れっつ hang out

ひまをつぶしましょう

『1122』

前の職場を退職して3週間くらいが経ちました。

ニート生活がこんなに天国なのは、いい漫画、いい映画、いいアニメ、いいゲーム、いい本などなど、いい作品が世の中に溢れているからに他なりません。本当に、全てのクリエイターに感謝します。

そんなニート生活の中でハマってる漫画が渡辺ペコさんの『1122』(いいふうふ)です。

1122(1) (モーニング KC)

1122(1) (モーニング KC)

 

その結婚は、

幸せですか、

辛いですか。

 

妻・相原一子(あいはら いちこ)。ウェブデザイナー

夫・相原二也(あいはら おとや)。文具メーカー勤務。

結婚7年目。

子供なし。

私たちには秘密があります。

 

結婚をしたい人もしたくない人も、

結婚を続ける人もやめた人も、

「結婚」を考えるすべての人に届けたい——、30代夫婦のリアル・ライフ。

 

『にこたま』完結から4年、渡辺ペコ待望の新連載!!!

モーニング公式サイトより) 

 

笑える面白さがちゃんとありつつも「あー面白かった」で終われない意地悪さのようなものがザクザクあって、とてもコシのある作品です。

 

いちことおとやはセックスはしないけれど仲良しの友達みたいな夫婦です。

ある時いちこの気が乗らなかったことからセックスレスになり、そこから相手の恋愛とセックスには干渉しないというルールを作り、セックスなしでも楽しく暮らしている二人。

おとやには外にW不倫関係の恋人・美月がおり、いちこはそれを公認しつつも、恋に浮かれているおとやに若干の不満を抱えています。

元はいちこのセックス拒否から始まったことなので、いちこは理屈ではおとやの外での恋に納得はしているものの、自分のちょっとした欲求不満や、おとやだけが外で満たされている状況に羨望に近い嫉妬があるんだと思います。

 

おとやは私からするとすごく理想的な男性です。

仕事に情熱はないけどちゃんと稼いできているし、男性特有の厚かましさみたいなものもないし、かといって優柔不断でも弱々しくもない。極めてバランスのいい、素敵な男性だと私は感じました。

2巻でいちこもおとやのことを褒めていますが、つくづくおとやはナイスガイ。

「相手をよく見てよく聞いてより添ってくれるし労ってくれるし

言葉だけじゃなくて ちゃんと動いてくれるし面倒くさがらないし

あとねー

家事やってくれるし器用だし気がきくし

ケチじゃないし店員さんとかに横柄じゃないし

仕事だってじゅーぶんちゃんとやってると思うし」

「てへへ そうかな」

「おとやんはナイスガイだよ」

 

渡辺ペコ『1122②』講談社 2017.11.22 より)

このあと二人はいい雰囲気になり、久々にセックスするかと思いきや勃たないおとや。笑

中途半端に目覚めた性欲をもてあますようになったいちこは、友人から噂で聞いた女性向けの風俗に興味を持ち始めます。

 

いちこ夫婦以外の主要登場人物に、おとやの恋人で専業主婦の美月とその夫・志朗、二人の息子・ひろがいます。

美月を見ているのが私は一番つらいです。

息子のひろは2歳になるものの、知能その他の発達が1年以上遅れているといいます。ぱっと見た感じ自閉症っぽいですね。

夫の志朗は家事育児一切を美月に丸投げで、稼ぎは十分だしそれなりに責任感もありそうだし妻も子供もそれなりに愛してはいそうだけど、思いやりを全然感じられません。

志朗と美月はセックスレスではないけれど、志朗相手のセックスが美月には肉体的にも精神的にも苦痛で仕方がありません。

いつから夫とのセックスが苦痛と恐怖を伴うものになったのだろう

挿入されながら

枕元の重い花びんを手に取って

夫の頭に振り降ろすところを想像する

 

そうしてわたしはこの時間をやり過ごす

 

渡辺ペコ『1122②』講談社 2017.11.22 より)

美月は多分志朗のことをもう好きになれないんじゃないかと思うんですよね。

美月は不倫の恋人・おとやを愛してしまっているように見えます。救いのない息詰まる生活の中で唯一心のオアシスとなっているおとやの存在が、心のバランスをとる以上に膨らんできてしまっているような。

だからおとやの妻であるいちこが、自分たちの不倫を最初から知っていて公認していることを知って我慢ならなくて、自分がおとやたち夫婦の緩衝材のように思えて惨めでいたたまれなくなり「馬鹿にしないで」と怒ってしまったのでしょう。

それでも、腹がたってもやっぱりおとやを好きで手放せない美月。

 

しかし、今ふと気づいたんですが、美月は志朗と結婚したからこそおとやに惚れたんじゃないかなーと思いました。

だって志朗とおとやって全然タイプが違うんです。

私はおとやは大好きですが、志朗は登場するたびに腹がたって仕方がないくらい嫌いです。メガネのクールイケメンな見た目はどストライクでも志朗は許せないです。

例えば、志朗の母親がひろの育児に口出ししてきて困ってることを相談したときの志朗の返しが以下。

「あなたは 父親でしょう?」

「そうだよ だから働いて稼いでる

こうやって休日も持ち帰って仕事してる

それが俺の役割だから

君たちに経済的な苦労や心配させたことないよね?」

 

渡辺ペコ『1122②』講談社 2017.11.22 より)

「そーゆうことじゃねーよ!」って、私なら殴りかかっちゃいますよ。

さらに志朗に対して「こいつはホントに無理」と思ったのが、美月の友人たちを家に呼んだらどうかという志朗の提案を美月が却下した時のエピソードです。

「志朗さん わたしの友達にジャッジ厳しいし」

「ジャッジ?」

「「あの子はブス寄りだけど笑顔がいいね」とか

「あの人箸の持ち方と食べ方がひどかった」とか

友達のこと品評みたいに言われるのやなの」

「1つ目のはほめてるし

2つ目のは単なる事実でしょ」

「わたしは求めてないのそういうの (後略)」

 

渡辺ペコ『1122②』講談社 2017.11.22 より)

「1つ目のはほめてるし」?

