れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

自己制御の難しさ:『恋愛中毒』

にわかに小説が読みたくなって、Kindleでパッと購入した小説が山本文緒大先生の『恋愛中毒』でした。

恋愛中毒 (角川文庫)

恋愛中毒 (角川文庫)

  • 作者:山本 文緒
  • 発売日: 2002/06/25
  • メディア: 文庫
 

私が好きな小説家として真っ先に名前を挙げるのが山本文緒さんです。

小学生で漫画ばかり読んでいた頃、入り浸っていた近所の本屋で棚に飾られていたのが山本文緒さんの作品たちで、ほんの気まぐれで短編集から手を取ったのですが、すっかりファンになりました。

でも全ての作品を読んでいるわけではなく、いつか読もう読もうと思っていたのがこの『恋愛中毒』でした。

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主人公の水無月という女性は、昔結婚していた時に静かな家庭崩壊にあい、元夫の浮気を疑った結果相手の女性に対し法に触れるレベルの嫌がらせをし、前科持ちになった人です。

愛していた元夫に見放され離婚し、同じ過ちを犯さないよう地道に生きていた彼女は、ひょんなことから芸能人であり著名な作家・創路に出会い、そこから再び人生が狂いだします。

学生時代に一瞬体の関係を持った同級生・荻原にストーカーまがいの行動を起こす自分を止められなかった経験があるなど、彼女にはもともと粘着気質というか、相手に依存し溺れやすい傾向があります。

中毒というものは、恋愛でも酒でも薬でも、自分で決めたルールを守れない、自分で引いた線を超えてしまう性質があるのですね。

私も昔からそういうところがあるので、水無月の落ちてゆく様を読み進めるのは結構怖かったです。

他人事じゃない気がして。

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もう一つ怖かったのは、水無月の過去の結婚生活の模様でした。

学生時代からの付き合いで結婚し、初めは上手くいっていたように見えた二人。

どこで崩壊が始まったのか、本人もわからないほど、大きなきっかけもなく冷めてゆく夫婦の様子はホラー以外の何物でもなかったです。

平和な日々が少しずつ少しずつ崩れ落ちていくのって、自分にはなかなか経験がないんですよね。

今までの人生で何かが(物ではなく、人間関係や信じていた何かが)壊れた時は、そんなじわじわタオルに水が染み込むように徐々にではなく、決定的な一打があって、それで一気に世界が変わることがほとんどでした。

だから、水無月の昔の結婚が、そんなゆっくり壊れていく様子が不気味で恐ろしかったです。不気味で恐ろしいけど、現実味があって救いようがない感じがしました。

私は結婚したことがないし、おそらくこの先もすることはないと思いますが、こんな危険な可能性をはらんでいてどうして結婚なんてできるのか、人々の強さが信じ難くもあります。

私は何にも持っていないくせに、人一倍失うのが怖いんだと、この本を読んで気づきました。

失うのが怖いから、あらかじめ手に入れないのです。

 

先日仕事で制作部の女性のアイディアを私がスポンサー向けに提案書の形に直すという作業があったのですが、

その制作部の女性が俗に言う”スィーツ(笑)”という感じなんです。

そんな彼女の作った素案には「前向きに、ハッピーに」という文言が溢れており、私は嫌気がさして片っ端からそれらを別の言葉に(「豊かに」とか「健康的に」とか)に勝手に置き換えて、また直されたりしたことがありました。

その時自分のことを”ハッピーアレルギー”と称したんですけど、私のハッピーアレルギーの原因は、この「失うことへの過度な恐怖心」から来ているのかもしれないと思いました。

 

そしてそういう恐怖心が、形を変えて今あるものへの度を過ぎた執着や被害者意識につながっていくのかもしれません。

そう、今思い出したんですが、この作品を読んで私が引っかかった大きなキーワードが「被害者意識」です。

「母親に嫌われたくなくて、ずいぶん頑張って通ってたんですけど」

「そりゃあうっぷん溜まっただろう」

先生は軽く笑って私のグラスにシャンペンを注ぎ足した。その笑顔に全然同情の色はなかった。

「でも言っとくけどな、それはお前が勝手に溜めてたんだからな。いい子なふりしておいて、あとで本当は嫌だったなんていうのは逆恨みだよ、逆恨み。子供だからって何でも許されると思うなよ」

シャンペンの泡がグラスの底からネックレスのように上がっていくのを見ながら、私はゆっくり瞬きをした。逆恨み?

