X-Day計画”は再始動に向けて着実に進んでいく。

同じ2年前に“ある目的”のため、アドニス構成員として加入した星野市香は、ゼロの部下として組織に身を捧げ働いていた。

X-Day計画の再始動まで【あと30日】に迫った日。

ゼロから呼び出された主人公は密命を受ける。

それは――ユダ探し。

X-Day計画が目前に迫った今、2年前に加入した“執行者”が裏切るタイミングだと踏んだゼロは、 彼女に彼らを探るように命じた。

罪悪を抱える者、野望を抱く者、悪の道に誘った組織を憎む者―― 様々な思惑がうずまく執行者たちの中に裏切り者(ユダ)がいるはずだ、と。

最も疑わしいはずの自分になぜそのような任務を命じるのか。

ゼロの真意を疑いながらも、彼女は静かに動きだす。

これもまた、自身の目的を果たすための布石と信じて―― 

 

公式サイトより)

 

いきなり重大なネタバレで申し訳ないんですが、テロ組織アドニスの教祖・ゼロの正体は、主人公・市香の警察学校時代の同期で親友の男性・冴木弓弦です。

本編で最初に見た時からルックスも声も大変好みで「なぜ彼が攻略対象じゃないんだ・・・!」と頭を抱えたものですが、物語の最重要人物と言っても過言ではないくらいキーとなるポジションの人です。

今回の”アドニス編”は、最初の【X-Day事件】を解決できなかったばかりか、仲間も最愛の弟の命も事件の最中で失った市香が、復讐のために自ら冴木の手を取りアドニスの中でその時を虎視眈々と狙う日々が描かれます。

 

冴木は深くは語られていないものの非常に複雑な生い立ちのようで、性格も人格もねじれ過ぎて破綻してて掴み所のないキャラクターです。

弱者が踏みにじられる理不尽な世界を変えたい気持ちは本物ですが、現実的にアドニスの目指す世界が創造不可能であることもわかっていて、でも今更ここまで進めてきた計画を放擲することもできないでいます。

自分にないものを持っている市香に確かに惹かれるものの、他の攻略キャラクターたちのようなわかりやすい恋愛感情ではなく、もっと強くて激しくてでも形をなさない執着心を抱いていて、その昇華の仕方もわからない・・・ものすごく難儀な人です。

 

一方の市香は、最愛の弟をはじめたくさんの大切なひとの命を奪ったアドニス、その教祖である冴木を心の底から憎んでいます。アドニスの新たな【X-Day計画】の開始の日に、組織を壊滅させ冴木を自分の手で殺す算段も完璧です。

しかし反面、警察学校時代からの長い付き合いの中で見てきた冴木を忘れることもできないでいます。たくさんの時間を共に過ごしてきた思い出が、今の冴木とうまく合致せず消化不良のまま憎しみの対象となっているのです。

 

冴木は市香が来たる日に自分を殺すことをわかっていて、まるで揺さぶりをかけるようにユダ探しのような密命を下したり、いきなりデートに誘ったりと不可思議な行動に出ます。

市香は戸惑ったり迷ったりしますが、最終的にはどうしても冴木を殺さないといけないという結論に至ります。

冴木も市香も、言ってみればもう余生みたいなものなんですよね。冴木はもともと世界に絶望しているし、市香もたった1人の心の拠り所であり家族であった弟を失い、仲間も失い、これ以上失うものがない。今更アドニスを辞めたところで、これまでおこなってきた人殺しの罪が消えるわけでもない。彼らはもともと警察官で、生来強い正義感を持っている人たちなんです。自分の正義や信念を曲げてまで生き延びることになんの魅力も感じないのです。

 

そうしてクライマックス、【X-Day計画】再始動の為に構成員が一堂に集まったところで市香の仕掛けていた爆弾で組織もアジトも粉々になり、誰も助からない終わりの中で市香は冴木に銃口を向け、2人は最後の会話を交わします。

このクライマックスが、とっても良い終末感なんですよねぇ。2人の世界が終わる感じ。諦めと、こうするしかなかったのかという悔しい気持ちと、もう頑張らなくて良いんだという仄暗い安堵がないまぜになったラスト。なんの教訓もオチもないけれど、不思議と心を掴まれるのです。

また、スチルが本当に美麗です。銃口を向けられて微笑む冴木のイケメンさときたら・・・ため息が漏れるほどです。花邑まい様(イラストの方です)、神です。

そしてここで流れる前作のメインBGM「モノクロの街」がさらに雰囲気をこれでもかと盛り立てます。

Collar×Malice オリジナルサウンドトラック

Collar×Malice オリジナルサウンドトラック

 

サントラ1曲目のこのBGM、ものすごく好きです。このエントリを書いている間もエンドレスで流してます。

 

この”アドニス編”の冴木ルートは、悲恋というには少し複雑な感じがします。そもそも恋なのか?というくらい甘さがないですし。

2人とも死んでしまうので悲劇とも言えなくはないですが、冴木の静かな諦念と絶望がやっと終わるのだと考えると、不思議と救いがある感じがするんですよね。全員死ぬのに。

 

最近気温も下がってどんどん空気が冷えていく季節になりますが、そういう時にこういう物語に出会うと、目がさめるような凛とした気持ちになれます。

深まる秋に心地よい終末感。癖になります。おわり。