ほめてねーーーーよッッッ!!!!!

ってイラっとしました。

どんなに顔が良くて稼ぎが良くても、志朗とは絶対仲良くなれないです。

でも、美月は志朗と結婚して子供までいるわけです。二人の馴れ初めはまだ知りませんが、昔は美月も少しは志朗に惹かれてたってことですよね?多分。

志朗に惹かれて、結婚して失望していたからこそ、おとやに出会って彼を好きになったんだと思うんです。

 

***

 

話の本筋からは離れますが、美月の境遇が見ていてつらいのは志朗のせいだけではありません。

人でなしと思われるかもしれませんが、私は美月の息子・ひろもどうしても可愛いと思えないのです。

障害があるのはわかります。それでも、ああして泣き叫ばれて言うこときけなくて暴れまわる息子と二人きりで家に閉じ込められたら、私は発狂するか虐待してしまっても不思議じゃない気がしました。

加えて姑からのオカルトな占いの勧めとか、夫の非協力的な態度や苦痛でしかないセックス(私はもうこれはレイプと同じだとすら思います)とか、追い詰められる要素しかない美月の環境は地獄そのものです。

唯一の息抜きである生け花教室とそこで出会ったおとやとの恋がなければ、美月はもう立っていられないのではないかと思うほどです。

 

私は美月とひろを見てあらためて、自分はやっぱり子供を生むことはできないと思いました。

自分が腹を痛めて産んだ子なら可愛いとか、全然信用できないです。自分の体から産んだって、たとえ心の底から愛する人との間にできた子だって、愛し育てる自信はないです。

ひろを見ている時の、あの形容しがたい嫌な気持ちは逃げ出したくなります。

だから、ひろをちゃんと抱っこしてきちんと根気強く育児している美月はとても強い女性だと私は思います。

彼女の強さが正しい方向に発揮されて、この地獄から抜け出せることを祈るばかりです。

 

***

 

来月3巻が出るらしいこの作品。

いちこは多分風俗に行くし、おとやは美月に確かに恋しているわけですが

セックスしない、子供ももたない仲良しの二人が婚姻関係を結ぶ必要性というのを、もっともっと多面的に検証していくことになるんだろうなぁ、となんとなく想像しています。

どうなっちゃうのかなぁと心配になりつつ、いちことおとやの夫婦って結構理想的に思えて、できれば二人には最後まで仲良しでいてほしいと願う自分がいます。おわり。

選民意識とアイデンティティと夢:『絶対階級学園』

また面白いゲームに出会えてホクホクしています。

絶対階級学園 - PS Vita

絶対階級学園 - PS Vita

 

乙女ゲームなのでもちろん萌えもあるのですが、この作品は人間の(mind、意識、脳機能といった広い意味での)”こころ”の恐ろしさを見事に描いた意欲作でした。

 

簡単なあらすじは以下。

2026年、日本。

東京湾を囲む「リングエリア」内の貧民地区に暮らす主人公・藤枝ネリ。

慎ましくも穏やかな日々を送っていたが、ある日突然、たったひとりの家族である父親が失踪してしまう。

「櫂宮学園へ行きなさい」

ーーー謎の手紙を残して。

私立櫂宮学園。

特権階級に属する良家の子女のみを集め、

未来の日本を担うエリートの育成を目的として創設された、全寮制の名門校。

ネリは父の置き手紙に従い、セレブが集まる櫂宮学園に転入することになった。

しかしそこはとてつもなく豪奢だが、絶対的階級制度に基づく「身分差別」に支配された学園だった。

 

階級制度の頂点で学園を統治し、あらゆる権力を有する「女王」

全てにおいて優位に立つ、選ばれたエリートたちが属する特権階級「咲き誇る薔薇」

最も多くの生徒が属する平民階級「名もなきミツバチ」

同じ生徒でありながら、使用人同然に虐げられ使役される奴隷階級「捨て置かれた石ころ」

そして、絶対的制度に抵抗する生徒で組織された反体制グループレジスタンス」

 

想像を絶する格差社会の中でネリが出逢う「恋」、次第に浮かび上がる学園の「真実」とはーーー!?

公式サイトより)

主人公のネリは高校2年生です。

リングエリアの貧民地区から突然特殊なエリート学園に連れてこられたネリが、学園の不条理な階級制度に戸惑いつつも迎合するか・抗うか・様子をみるか、いくつかの選択肢を進むことによって薔薇階級に上がるルートか石ころ階級に落ちるルートに分かれます。

各攻略キャラクターごとに薔薇ハッピーエンドと石ころハッピーエンドが用意されており、全てのキャラクターのハッピーエンドを開くと今度は各キャラクターごとに”真相ルート”が開きます。

 

キャラクターを一人一人攻略するごとに学園の謎が深まる構成が見事で、シナリオや音楽、イベントスチルの美麗さやボリュームも申し分ない素晴らしいゲームです。

凡庸な主人公の女の子がセレブ学園に放り込まれるラブコメディは世の中にいくつかありますが、この作品はそれらとは一線を画す哲学的・社会学的・心理学的問題提示があって物語に引き込まれました。

特に薔薇階級に上がるルートでは、凡庸だったネリが選民意識に目覚めアイデンティティを変容させていく様が結構怖くてゾッとします。

 

攻略キャラクターごとの感想を書きます。

【高嶺 陸】

薔薇階級の中でも「赤薔薇様」と呼ばれるトップオブトップの一人。3年生。

世間で知らない者はいない高嶺グループの御曹司という設定で、俺様タイプだけどツンデレで実は優しいイケメンです。

ネリが薔薇階級に上がる薔薇ルートでは、ネリの部屋を赤い薔薇だらけにしたり、想いが通じあうと贈り物攻撃をしたり、完全に浮かれモードで暴走する御曹司。バカップルぶり炸裂で面白かったです。