「どうせあれだろ。お前のおかんは若い頃本当は自分が女優かなんかになりたかったんだろ。で、娘がちょっと可愛かったもんだから、娘を使ってそれを実現させたかったんだろ。よくある話だよ。馬鹿馬鹿しい」

「馬鹿馬鹿しい?」

「お前そんなことが過酷な幼児体験だとか思ってんの?ほっんと馬鹿だよなあ。いくつだよお前。千花を見ろ、千花を」

「千花ちゃんと私は違います」

「そりゃ違うよ。当たり前だよ。でも千花は被害者ぶってっか?お前のその被害者意識なんとかなんないの?そんなんだから離婚されたんじゃないの?」

(中略)

逆恨みだの被害者意識だのという言葉が頭の中でぐるぐるまわった。指摘されてみて、私は改めて自分が”ひどいめにあわされてきた”と強く思っていたことに気づいた。そうだ、私は親からも夫からもひどいめにあわされたと思っていた。親しいと思っていた人からも、そうでない大勢の他人からも、私は漠然とした敵意のようなものを感じていたように思う。だからこそ、自衛して生きていこうと決めたのだ。でも先生はそれを私の逆恨みだと言う。反発を感じるよりも驚きの方が大きかった。 

ここ、すご〜く嫌な記述ではないですか。頭を鈍く殴られたような衝撃でした。

水無月の気持ちもよくわかります。私も放っておくとすぐに「被害者意識」丸出しになってしまう時があります。

でもこの被害者意識を持つ人間って、どうしても好きになれないんですよね。

 

会社の同僚で、婚約していた女性に入籍数日前に急に逃げられた男性がいます。

上司や他部署の人たちも「かわいそう」「ひどい女だ」と逃亡した女性を非難し、同僚に同情していましたが、私はあまりそれに同調できず、どちらかというと逃げた彼女の方に同情してしまいました。

今でもその事件は時たま職場でネタにされていますが、私は同僚の「かわいそうな自分」と頬に書いてあるような表情を見るたびちょっとイラつくのです。

仕事はよくできる同僚の肩をみんなが持つのはよくわかりますが、そんな切羽詰った逃げ方をするほど追い詰められていた彼女の気持ちは誰も汲まないんですよね。所詮は他人ですし。

私は逃げられた同僚を被害者だとは微塵も思えないのです。加害者である自分を省みない厚かましい男だと思う気持ちを拭えないのです。

そんなわけで私は「被害者意識」を持つ人間が嫌いです。

 

でも、誰でもすぐ被害者ヅラになっちゃうんですよね。誰だって一番可愛いのは自分ですから。

だから、せめて自由意志のある人間として、できるだけ被害者意識に染まらないよう日々を生きていかなくてはと思いました。

自分で制御するのなんて、死ぬほど難しいんですけどね。おわり。

『五つ星をつけてよ』

先日勤務時間中にこっそり図書館に行き、借りてきた本が面白かったです。

奥田亜希子『五つ星をつけてよ』。

五つ星をつけてよ

五つ星をつけてよ

 

奥田さんの小説は他に2冊読んでおり、ここにも感想を書いたものもありますが、

とにかく面白いです。

文章の読みやすさと巧みさ、シーンの描写や読後感など、どれをとってもハズさない。すごい作家さんだと思います。

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『五つ星をつけてよ』は、表題作を含む6作品の短編集です。 

まず最初の「キャンディ・イン・ポケット」からほろりと泣けました。女子高生の卒業シーズンを描いた作品で、今の時期にぴったりの物語でした。

学校カースト低位置の主人公・沙耶が、ひょんなきっかけで3年間登校を共にした日向の女の子・皆川椎子への羨望とコンプレックスと、ふたりの間の独特の友情がとても心に沁み渡ります。

2話目の「ジャムの果て」は一転して執着と愛情の押し売りの激しい未亡人・晴子が、自立した娘や息子に拒絶されてバランスが崩れていく、なかなかに痛々しい話、

3話目の「空に根ざして」は、30を過ぎた独身男性・手嶋宗喜が、かつて長いあいだ同棲していた元恋人の結婚を友人のSNSで知り落ち込む話・・・と、現代・時には未来に生きる様々なライフステージで事情を抱える人間たちの群像劇が次々と立ち現れます。

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この短編集は、主に東京オリンピックの2度目の開催が決まった頃から現在にかけての時代の空気を非常に巧みに切り取っていると感じます。

