このエントリは少し時間をかけて書きました。
というのも、『13月のゆうれい』第1巻を読んで、思わず書き連ねたもののまとまらず、下書きフォルダで長いこと塩漬けになっていたのです。それが前半です。
そして先週末、第2巻を読んで、ああ続きを書きたいと思い加筆したのが後半です。
〜ここから前半〜
佐波ネリは彼氏なしのOLで、彼女が合コンに向かうところから物語ははじまります。
合コンに行くというネリの恰好はブルゾンにカーゴパンツをブーツイン、友人に「また随分ごっつい恰好してきたね」と言われますが、「好きな格好してモテてえ~」と自分の洋服選びのポリシーを覆そうとはしません。
ネリは子供のころから男勝りで空手も得意で少年のような女の子でした。双子の弟・キリはうってかわっておとなしめのかわいい系男子で、ネリはそんなキリをいろいろなものから守ってきた逞しい姉でした。
ネリは合コンへ行く前に銀行へ寄ろうとすると、”かわいい系の恰好”をした自分と瓜二つの女の子に出会います。
それは、女装をしていた弟のキリでした。
約3年ぶりに会った弟の様子にネリは混乱しましたが、詳しい話はあとにして合コンに向かうことに。
合コンで顔がモロタイプな男・周防に迫られるものの実は周防が同棲しているということがわかりネリはがっかりします。おまけになぜか酔っぱらった周防の介抱までする羽目になり散々でしたが、周防を迎えに来た同棲相手というのは、なんと弟のキリでした。
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キリは子供のころからかわいいかわいいともてはやされていましたが、小学生のころとある不審者にいたずらをされてしまいます。
それから「かわいい」と言われることが我慢ならなくなり、言われると暴れるようになりましたが、高1の学園祭でひょんなことから急遽男子校の女装コンテストに出ることになり、女装をすれば「かわいい」と言われても嫌じゃないことに気づきました。
それから女装はキリにとって一種の鎧となりました。
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一方キリの同級生の周防は、自分がどうしても恋愛できないことに悩んでいました。
顔が悪くない彼はモテて、いろんな女の子に告白されますがどの子にも執着できず、自分には恋愛の才能がないのだと考えるようになります。
しかし高1の女装コンテストに出場したキリの女装姿に胸を鷲掴みにされ一目惚れしてしまった周防。男の恰好に戻ったキリには何も感じないのに、女装したキリには心を奪われるというちぐはぐで幻想を追うような恋に苦しみます。
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それぞれの事情がだんだんわかってきたネリは、合コンの時からほとんど一目惚れで周防のことが好きです。奇妙な三角関係ははたして・・・というようなストーリーです。
ネリがすごくカッコいい女なんですよねぇ。強い女ってこういう人だと思います。
自分の好みや思考経路がはっきりしていて、腕もあるし勇気もある。少し不器用なところもあるけど懐の深さを併せ持っている。素敵な女性です。
特にカッコいい場面が、キリが女装姿を会社の同僚に盗撮されて、ショックで引きこもってしまうのですが、それを助けにきたときのネリ。
「キリ
もう大丈夫
今度は誰をぶっとばせばいい?」
そういってキリを抱きしめるネリ、めちゃめちゃカッコいい。男前で女前です。
後日ネリが盗撮男に天誅を下すところがまたスカッとしていいです。
そんなカッコいい女・ネリですが、物語の中でちょくちょくネリの少女時代が描かれます。
髪が短くて活発でちょっと乱暴者なネリはどこからみても男の子にしか見えず、よくキリに間違えられました。
そんなネリも中学に上がるころには、容赦ない体の変化に飲み込まれていくわけです。
その時の絶望が繰り返し描かれるんですね。
初潮やら第二次性徴期やらってよく文学や漫画やアニメのエッセンスにされますけど、正直私はこれが全然ピンとこないんですよね。
初潮がきたとき、私はネリみたいにお腹もいたくなかったし、体もそんなに重いと感じなかったし、確かに少しはめんどくさかったですが、そんなもんだと思ってました。
ブラジャーもスポブラなんてほとんど使った記憶がなくて、中1くらいのころにはすでにワイヤー入りのかわいいブラを着けていました。
子供を産むとか産まないとかそういうことも特に考えてなかったです。思春期の私にとっての月経は、なんだかめんどくさいしょうがないもの、体育サボる言い訳に使えるもの、くらいの認識でした。
生理痛を本格的に感じ始めたのは高校の半ばくらいからで、それからはまれに「子宮取りたい」とか考えるようになりましたけどね。
そう考えると、単純に感受性の貧しい子供だっただけかもしれませんが。。