しかし、あまりの浮かれぶりに周りが見えなくなり、ネリが歯止めをかけられないと社会的信用を喪失して転落バッドエンドとなります。

陸の危うさ、裸の王様感は、ちょっと切ないけれど私は愛おしく感じます。刹那的で美しいです。

陸の転落ぶりが、そのまま物語全体のメタファーとなっているように思えます。

 

【加地 壱波】

ミツバチ階級のチャラ男。2年生。

とにかくノリが軽いけれど、どこか憎めないキャラでした。演技のずば抜けた才能を持っていて、容姿の淡麗さから薔薇階級の女子からも一目おかれている存在です。

壱波は飄々としていて一見芯がないように感じますが、実はすごく強いポリシーを持っている男でした。階級制度を受け入れ、素直に薔薇階級に憧れつつも、自分のポリシーに反する人間には階級関係なく冷たい感情をぶつけます。

 

【七瀬 十矢】

石ころ階級でレジスタンスのリーダー。2年生。

見た目があんまり好みじゃなかったんですが、ネリとラブラブになった後のバカップルぶりは可愛かったです。

父親が政治家という設定で、これは真相ルートでも本当でした。十矢も聴衆の心を掴むのが上手く、天性の活動家という感じです。頭が良く真理を見抜くセンスを持っているので、彼のルートはとても示唆に富んでいました。

十矢は中等部時代は薔薇階級であったものの、階級制度のバカバカしさに辟易して石ころに望んで落ちたような人です。後に明らかになりますが、薬漬けにされて洗脳されている中でよくこのような心持ちでいられたなぁと感心します。

彼を攻略中の薔薇ルートで、ネリが薔薇階級の友人・三宮摩耶子に買い物に誘われ、薔薇階級の特権の手ほどきを受ける場面が特に印象的でした。

学園敷地内のアーケードは、カフェの席やブティックに至るまで、薔薇階級は優遇されています。お店の中には薔薇階級のみが買い物できるショップがあるのですが、そこで買い物を楽しんだ後の会話です。

三宮摩耶子「でも、もしあのお店の品物が誰にでも自由に買えたら、どうかしら。それでも、あなたは同じくらい楽しめた?」

藤枝ネリ「それは・・・・・・こんなに嬉しくは感じないかも・・・・・・」

三宮摩耶子「そうでしょう。それこそが特権階級の楽しみだわ。でも、こんなのはまだ数ある特権のうちのほんの一部よ」

(中略)

三宮摩耶子「私たち薔薇は選ばれた生徒なの。だから薔薇専用のお店で買い物ができるし、こうして見晴らしのいい席に座れる」

三宮さんが、革張りのメニューを私に開いて見せる。

三宮摩耶子「このメニューだって、薔薇専用。このお店で一番美味しいケーキは、薔薇しか食べることができないの」

三宮摩耶子「一度薔薇階級に入ったら、もう他の階級になんて慣れないわ」

藤枝ネリ(確かにそうなのかもしれない・・・・・・)

三宮さんに煽られて薔薇の特権意識に目覚め始めるネリですが、石ころでレジスタンスの十矢を好きな気持ちも強固で、その認知的不協和を解消するために、十矢にも薔薇階級に上がるように働きかけます。ここの十矢の鋭い指摘も好きです。

藤枝ネリ「制服だって可愛いし・・・・・・。お店だって薔薇階級専用のメニューがあるんだよ。それに世話係だって作れるし・・・・・・」

七瀬十矢「くだらねえ」

吐き捨てるように十矢くんが言った。

七瀬十矢「中等部の頃、薔薇だったから知ってる。あそこは選民意識を持ったしょうもない人間の集まりだってこともな」 

選民意識。これって本当に怖いなと思いました。実際、どのキャラクターのルートでも、薔薇に上がって選民意識に染まっていくネリを見ていると、ネリがネリでなくなるような、自我の喪失というか、ある種の洗脳を感じます。実際のところミツバチ階級も石ころ階級も洗脳されていることに変わりはないのですが、石ころに落ちた後はわりかし平常心に見えるのに、薔薇に上がった後だと何かに急き立てられているような焦燥を感じるのです。

また、薔薇階級に染まりつつも十矢を愛し続けるネリと、そんなネリに恋い焦がれる十矢の歪な愛もゾクゾクしてよかったです。ネリが薔薇階級だけのダンスパーティーでよその男に誘われた話などをして、嫉妬心をあらわにし激昂する十矢への捻れた愛情が、ほんと、暗くて最高です。

涙で彼の顔が滲んでいく。十矢くんが怖い。だけど心の奥底では、もうひとつの感情が首をもたげる。激しい怒りは、そのまま私への気持ちの裏返しだ。罵りに怯えながらも、一方で暗い喜びが心の底を満たした。 

「暗い喜び」という表現が秀逸だと思います。相手がヤキモチを妬いてくれるときの、あの不思議な胸の高鳴りはまさしく「暗い喜び」以外の何者でもないと思いました。シナリオの言葉のセンスに舌を巻きました。

そしてついには関係がこじれる2人ですが、ネリは十矢が好きすぎて、とにかく十矢に強い気持ちを向けてほしくて、薔薇の特権を使って石ころに酷い仕打ち(靴を舐めさせるなど)を繰り返し、その度に怒ってやってくる十矢に色めきます。

心の中で私は彼に答え、呼びかける。

藤枝ネリ(だからもっともっと、私を憎んで)

藤枝ネリ(憎んでもいいから、私を見てーー)

その為だったら、何人石ころが泣いたって構わない。これが薔薇である私の、十矢くんへの愛の形。 

薔薇の選民意識をさらにここまでこじらせ変貌を遂げたネリの、暗くおどろおどろしい情愛が素敵です。

 