LINEやブログやtwitterfacebookinstagramAmazon食べログ、そして今も健在の2ちゃんねるなど、私たちが今多用している様々なサービスが、彼らの日常に確実に作用していて、どれも身近なものであるために、物語が自分にどんどん迫ってくる感覚があります。

そして最後の最後には、ハッとする仕掛けがなされていました。

この、いろんな物語をめぐって最後に読み手である自分に帰結していく感覚は、なんだかドキッとするし、ちょっと愉快な気分にもなります。

映画『ソーセージ・パーティー』のラストみたいな感じです(わかりづらくてすみません)。

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この本の中で私が特に好きなのは1話目の「キャンディ・イン・ポケット」と5話目の「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」です。

どちらも思春期の女の子特有の苦悩が描かれていて、私はもうとっくに思春期は過ぎているんですけど、なんだか共感してしまうのでした。

アスファルトを踏むノーブランドのスニーカー、背中で跳ねる、近所のショッピングセンターで買ったリュックサック、母親の友だちの美容院で切ってもらっている、肩のあたりで揺れる髪。椎子とはなにもかも違う。でも。

私たちは、毎朝三十分間だけの友だちではなかった。

変な趣味だと思われたくなくて、紹介できなかった漫画。気持ち悪いと思われたくなくて、家に置いてきた手作りのチョコレートクッキー。貸せばよかった。持ってくればよかった。社交辞令だと決めつけずに、遊びに行く予定を立てればよかった。スルーしないで返事ちょうだいよ、とメッセージを送ればよかった。

三年間、そばにいてくれた相手を、どうして信じられなかったのだろう。

奥田亜希子「キャンディ・イン・ポケット」『五つ星をつけてよ』 新潮社 2016.10.20)

この話は本当に好きです。単純にいい話だなぁと思うし、私にも三年間そばにいてくれたにもかかわらず、やっぱり信用していなかった相手がいるので、なんだか不思議な気分でした。

高校時代の私は、この話の沙耶のように地味なカーストにはいなくて、椎子ほどではないにしてもどちらかというと派手な部類でした。

三年間一緒に登校していたのは、やはり1年生の時に同じクラスだったバスケ部のサバサバした女の子で、学年が上がってきた頃には彼女の可愛い後輩もよく一緒でした。

三年間同じクラスで同じグループで過ごしたバトミントン部の女の子とは、1度くらいは学校の外で遊んだこともあったし、誕生日プレゼントを交換したりもしていました。

でも、そのどちらも、高校卒業後は全く連絡を取っていません。

一度だけ、大学1年の夏休みに昔のグループで集まったことがありましたが、それがあまりに楽しくなくてびっくりした記憶があります。

そもそも、高校を卒業した時点で、私は多分ケータイ(その頃はまだみんな二枚貝のようなガラケーでEメールが主流でした)のアドレスを変えて誰にも知らせず、ほぼすべての人付き合いをフェードアウトしたのでした。誰とも喧嘩もしていないし、円満な卒業式だったのですが、私はもうずっと「大学に入ったら誰ともつるまず一人で本読んで生活したい」と考えていたので、それを実行した形でした。

本当にみんな善良でいい人たちだったと今でも思うのに、また会いたいと全然思わないのはなんでなのか、やっぱり不思議です。

別に裏切られたこともないのに、どうして信じられなかったのか、それは結局この物語を読んでもわかりません。

でも、その”信用できない”気持ちはとてもよくわかるのでした。

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そんなこんなで、いろんな人間関係の中で感じる孤独を軽やかで少し意地悪なタッチで描いていく、とても親しみやすくそれでも心を刺してくる、素晴らしい短編集でした。

星をつけるなら文句なしの五つ星です。おわり。

 

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ものごとの考え方を再考する:『IPPO』

この冬とてもよく読んでいる”えすとえむ”さんという漫画家の作品で

特に気に入っているのが『IPPO』です。

IPPO 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

IPPO 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

若き靴職人・一条歩の挑戦と、その周りの人々の人間ドラマです。 

イタリアの靴職人である祖父・フィリッポ・ジェルリーニの元で修行し、22歳にして独立した歩は、昔祖父が日本で開いていた店を改装して、自身のブランド「IPPO」を立ち上げます。

広告の営業マンや、事故で左足が義足になった元モデルの女性、靴のコレクターやセレクトショップのバイヤー、テレビによく出る有名俳優など、実に様々な人がIPPOを訪れます。