こういうの、男の子はどうなんですかね?性同一性障害だったらまた話は別ですが、ヘテロでも抵抗あるんでしょうか。
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以前にも書きましたが、私は10代の中盤くらいまでは、自分の性別にケチをつける気はそんなになかったです。
女に生まれてよかったと思っていたし、かわいい恰好をして「かわいい」と言われれば嬉しかったし、化粧も服も派手で露出が高く、ヒールとスカートが大好きでした。
少しは「女のくせに生意気」とか文句を言われる場面もありましたが、どちらにせよ子供だったので、おおよそ流せる範囲でした。
でも、今は女は不便でしょうがないです。
〜ここから後半〜
さてさて前半を書いてから数ヶ月たち、第2巻を読みました。
かっこよかったネリが、周防と付き合いだして少しずつ変化していきます。
周防に「付き合おう」と言われて幸せいっぱいのネリですが、周防が自分を女装したキリの代替品のように思っているのではないかと懐疑的になります。
それでも、いわゆる”かわいい”格好をして褒められると嬉しいことに気づいたネリは、これまで築き上げたいかつい自分と”かわいいと言われて嬉しい自分”との間になかなか折り合いがつけられずに悩みます。
そんな悩めるネリに、友人の愛佳(かわいい系ブランドアパレル店長)がたくさんの助言をくれます。2巻ではこの愛佳が大活躍します。
「彼氏受けがきっかけだとしてもさ
新しい服着るだけで 自分が変われる気がしてよくない?」
(中略)
「悩むな 悩むな
どうせ着るんだったら ネリが楽しんで着られるのを探しゃいいじゃん
そのためにたくさん種類あんだからさ
服は気分よく着てこそだよ」
愛佳店長さすがです。愛佳みたいな定員さんから服を買いたいものです。
そんな愛佳ですが、流れでキリと付き合い始めることになります。
ネリとは違った角度でキリもいろいろ悩ましい青年で、自分の男性的な部分にいくらか抵抗があるようです。
そんなキリといいムードになりつつも、やはりキリの精神的な課題のため、初めてはスムーズにいかず、気をとりなおして2人でお風呂に入る場面があります。
そこでも愛佳の慧眼が発揮されます。
「さっきさあ
『汚い』って言ってたじゃん
私からはキリ君はそう思えないんだけど
でもきっとそういう問題でもないのね」
「・・・うん」
「難しいねえ」
(中略)
「もしかしてだけど
『あなたは汚くなんかないですよ』て表明?するのに
舐めたり入れたりするのかな」
「え」
「まあ私は
キリ君と舐めたり入れたりしたけどね」
愛佳さん、攻めますね。
結局この日2人は仲良く眠るだけですが、キリの心は少しずつ着実に軽くなっていきます。そして最終的にはこの2人は結婚します。素敵だなぁ。
このキリたちが仲良くお泊まりする晩、ネリと周防もネリの家でお泊まりするんですよ。たまたま。
でもネリたちもいろんなタイミングの悪さからうまくいかなくて、ここのネリの正直さが読んでて笑えます。
久々のディープキスにうろたえるところとか、すね毛とかいろんなところが急な話でネイチャーなままで焦るとか、相手の男の体毛が薄毛で羨ましくてムカつくところとか、すごく共感できて笑ってしまいました。
終盤、ネリは周防を信じきれずに別れを切り出します。
しかし、周防との付き合いやキリや愛佳などの友人とのやりとりを通して、ネリはだんだん新しい自分、「選択肢が増えて好きな服が増えて」いく自分を受け入れることができるようになります。
心機一転、合コンに繰り出す頃には、ひらひらのスカートも難なくコーディネートに取り入れることができるほどになりました。
「女の子」に生まれたのは私のせいじゃない
だから「女の子」への呪いに付き合ってあげる義理だってない
好きな恰好して何が悪いんだよ
楽しむ権利が私にはあるのだ
この作品の中で一番好きな文節です。
私は本当はかなりシビアな部分があって、「着るのは自由かもしれないけどブスは何着てもブス」とか「可愛い子は何着ても可愛いし許される」とか、結構ひどい偏見も持っているんですけど、
それでも”「女の子」への呪いに付き合う義理はない”というのに相当救われる部分があります。
現実は依然として厳しいです。
今いる日本社会は、まだまだ”「女の子」への呪い”に付き合わなければやっていけないようにできています。
それでも先人たちが、呪いに終止符を打ちたい女性たちが戦って戦って、少しずつ少しずつ、その呪いが弱まってきたと思います。
だから今の時代に生まれて、幾分かマシだとは感じています。
呪いに付き合った方が楽なことも多い世の中ですが、
今回こうして『13月のゆうれい』を読んで、やっぱりネリのように呪いを跳ね除ける方にシフトしようと決めました。
楽だからといって呪いに付き合い続けるのは思考停止ですね。
「女の子」を演じるのはやめます。おわり。