【五十嵐 ハル】

石ころ階級の1年生。絵がとても上手で、諦念気味のツンデレくんです。

父が画家という設定で、これは真相ルートでも同じです。真相ルートの最後、彼の本当の父親の遺作に出会い、これまでずっと父に憎まれていると思い込んでいた彼が、父の愛情を目の当たりにしたときのCV.石川界人さんの演技が素晴らしく、泣いてしまいました。これは物語への感動というよりは、石川さんの演技の巧みさに完全に引っ張られた涙で、思わず「すごい」と呟きました。この芝居は必聴です。

 

【鷺ノ宮 レイ】

薔薇階級の中でも「白薔薇様」と呼ばれ、陸と並んで学園のトップオブトップである3年生。

レイの薔薇ルートを最初にプレイしたのですが、ネリの自分を見失っていく過程がすごく怖かったです。

いきなり薔薇階級に上がったネリはそれまで下層地区にいたのでなかなか授業についていけないんですね。

そんな中レイと恋仲になって周囲の公認カップルになるんですが、何をやっても完璧なレイと自分の不釣り合いに悩み始めます。

それを見抜いた薔薇階級の同級生・三宮摩耶子さんが、ネリにテストのカンニングを唆したり、学友に嘘をついて上流階級の出生ストーリーを語らせたりするんです。

この・・・レイに釣り合う自分になりたいという気持ちから生まれる嘘にまみれたネリが、不憫で遣る瀬無くて胸が引き裂かれそうでした。この時の三宮さんの怖さは凄まじいです。

話は変わってレイについて。

どの生徒にも平等に優しい平和主義でありつつも、階級制度は重んじる保守主義でもある彼は、物語の真相を一番担っているキーパーソンでもありました。

櫂宮学園の不思議ーー多くの生徒が見る「もう一人の自分が出てくる悪夢」、「ダイエットで食事を抜いた生徒の錯乱」、「生徒は皆子どもの頃の記憶が曖昧」などなど、多くの謎が一つの真実に収束していきます。

真実にたどり着く上で、レイの体に潜む別の人格”ショウ”の働きは大きいです。ショウはレイが抱えきれなかった陰惨な記憶を全て保持しています。

 

櫂宮学園は、本当は良家子女のエリート学校ではありません。

生徒たちは元はリングエリアの貧民街にいた孤児たちで、学園長・鏑木蒼一郎の記憶改竄・洗脳といった非人道的な人体実験に利用されていたのです。

貧民街で生きるために盗みを繰り返していた陸(6番)、政治家の愛人の子供で父の失墜から両親を失った七瀬十矢(70番)、母を水難事故で失い画家の父もアルコール中毒で死んでしまった五十嵐ハル(50番)、ネグレクトにあい為すすべなく妹を失った壱波(18番)、そして鏑木の息子であり一番最初に被験者となったレイ(0番)。彼らの名前は被験者番号から来ていたんですね。

櫂宮学園プロジェクトは、投薬や心理実験による人工天才育成のための、鏑木グループによる巨大実験施設だったのです。

 

ネリは本当は鏑木の同窓生で天才的な研究者・高千穂宗介とその妻・アリカの双子の娘の片割れでした。ネリの両親は鏑木のサイコパスな欲望のために殺され、双子の姉のマリアは鏑木に引き取られ櫂宮学園の女王となり、ネリはスペアとして鏑木の部下・藤枝司に引き取られていたのでした。

鏑木はネリたちの母・アリカが好きだったんですね。でもどうしてもアリカを手に入れられなくて、彼女に生き写しの娘(マリア、ネリ)を自分の理想の花嫁にするために、櫂宮学園プロジェクトを利用していたのです。

ネリは藤枝氏に引き取られる前に陸たちと同じ施設で一緒に遊んでいたことがあり、それぞれに特別な思い出を作っていました。

ネリが櫂宮学園に呼ばれたのは、マリアが鏑木の理想通りに育たなかったので、スペアのネリを花嫁にするためなのでした。鏑木イかれてるなぁ。

でも、洗脳された挙句捨てられたマリアは、それでも鏑木を愛していて、真相ルートの最後はマリアが鏑木を撃ち殺し、彼に口付けて「私幸せよ」って言うんです。この時のマリアが美しくて好きです。

刷り込まれた愛情も抱き続ければ本物になるのでしょうか。座裏屋蘭丸『VOID』をちょっと思い出します。 

 

***

 

終盤、鏑木がプロジェクトの終了を決め、生徒たちに行っていた投薬を打切り、生徒たちは離脱症状に苦しみながら自分の真の記憶を取り戻すのですが、その時にハルが「俺たちは、幻を生きてた」って言うんです。それが切なくて詩的で心に響きました。

刷り込まれた人生、刷り込まれた記憶によるハリボテの生活が”幻”だと思えたのは、彼らが刷り込まれた記憶は、彼らが望んだ人生だったからです。

陸はお金持ちの特権階級になりたかった、壱波は妹に生きていてほしかった、十矢は父に正義の政治家で強い男でいてほしかった、ハルは両親に愛されたかった、レイは何でもできる完璧な男になりたかったーーー

鏑木の非道な実験は、奇しくも彼らの望みを叶えたのです。夢を見せてあげたと言ってました。

夢は醒めたから夢なのであって、もし鏑木が実験を続けて彼らがずっと薬漬けで幸せな夢を見続けていたら、もしかしたら真実を知るより幸福なのかも・・・とも思ってしまう自分がいます。

でも、私ももし学園の謎に突き当たったら、やっぱり真相を暴こうとしちゃうのかなぁ。夢から醒めちゃうとしても。

自分にとっての一番の幸せは

  • 物事の真相を知ること(真相ルート)
  • 築き上げたアイデンティティを守ること(石ころルート)
  • 手に入れた地位と生活を守ること(薔薇ルート)