歩は高い技術と持ち前のマイペースさ・創造性を存分に発揮して、依頼者の人生に寄り添った靴を一つ一つ作っていきます。

1足30万円からという決して安くない買い物ですが、歩の作品を履いた依頼者たちは、それぞれとても幸せそうな顔をして帰っていくのです。

あまりに依頼者に寄り添いすぎるために、歩の作品には一見すると一貫性がありません。

そのために、他の靴職人から「君の靴は美しくない」「美学が感じられない」とよく言われてしまい、歩自身もそれについて時々悩むことがあります。

しかし、歩にとって、そして依頼者にとっての”いい靴”を追究し続けることにとことんこだわるその姿勢には、ライバルの職人たちも一目置いています。

歩の”いい靴”への挑戦は、まだまだ続くのです・・・。

***

作中に出てくる営業マンが

歩に採寸されながら、こんなことを言います。

・・・ああ

やっぱりええな

 

食べもんも着るもんも

住むとこも身の回りのもん全部

作った誰かが見えるんはほんまにええ

 

僕らは”作る”ってことはできひん人間やけど

(中略)

バイヤーの仕事

大きく言えば営業の仕事もそうやな

 

物と人をつなげるだけやなく

人と人をつなげる仕事をしていけたら

これってそれの一番ゼイタクな形やんなあ? 

この場面、なんだかすごく心に残りました。なんでだろう・・・自分が営業職だからかもしれません。

この漫画は”仕事”というものの捉え方について、非常に示唆に富む場面がたくさんあります。

回想シーンで、歩の祖父・フィリッポが、修行中の歩に諭す下記のシーンもすごく好きです。

・・・いつか 魔法の話をしましたね

技術は魔法ではありませんが

創造性を持つこと 真心をこめること

そこに魔法はあるかもしれないと

 

・・・私たちにとって大切なのは

ここ(手)と

ここ(頭)と

そしてここ(心)

 

”手だけで仕事をするものは労働者である”

”手と頭で仕事をするものは職人である”

” 手と頭・・・そして心で仕事をするものは

・・・芸術家である”

イタリアの聖人の言葉です

芸術家かはともかく

創造性を失ってはいけない

今の時代に求められているものをとても的確に言い表している場面だと思います。

どうせ働くなら”芸術家”になりたくはありませんか?

芸術家とは、何もアーティストだけを指すものではないのですね。

手と頭と心をどれだけ駆使できるか・・・今後仕事をしていく上で意識したいところです。(なかなか難しいのかもしれませんが)

***

また、”いいものを持つ”ということの意味についても考えさせられます。

私はもともと所有という行為があまり好きではなくて、なるべく物は持たないし、あまり高価なものも持たないです。が、

安くてそこそこなものをある一定期間所有し、破棄するというサイクルに

正直しんどさも感じています。

自分にとっての”いいもの”がまだ定まっていないせいもあるかもしれませんが

所有という行為と人生の豊かさとの関係について、もう一度考え直したいと思いました。

 

そもそも、どうして所有欲のない私が靴職人の物語であるこの『IPPO』を手に取ったかというと、

私にとって”靴”というアイテムが少し特別だったからです。

私は洋服もさほど好きではないしカバンも持たないし、食器も化粧品もそこまでこだわりはありません。

でも、靴だけは違います。

私の足は子供の頃から少々奇形で、小学生の頃には専門店で足型を取り

自分のためのインソールを使用していました。

そのため、履ける靴にはいろんな注意点があります。必ずしも高価ではありませんが、靴だけはあまりちゃちなものは履きません。

そんな足を持つ身であるため、『IPPO』のあらすじを少し見ただけで気になったのだと思います。

 

持ち物はできるだけ少なくしたいです。

バックパック一つで一生困らないくらい、所有物を厳選して生きていきたいといつも思っています。

だからこそこの『IPPO』のような、”いいものとはどういうものか”を思い出させてくれるような作品は、私にとって非常に価値のある物語なのだと思います。おわり。

 

私にとっての新しい娯楽、寄席(とくに落語)

先日生まれて初めて”寄席”に行きました。

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場所は上野鈴本演芸場

夜の部のお仲入りからで、料金は2000円でした。(通常2800円)

食べ物も飲み物も(お酒も)持ち込み自由で、8時10分の大トリに入るまでは出入りも自由。

漫才、落語、奇術など、いろんな芸で客を笑わせてくれる演者さんたちを生で観て、これまでにない新しい面白さを感じました。うまく言えないけれど、笑点をテレビで観る時とは全然違うのです。ミュージシャンのCDを聴くのとライヴを観るのがまったく違うというのに似ています。