どれなのか、はっきり決められない自分がいます。

10代の頃なら絶対真実を知りたいって即答できたんですけどね。28歳になった今では、真実にそこまでの価値を見出せない。そもそも、何をもって真実とするのか、論拠を組み立てるのがとても難しいことをこの10年くらいで痛いくらい学んだのです。

 

***

 

ああ〜、ゲームプレイ後もまだ世界観に浸っていたいです。本当に素晴らしい作品です。

ここのところオープニングテーマをよく聴いています。これも大好き。


PS Vita『絶対階級学園』オープニングムービー

私がプレイしたのはPS Vita版ですが、元はPCゲームのようです。

絶対階級学園~Eden with roses and phantasm~ 初回限定版

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ゲームってPC版の方がいろんな要素が歯に衣着せぬ感じで本当は好きなんですけど、Macに対応してないことが多いんですよねぇ。エロゲーとかも。

ゲーム用にWindowsPCを買おう買おうと思いつつ数年経っています・・・おわり。

自分に嘘をつく苦しさ:『君が望む永遠』

先日とあるネットラジオで声優の小野友樹さんが、ご自身が声優を志すまでのお話をしていて、「『君が望む永遠』というアニメを観てアニメの面白さを知り、主演の谷山紀章さんに憧れた」というエピソードを聴きました。

気になって早速『君が望む永遠』を視聴。平成のアニメにはまだまだ知らない良作があるものだと感慨深くなりました。

君が望む永遠 Blu-ray BOX

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原作は恋愛アドベンチャーゲームだそうです。

 

最初の2話くらいは、よくある青春物語のような明るい雰囲気です。

主人公の鳴海孝之は高校3年のある日、彼に長年片思いしていたというおとなしい同級生の少女・涼宮遥から告白されます。

孝之と遥には速瀬水月という共通の友人がいて、彼女の手助けもあって孝之と遥は付き合うことになります。

 

この水月が・・・彼女は本当は自分も孝之が好きなのに、親友の恋を応援してしまい、自分は失恋するんです。水月は自分の気持ちを見ないふりして自分に嘘をつき、孝之たちを盛り立てます。

でも、本当は孝之のことがすごく好きなので、ちょくちょく孝之にモーションをかけるんです。これが最初本当にあざとくて、見ていてイラッとしてしまいました。

だって、毎回孝之が遥との待ち合わせに行く途中に現れるんですよ。それで悩みを相談したり、自分の誕生日だと言ってプレゼントをねだったり(しかもよりにもよって指輪!)厚かましささえ感じました。それにいちいち付き合ってしまう孝之の能天気さにもやきもきしました。彼女ではない女に指輪を買うな、孝之!

 

しかし、悲劇と物語の本当の始まりはここからです。

まさに誕生日プレゼントとして(ねだられて渋々ではあるものの)指輪を水月に買ってあげたあと、少し待ち合わせ時間に遅れて駅前に着いた孝之は遥を探します。

すると何やら人だかりが・・・胸騒ぎがして近づくと、そこは事故現場でした。

現場は血まみれ、そして遥がいつもつけていたリボンがボロボロのまま落ちていました。

孝之が水月のわがままに付き合って指輪を買っている最中、孝之を待っていた遥は車に突っ込まれ重傷を負ったのです。

そしてそれから3年間、遥は意識不明のまま眠り続けますーーー。

 

この、遥の事故からのドラマティックさは「おおっ」と感嘆しました。

次の回は事故から3年後の孝之たちが描かれます。

孝之はフリーター、水月は会社員、彼らのもう一人の共通の友人・平慎二は大学2年生。皆成人しています。

孝之は遥と同じ大学を目指して勉強していたのに、遥の事故から引きこもりになってしまったせいで進学を諦めました。

水月は水泳部で将来の活躍を有望視されていたのに、遥の事故をきっかけに以前のように泳げなくなり水泳を辞め、就職の道へ。

 

再起不能に見えるほど荒れた孝之を愛の力で立ち直らせた水月は確かにすごかったです。水月の孝之に対する献身を見たあとだと、彼女にも同情できます。

その一方で、孝之を「お兄ちゃん」と慕っていた遥の妹・茜の憤りもよく理解できました。孝之と遥の恋を心から応援していた茜。茜は水泳部でもあり、水月のことも尊敬する先輩として慕っていました。

そんな大好きだった孝之と水月が、姉が事故により昏睡する最中、姉を裏切り恋仲になったのです。「卑怯だ」と怒鳴りたくなる気持ちもわかります。

 

指輪の一件もあり、孝之も水月も遥の事故に責任を感じています。

もしあの時、水月が孝之にちょっかいを出さずに、孝之が時間通りに待ち合わせに行っていたらーーー

でも、本当はそんなのは偶然です。遥が事故にあって本当に責任を負うべきは車で突っ込んできたドライバーです。それでも、孝之たちは自分たちを責めずにはいられない。

それって、後ろめたさがあったからだと思うんです。孝之は遥をちゃんと好きだったと思うけれど、心の奥底には水月を好きな気持ちも眠っていた。だから後ろめたいんです。

 

それでも前を向いて、それぞれ仕事ですれ違いがちだった孝之と水月は同棲を考え始めました。引っ越し先を探そうとしていた矢先、茜から孝之に連絡が入ります。

それは、遥が3年越しに目を覚ましたというものでした。

 

ここからさらに歯車が狂い始めます。3年ぶりに目覚めた遥はまだ脳機能に少し障害が残っており、3年前のまま時間が止まっていました。

遥にショックを与えないよう周囲の人間も3年前のように振る舞うことが要求され、茜は3年前の中学の制服に身を包み、孝之も受験生のふりをして振る舞います。

遥は大好きな孝之に会えたことでみるみる回復していきます。一方で水月は、孝之の気持ちが遥に再び傾いてしまうのではないかという不安に襲われ、どんどん疑心暗鬼になり荒れていくーーー

 

***

 

冒頭で書いた小野友樹さんのラジオトークで「アニメってもっと”萌え〜”みたいな(明るく能天気な)ものばかりだと思っていたのに、こんなにドロドロの人間ドラマも描くのかと驚いた」みたいなお話があったのですが、すごく納得しました。

ほんと、昼ドラも顔負けのドロドロ群像劇でした。

絵柄は2000年代らしい古き良き日本アニメの絵そのもので、音楽やテーマ曲も爽やかで切なくてドラマチック。また、孝之の一人暮らしの家に固定電話があったり、携帯電話も折りたたみの分厚いやつだったり、「ああ、平成序盤だなぁ」と懐かしくなるギミックもたくさんあります。テレビも四角くて大きいブラウン管でした。

でも、描かれる人間ドラマは時代を超えて心を打ちます。愛情と猜疑心、過去への羨望と喪失感、裏切りによる悲しみや憤りは、現代を生きる私たちと何も変わりません。

 

作品を見ながら「自分だったら孝之を許せるか?」「水月を許せるか?」「遥のずるさを許せるか?」とそれぞれの登場人物の気持ちに立って考え込んでしまいました。

でも、他人を許す気持ちも大事ですが、自分を許すこと・自分の気持ちに正直になることがまずは一番大事な気がしました。

悲劇のきっかけは、本当は遥の事故よりずっとずっと前。水月が自分の気持ちをしまって遥の恋を応援してしまったとこからだと思いました。

水月が自分の恋を隠さず、正面から遥と対峙していたら。また、孝之も遥から告白された時によぎった水月の顔を看過せずにもう一度立ち止まって考えを巡らせていれば。

所詮は”たら・れば”ですが、そういうちょっとした自己欺瞞が、折り重なってここまで拗れたんだなぁと感じました。

 

***

 

この作品はシリアスな内容ではあるものの、テンポの良い笑いの要素もきちんと入っていて素晴らしいです。

特に私は孝之のバイト先の同僚・大空寺あゆちゃんが好きです。金髪ツインテールで口がものすごく悪いけど実はいいとこのお嬢様っぽい彼女がめちゃくちゃな接客をしたり孝之に突っかかって「お前なんか、猫のうんこ踏め〜!」と叫ぶたび笑えました。こういうコメディ要素って、本当に大事だと思います。ありがとう大空寺。

 

最近、地上波でも数々の平成を代表するバラエティ番組が放送終了となったりして、一つの時代の終焉をひしひしと感じるようになりました。

この『君が望む永遠』が放映されたのは2003年だそうです。平成14年、私は中学2年生でした。

この頃典型的中だるみで学校もサボりがちで、家でインターネットに明け暮れてた日々を懐かしく思い出しました。

藍より青し』とか『WOLF'S RAIN』とか、夜中にこっそり起きてテレビのボリューム絞って観てたなぁ。ビデオ(!)も録画したりしてました。

私のオタクの原体験って、この頃だったのかもしれません。

そんな感じで最近”平成センチメンタル”におちいる方に特におすすめします。おわり。

他人のQから自己を省みる:『40+1』

私はアニメもゲームも大好きで、演じている声優さんもとても尊敬していますが、声優さんの書いた本を手にしたのは安元洋貴『40+1』が初めてでした。

安元洋貴 1stフォトブック 40+1 【スペシャルトークCD付き】

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私が観てきたアニメの中で印象に残っている安元さんの役は『黒執事』のアグニ、『美男高校地球防衛部』シリーズのズンダー、『十二大戦』のドゥデキャプルなどなど。

低めの声が印象的な方ですが、私が今回安元さんの本を手にした理由は、ラジオ番組で話す安元さんがめちゃめちゃ面白かったからです。

 

radikoのタイムフリー機能でいろんな番組を試し聴きしていたある日、『安元洋貴・江口拓也のミクチャラジオ』に出会いました。これがめちゃめちゃ面白かった。先月で放送終了してしまったのですが、「深夜ラジオってこんなに面白いんだな」というのをまざまざと突きつけられた傑作箱番組でした。

 

そこで知った安元さんのただならぬ知識量と返しの巧みさにすっかり魅了され、それ以来安元さんの喋るラジオ番組は逐次チェックしています。

 

そんな傑出したラジオマンの安元さんが初めて出す本ということで、アニメイトで予約購入してみました。(イベント抽選は外れましたが・・・)

本を最初に開いたときは、正直グラビアにちょっとびっくりしましたが、そのあとに載っている立木文彦さんや遊佐浩二さんや細谷佳正さんとの対談ページやロングインタビュー、一問一答にカレーのレシピ集など、読み物としてとてもいい本でした。

 

いろんな有名人がこうして自己を振り返る書籍を出版していますが、読むたびに自分を省みるというか、他人のQを通して自分にQを投げかけるようにしています。

なかなか市井の一般人であるとインタビューされることや質問されることってないと思うんですが、いざ自分に問いかけると、案外すぐ答えられないことが多いんですよね。つまり、自分で自分のことがあまりわかっていない。そのことにはたと気がつくのです。

 

『40+1』で一番印象に残ったのは、ロングインタビューのところの、安元さんが養成所から事務所入所を経てだんだん大きい仕事を手にしていく過程の部分です。

念願のレギュラーのナレーション仕事を獲得した後、番組スタッフさんや先輩声優さんなど、周りの人々との何気無い交流を重ねて仕事がどんどん広がっていったという話からでた格言「人見知りは時間の無駄」。これには目から鱗でした。

確かに、人見知りで得することがあるのかといえばない気がします。

私は大学生の頃くらいから他人と話すのが億劫になり始めた後天性人見知りでしたが、社会人になったらとても人見知りなんてしていたらやっていけないことばかりで、結局他人とコミュニケーションしていかないと仕事はまわらない、お金は稼げないということが身にしみてわかるようになったんですね。なので凄くふに落ちました。