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今回なぜ私が寄席に行こうと思ったかというと、

毎週楽しく聴いている某埼玉のエフエム局の午後の人気番組パーソナリティ「三遊亭鬼丸」さんが2月1日〜10日まで鈴本演芸場夜の部のトリをつとめること、そして来場者全員に番組ステッカーを模した特別製のステッカー(鬼丸さんのサイン入り)がプレゼントされるというお知らせを聞いたからです。

会場は平日にもかかわらずファンの方々でいっぱいでした。普段あまり寄席に来ていなさそうな方もたくさん居て、やはり私のような鬼丸さんとステッカーをきっかけに来た方が多かったのだろうと思います。

しかし、各々寄席を存分に楽しんでいて、最後に鬼丸さんが演じた「死神」では、ラジオのネタも織り交ぜつつ実に引き込まれる演技で、ラジオとはまた違った鬼丸さんの気迫に圧倒されました。

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また、落語といえば最近2期が放送中で話題のアニメ『昭和元禄落語心中』も毎週欠かさず観ております。鬼丸さんが死神を語り始めた時、とっさに八雲師匠が浮かんで嬉しくなりました。まさか初めて行った寄席であの「死神」を観られるなんて!と。

また、その前の落語では三遊亭歌奴という方が「初天神」を演じられて、このお話も以前ラジオで話題に出たものだったので、あ〜これがそうか〜と非常に感心しました。

話の流れを知っていても知らなくてもそれぞれに楽しめる、落語とはまさに音楽のようだと思いました。

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寄席では写真撮影などは普通はできないのですが、今回は鬼丸さんの粋な計らいで特別に終演後撮影ができました。

SNS戦国時代のこのご時世に、ぜひ落語・ひいては寄席の良さを広めてほしいとの思いだそうです。

今週の昭和元禄落語心中を観た後、生で観た寄席の感動をまた思い出し、思わず書き残そうと思ったのでした。

 

新しい娯楽を見つけて、人生が少しいいものになったような気がします。

 

今度は別のラジオ番組でファンになった春風亭一之輔さんの落語も生で観たいと思います。おわり。

まごころを持って今を生きる:『プリンセスメゾン』

あけましておめでとうございます。

2017年元日からご紹介したい作品は池辺葵プリンセスメゾン』です。

プリンセスメゾン(1) (ビッグコミックス)

プリンセスメゾン(1) (ビッグコミックス)

 

 年末に最新巻(3巻)を読んで泣いてしまいまして・・・。

***

主人公の沼越幸は26歳の居酒屋勤務(正社員)。安い賃貸に住み、真面目にコツコツ働いて貯蓄中の彼女の夢は「マンション購入」です。

彼女が理想の住まいを探すために度々訪れる持井不動産株式会社では、社員の伊達さんをはじめ、様々なスタッフが彼女の住まい探しをサポートしてくれます。

そんな幸と持井不動産の人々、そしてその周りの様々な事情を抱えた人々の暮らしの様子が、独特のタッチで描かれている作品です。

 

幸は職場の先輩社員に「あんなに信用できるやつは滅多にいない」と評されるほど、真面目でひたむきな女性です。

小柄でいつもラフな格好をしていることと、居酒屋社員という決して高給取りではない職業は、マンションの見学会でも少し浮いているし、ディベロッパーから見て必ずしも積極的に接客したいお客様ではないかもしれません。

それでも幸の真剣な様子に、伊達さんや受付の派遣スタッフたちも彼女を心から応援したい気持ちになっていきます。

 

特に伊達さん!伊達さんが個人的に見た目から何からクリーンヒットなんですけど、伊達さんはかなり幸のこと好きですよね。

幸が理想の間取りを描いて持ってきた時には、すぐにコピーして予算その他も踏まえてぴったりの物件を時間をかけて探してくれたり、物件見学の後に街を案内してくれて、本当は苦手であろうボートにまで一緒に乗ってくれたり、伊達さん本当にいい人すぎます。大好きです(告白)。

 

3巻の最後に、幸はついに希望に合う物件を見つけて、無事マンション購入に踏み切ります。

購入に際して、宅地建物取引士でもある伊達さんが重要事項説明をおこなう場面がすごく好きです。

長い説明に疲れて一息つくタイミングで、幸が伊達さんにこれまでのお礼を言うんですけど、その時の伊達さんの喜びと切なさがないまぜになったような優しい笑顔が非常に胸に迫ってきて、何回読んでも泣いてしまいます。