なかでも、声優さんのようなタレント業は一般的な会社員と違って歩合制だと思うので、なおさら人間関係の広さや深さが収入に直結するでしょう。

営業職で他人と話すことにほとほと疲れ、引きこもりがちになっている今日ですが、人見知りはしないようにしようと決意を新たにしたのでした。

 

それにしても、お写真を見ながら「誰かにすごく似てるんだよな〜」とずっと悶々としていたのですが、最近思い出しました。

安元さん、大学時代の哲学の先生に似てます。目の感じとか、ムチっとした体格とか。低くていい声してるところも似ています。(どうでもいい情報)

 

これからも安元洋貴さんのご活躍に要注目です。おわり。

嫉妬と独占欲と三国志:『十三支演義 偃月三国伝1・2』

中学3年生の頃好きだった男の子は読書が好きなバスケ部のキャプテンで、彼が三国志を読んでいるのは気づいていましたが、「じゃあ私も読もう」とは思えませんでした。それくらい歴史(日本史も世界史も)が苦手だったのです。

でも!乙女ゲームに落とし込んだものなら興味が湧くというものです!

シナリオの良質さが評判で前々から気になっていた『十三支演義 偃月三国伝』。

PS Vita版は大ボリュームで遊びごたえも満点、イラストも音楽も全てがハイレベルの良作乙女ゲームでした。

 

タイトルの"十三支"は"じゅうざ"と読み、干支の13番目、つまり猫を指します。高屋奈月フルーツバスケット』を思い出しますね。

物語世界は三国志をモチーフにしており、全体の大まかな流れは史実を崩していませんが、この"十三支"もとい"猫族(まおぞく)"という概念を織り込むことで、より深みを出したストーリー展開となっています。

 

あらすじは以下。

時は後漢末。

乱世の奸雄曹操により、隠れ里から連れ出された『猫族』(まおぞく)。 人間の体に獣の耳を持つ彼らは、猫の姿の妖怪『金眼』(きんめ)の 子孫と言われ人間たちから忌み嫌われていた。 人間たちは猫が十二支から外れたという昔話から 十三番目の干支、『十三支』(じゅうざ)と呼び彼らを蔑んだ。

十三支演義

猫族である関羽劉備張飛の三人は幼い頃から兄弟のように育ち、 固い絆で結ばれていたが、平穏な日々は突然終わりを告げる。 漢帝国より勅命を受けた討伐軍の曹操は、 逃げた黄巾族を追って猫族の隠れ里に迷い込んだのだった。 猫族の高い能力に目をつけた曹操の策略により、平和に暮らしていた 猫族たちは人間たちの戦いに巻き込まれていく。

十三支演義2

猫族の長・劉備は、人間たちの戦いに巻き込まれたことで、 身に宿る金眼の呪いを増幅させてしまう。 邪へと堕ちた劉備だったが、関羽をはじめとする猫族の絆の力により 純粋であった子供の劉備を取り戻し、官渡の戦いは幕を閉じる。 それから半年。曹操の計らいにより、人間と共に暮らしていた猫族。 しかし、曹操不在を機に人間たちの不信感が暴力となって猫族を襲う。 再び村を追われる身となった関羽たちは安寧の地を目指す。 

公式サイトより)

主人公は猫族の少女でありながら天性の武を持つ女武将・関羽ちゃん。

猫耳の可愛い可憐な少女ですが、戦場ではずば抜けて強く、さらにお人好しとも言えるほど心優しい主人公です。三国志にお詳しい方からすると関羽が女性ということに驚かれるかもしれませんが、さらに驚くことに呂布も女性です。

関羽は母親が猫族、父親が人間という混血で、そのため他の猫族と違って瞳の色が黒いです。このことが物語に大きく影響します。

 

攻略順にキャラクターの感想を書きます。

 

曹操

各所から桁違いのヤンデレだと聞いていたのですが、本当にクレイジーで、かつ愛すべきキャラクターでした。

武にも才にも野心にも秀でた乱世の奸雄ですが、実は母親が猫族で父親がろくでなしの人間の混血児でした。

本来猫族と人間の間には子供は生まれないと言われており、母からも父からも愛されず育った孤独な曹操少年は猫族も人間も心の底では信用していません。

世界に一人しかいない混血の自分こそ真に秀でた存在であり、それをこれまで自分や母を虐げてきた父親に見せつけるという一種の復讐心のために大陸制覇を目論んでいます。そのために自ら猫耳を切り落としまでした男、それが曹操です。

そんな曹操が見つけたもう一人の混血・関羽ちゃん。敵兵ながらその武は認めていたものの、まさか自分と同じ、この世で2人だけの混血。曹操は目の色を変え、関羽ちゃんを自分のものにしようとします。

この曹操の執着っぷりが凄まじくて笑えます。でも、最初は混血というその血にのみ執着しているようで萌えはしないのですが、関羽ちゃんと触れ合うことで彼女の心に引かれ、最終的には混血であるなしにかかわらず関羽ちゃんが愛しいという流れになります。

関羽ちゃんが関わるとそのクレイジーさを発揮する危ない奴ですが、戦に関しては手を抜かず策を張り巡らし部下も思いやるなかなかいい武将だとおもいます。

曹操の台詞で特に好きなのは、猫族の戦闘能力に惹かれ自軍に取り込もうとした際反対した夏侯惇に放った一言。

「使えるものはなんでも使う。

それが十三支だろうが女だろうがな。

私の軍では結果が全てだ」

 

張遼

呂布の臣下で、口調や身振りがどこか人間とずれている人です。

その正体は仙女である呂布が作り出した土人形でした。

土人形なだけあって、ハッピーエンドもバッドエンドも人知を超えた展開で、私は今ひとつ萌えませんでした。でも料理も掃除洗濯も裁縫もなんでもできるというのはいいですね。家に一人欲しいタイプです。