「沼越さまが新しいお家で末長く幸せに暮らしてくださることが、私の最高の喜びでございます。」

友達でも恋人でも家族でもなんでもない、ただのお客様のうちの一人である幸の幸せを、本当に心から願う様子がよく伝わるシーンです。

 

幸も、伊達さんも、とても真面目でひたむきで、けれども決して頑なではなく、心の温かな人たちだなぁと、最新巻を読んで改めて感じました。

***

この作品の大きなテーマの一つに”様々な女性の「ひとりだけの自分の家」”というのがあるようです。

私も社会人になって、自分のお金で自分の家を借りるようになってしばらく経ちますが、

自分の家を”買う”ことは一生ないかもしれません。

そもそもどこかにずっと住み着くことが少し怖いというか。。いろいろと覚悟がないんですよね、きっと。仕事もすぐ辞めるし。

 

幸はなんと、私と同い年なんです。

3巻の最後に、幸のマンション購入の契約内容を記載した「御資金計/諸費用概算表」が載っているんですが、それを見ると年収も私と対して変わらないみたいで・・・でも、私の2倍くらいかもっと貯金があるようだし、仕事もずっと続ける様子。すごい。幸すごいです。

作中にも出てきますが「腹のくくり方がちがう」んですよね、幸は。

「でも本当にすごいねー。

ほんとに買っちゃうんだねー。

私も買いたいけど

この先、結婚もしたいし

そしたら家って邪魔かなーとか思うし

ローンも先を考えると

なんか怖いしなー。」

 

「・・・すごく勝手なんですけど

私そこまで先は考えてなくて・・・ 

両親とも40代で亡くなってますし、

私だっていつまで生きられるかもわからないし、

この先どうなるかわからないから

むしろ 今しかないって。

 

いつくるかわからない日を待つよりは、

今のベストをつかみたいんです。」

私だって、誰だって、いつまで生きられるかわからないし、この先どうなるかわからないです。

だから、今のベストをつかむために、「今のベストって何だろう?」ということを、よーく考えようと決心した、年末年始でした。

本年もよろしくお願い申し上げます。おわり。

自信は無いよりあるほうがいい:『ガーリッシュナンバー』

今年ももうすぐ終わり、ひいては今年の秋アニメも続々と最終回を迎えていますね。

今期はとても優れた作品が多く、毎日とても楽しかったです。

そんな中、意外にも心に残った作品が『ガーリッシュナンバー』です。

 新人声優・烏丸千歳が、業界と時代の荒波に揉まれながらも奮闘する、いわゆる”働く女の子”アニメです。

名作『SHIROBAKO』を始め、アニメ業界を舞台にしたアニメはこれまでにもありましたが、

この『ガーリッシュナンバー』は何と言っても主人公・千歳のふてぶてしさが圧倒的です。

その他にもクズなプロデューサーやテキトーなノリの社長が出てきたりと、全体的に人間臭さが前面に出た作品です。

***

都合の悪いことは社会のせい・他人のせいにして、自分の努力不足は棚上げの千歳。

兄であり元声優のマネージャー・悟浄くんにボロクソに言われても自分を省みることのない唯我独尊っぷりは、最初はクズすぎて全然好きになれませんでした。

作品自体は、どこまでもクズな千歳と能天気なプロデューサーや社長たち、そしてそれに振り回されるスタッフたちや呆れるキャストたちのテンポのいいやりとりが、単純にギャグアニメとして面白かったのです。が、

仲間たちがどんどん新たなステージへ進んだり、後輩声優・桜ヶ丘七海が台頭してきたりして、自信過剰だった千歳が焦りと絶望でふさぎこんでいったくだりでは、ストーリーに引き込まれていきました。

声優としての力量はまずまずの千歳ですが、無駄に溢れる自信のおかげで肝はすわっており、ステージイベントや生配信の仕事でも誰よりも落ち着いていた千歳。

性格に難ありだと誰もが思っているけれど、そんな千歳の図太い神経に救われていた面もあったと思い返す声優仲間たち。

そして最後には、兄であり元声優として挫折を経験したマネージャー・悟浄くんの励ましがあり、千歳は徐々に立ち直り、改めて声優として邁進していく決意をします。

「無駄な努力はしたくない、だけどみんなにちやほやされたい、1番になりたい」・・・私利私慾まみれの千歳が、ふてぶてしくて図々しくて仕方ないと思っていた千歳が、とても共感出来る等身大の女の子として見られました。

***

私は自信がないフリをして、自分を過剰にこきおろしたり卑下したりすることが多々ありました。

実際今の仕事に関しては本当に自信がないし、人と話すこと、頭の良さ、器量の良さ、全てにおいて自信がないです。

もちろん努力も大嫌いだし、そのくせ本当は認められたい、ちやほやされたら内心嬉しいです。

でも、そうして図にのるのも恥ずかしい、控えめな方が害がないって、なんとなく思って過ごしてきました。

けれど、違うんです。

自信が全然なくてふさぎ込むようなことばかり口走るよりは、図々しくてふてぶてしくても自信満々な方が100倍マシだと思います。

だって、卑下されたところで、何も生まれないですから。

***

職場で隣の席の女性課長は40代半ばにして独身です。

仕事はとても頑張ってるしそれを周囲も認めているし、慕っているスタッフも多いし、友達も多いし頭もいい方なのですが、

本人は控えめで自信のないような物言いをしばしばする人です。

特にクリスマスが近いここ数日は非常にナーバスで、「私なんて・・・」みたいなことを頻繁に口にしています。

私だって独身だし彼氏もいないし、それどころか仕事も大してできないし友達もいないし慕ってくれる仲間さえいなくて村八分の四面楚歌ですが、

それを嘆いたところで何か素敵なことが生まれるわけでもなし、クリスマスは1人でも十分楽しいです。

冬のボーナスも貰えたし仕事も暇でやっと有休消化にくりだせるし、今の状態が結構いいかもと思うときもあります。

自信のなさをうじうじ嘆きふさぎ込むよりは、根拠がなくても自分を信じて笑っている方がずっといいです。

そういう事実を思い出させてくれる作品が、この『ガーリッシュナンバー』なのです。

辛いことがあったり、嫌なことがあったり、自分に自信がなくなった時は、

このアニメを見て千歳や九頭Pたちと一緒に「勝ったな、ガハハ」と笑ってみると良いでしょう。おわり。

人生と欲:『自分の時間を取り戻そう』

久々に自己啓発ちっくな本を読みました。

ネットではかなり有名人なちきりんさんの最新刊。彼女のブログは大学生の頃から読み始めていて、著書も全部目を通しています。

そこからどれくらい自分の生活にアウトプットできているかと振り返ると・・・ですが。

この本では「生産性」をキーワードに、人生の希少資源である時間やお金を最大限有効活用し、自分の人生を最大限素敵なものにしようという提言がなされています。

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私は最初に就職したのが食品メーカーで、新入社員時代は全員会社の心臓部である工場で働かされるので、生産性という概念はかなり身近なものでした。

本社から降りてくる日々の生産数ノルマを、できるだけ短時間で確実に達成するために、機械の回転数から休憩のシフトの組み方から常に創意工夫をしていました。

商品によっては非常に作業量の多いラインがあって、準備から片付けまで細かくタスクを分析して、隙間時間をいかに上手に使って1秒でも早く家に帰れるかばかり考えていました。

どうしてあんなに躍起になって早く仕事をこなそうとしていたかというと、仕事が嫌いだったからです。

いや、嫌いというよりも、家に帰ってからのやりたいことがもっとたくさんあったからかもしれません。

定時に上がったら帰り道のスーパーでお菓子をたくさん買って、家に着いたら掃除洗濯をして大好きなアニメを見ながらお菓子をバリバリ食べてお酒を飲み、いい気分で今度はゲームをして、お風呂に入って眠る・・・

社会人になりたての頃、乙女ゲームにはまり始めていたので、とにかくゲームする時間が欲しかった記憶があります。

旅行も大好きですが、いかんせん休みが全然ない職場だったのであまり遠くへは行けず、有給もあっという間に使い切り、休日出勤がかさんだせいで時間はなかったけれどお金はかなり貯まりました。

最初はあんなにしゃかりきになってスピードを上げていた仕事も、洗練されたおかげで今度は時間があまり、退職する頃には暇で仕方がなかったです。

「このままここにいてもなぁ〜」とぼんやり考え始めていた頃に同期の女の子が1人辞め、それで一気に辞める気持ちが高まりそのままボーナスをもらって即辞めました。

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あの工場で一番忙しくてキツイという現場に配属された時は、胃のあたりがズンと重くなる感覚がありました。

でも、とにかく仕事を覚えて自動化し、日々工夫を重ねてそれらがうまく回り始めた時は、結構達成感と満足感を味わえました。

あの達成感は、その後転職した別の職場では全然ありません。もちろん今も。

この『自分の時間を取り戻そう』という本が今の自分になかなかピンとこないのは、今の仕事が定時で上がれるし、就業時間もまあまあ短いし、むしろ時間が余っていると感じるくらい暇だからかもしれません。

だから終盤の「さいごに〜人生のご褒美〜」の章を読んだ時にものすごく納得してしまいました。

仕事がおもしろくない会社員は、たいていダラダラと働いています。さっさと働くと、終業までの時間が長すぎて耐えられないからです。 

(中略)

仕事をやめようかどうしようかと半年も1年も悩んでいる人は、たいてい”ダラダラモード”に入っています。そのモードであれば、1年でも2年でも、場合によっては5年でも10年でもブツブツ言いながら働けてしまいます。

いまの自分はもしかしたらこの”ダラダラモード”かもしれません。ぎゃー。

私は今のところ「仕事を辞めたい」とか「辞めるかも」とは全く口にしていません。口に出したら経験上、100%の確率でそこからすぐ辞めるからです。

でも、口には出していなくても、心の中では1年くらいぐるぐる考えていることがあります。

「今の職場はすごく恵まれている。終業時間は今まで働いたどの職場よりも短いし、その割に給料も生活に困らないレベルだ。癖のある上司や取引先もないわけではないけれど、基本的にみんないい人だ。厳しいノルマもないし、時間の裁量権もかなり自分にある。今までこんなに自由な職場環境はなかった。

メディアという業界も面白いと思う。有名人を生で見られたりするし。この前も気になっていた新人アーティストに会えて、おまけにCDまでもらえた。スポンサーと制作陣と全てのタイミングが奇跡的にあって面白いものができた瞬間はとても嬉しい。

でも、この仕事が自分に向いているとは全然思えない。チャレンジしようと思って営業になってみたけれど、やっぱり自分は人づきあいがあまり好きではなかった。飛び込み営業も苦ではないし、初対面の人と話すのも全然平気だ。嫌なのは、好きでもない人と長い付き合いをしなければならないことや、一緒にいたいと思わない人とお酒を飲んだりご飯を食べたりすることだ。自分が全然いいと思えないモノやサービスをPRするのも苦痛だ。

自分があまりアイディアマンではないというのも実感としてある。私は人の真似をしたり、作業効率を上げたりするのは得意だが、1から新しいものや面白いものを考えることは得意ではない。

そして何より、暇だ。この仕事は自分で仕事を取ってきて、自分で自分を忙しくしない限り暇なのだ。そして私は忙しいのが大嫌いだし、仕事を増やしたところで給与も休日も増えないので、自分を忙しくするという誘因・動因がない。今の仕事量なら、週に5日も会社に行く必要はない。3日あれば十分だ。

向いてないのがわかっているなら辞めて他の道を探すべきだと思うけど、正直他にやりたい仕事もない。というか仕事したくない。働くのなんて全然好きじゃない。他人と暮らすのが嫌だから、今の楽しい一人暮らしを続けたいからその費用捻出のために、できるだけ短い時間でできるだけ少ない苦痛で稼げる仕事を選んでいるだけだ・・・」

すごく長くなってしまいましたが、普段考えていることはこんなようなことです。

こうして改めて見ると、私は本書にも出てくる”「働かないでほしい」と望まれる人”だと思えます。ベーシックインカムで25万円もらえたら、絶対働かないですもん。

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さらに、今の私は新入社員の頃ほどやりたいことがありません。

旅行も転職の間のニート時代や今の職場の季節休暇で行きたいところは行ったし、ゲームも今はそこまでやりたいものがないし、服も家電も欲しくない・・・欲望が枯渇しているのです。

大好きなアニメが見られて、インターネットで面白いものが見られて、たまに旅行できて、今の状況で満たされてしまっているのです。

「人生をより良いものに」と考えるほど、私は自分の人生に執着していません。生まれてきたことがそもそも不幸くらいに思っているのは、このブログでも書いている通りです(参照:これとかこれとか)。

「自分の時間を取り戻そう」と奮起するほど、自分の時間ってなんだろう?と根本的なことが気になってしまうのです。

そういう問題提起として、この本を読んでみるのもアリかもしれません。おわり。