張遼の台詞で好きなのがこちら。

「人はいずれ死ぬ。それが多少早まろうと、関係ないのでは?」

 

趙雲

まず、見た目が一番タイプです。強くて気さくで自然に相手のことを褒める"天然人たらし"な彼が、関羽ちゃんを好きになってからは嫉妬心や独占心をうまく抑えきれずやきもきする様子がもう、萌そのものです。趙雲ルートは1も2もなかなか辛いストーリー展開がありました。1では趙雲の主君・公孫瓚様がまさかの関羽ちゃんの父親であることが発覚し、公孫瓚様の死に際のシーンでは泣きました。

2では長坂で子供が殺されるシーンが辛かったです。そのあと子供たちを救えなかったショックで関羽ちゃんが病んでしまうのもすごく悲しくて、それを必死に支える趙雲の男ぶりに惚れない人はいないでしょう。

文句なしのナンバーワン・ガイです。

 

張飛

関羽ちゃん好き好き年下ワンコタイプです。猫族ですが年下ワンコ。

健気でちょっと不憫で可愛い弟分という感じ。張飛をからかう同じ猫族の仲間・張蘇双と関定という少年たちも面白いです。

 

夏侯惇

曹操の臣下。

最初は見た目がなんとなく小物っぽくて、攻略対象だと思ってませんでした。

ところが!この夏侯惇が実は超絶可愛いツンデレ君でした。かなり萌えました。

猫族もキライ、女もキライで関羽ちゃんにキツく当たっていた彼が、不本意ながらも戦場で関羽ちゃんと組むうちにほだされる様子はたまりません。

また、左目を失い眼帯をすると、一気に男前なルックスになります。これには驚きました。眼帯マジック。

夏侯惇ルートだと急に曹操が理解のある父親みたいになるのも笑えます。

 

劉備

猫族の長で銀髪の少年。

あまりに幼い見た目と喋り方でパッと見そういう対象ではないように見えますが、そこはCV.石田彰、絶対後から大きくなってかっこ良くなると確信しながらプレイしていました。

そしてやっぱり!呪いの力を解放して年相応の見た目に変身した劉備は色男でした。関羽ちゃんに迫る小悪魔で妖艶な感じの劉備は最高でした。ありがとうございます。

劉備関羽ちゃんに対する独占欲は曹操をも凌ぐレベルだと思います。

 

諸葛亮

十三支演義2の方で出てきます。変な団扇を持っている天才軍師。

諸葛亮もなかなかのツンデレですが、呉と同盟を組むときの大演説はとてもかっこよかったです。頭が良くて弁が立つ男性って素敵ですね。

劉備のお人好しの前に自分の意見が通らなかったときに関羽ちゃんを睨んで八つ当たりするところが可愛かったです。

ラブラブになってからは、趙雲と同じく関羽ちゃんに跡をつけたがるめんどくさいタイプというところも萌えポイントですね。

 

周瑜

呉の君主・孫権の臣下で荊州でたった一人の猫族の青年。

ダメな大人の雰囲気が漂う優男ですが、好きな女のためならなんだってする感じの気概はひしひしと感じました。

 

改めて振り返ると、どのキャラクターも嫉妬心や独占欲が強い男ばかりで、戦場で活躍する男性というのはそういうものなのかなぁと思いました。

昔営業でも「仕事のできる男は性欲が強い」とか言ってた同僚がいました。ホントかどうか定かではありませんが。

逆に、欲が強いから戦や争いを起こす・もしくは好むのかもしれません。

周瑜も「昔から男が戦を起こす理由なんて 国か、女なんだ」と言っていました。

 

このゲームをプレイした後だと、Wikipedia三国志の武将の解説もそこそこ興味深く読むことができます。

三国志の本当に大まかなざっくりした流れもつかめます。

歴史もいわば人間ドラマなので、こういう風にメロドラマ調にして楽しいアドベンチャーゲームにしてもらえれば楽しく学ぶことができるんですね。

改めて歴史の一つをこうした素晴らしい乙女ゲームに昇華させた制作陣に心から感謝と敬意を表します。ああ楽しかった。おわり。

国際感覚ってこういうこと:『50mm』

面白い雑誌が出ました。

高城剛氏が世界中を飛び回って風景や人をカメラで切り取り、国際社会の"今"と"これから"について書いた大判の雑誌です。

出版不況と呼ばれる昨今、「雑誌が売れないのは読者よりも広告主・企業に寄った内容でつまらないから」と断言する高城氏にとても共感し、本書を街の書店に買いに行きました。

 

前の職場がマスメディア企業だったので、この傾向がすごくわかるんですよね。

特に民放のテレビやラジオは視聴者から受信料をとっていないので、売上はスポンサーからか、公開収録やフェス等のイベント収益に限られます。自社の媒体価値は視聴者の質と量に担保されているのに、どうしても売上至上主義で視聴者よりもスポンサー企業の喜ぶものを作ろうとする傾向があります。(特に営業)

SNSやWEBメディアが民放より面白いと思うのは、制作している当人が自分で見て自分で書いて自分で編集して自分で発信している個人の経験に基づくコンテンツだから。個人の"リアル"がオンラインに溢れているのに、ご都合主義の広告コンテンツばかり放送していれば、受け手が民放にシラけて視聴を辞めるのも当たり前です。

雑誌もきっと似たような構図なのでしょう。

 

この雑誌では欧米の大麻ビジネスの最前線や、難民問題その他で揺れるヨーロッパの国々、宗教と資本主義に揉まれるアフリカの国など、世界中の様々なトピックが取り上げられています。

 

私が特に興味を持ったのは皆既日食とそれにまつわるフェスの話です。

現在は日本国内も春先から夏の終わりにかけて、全国的に音楽フェスが盛んですが、正直どこも似たようなラインナップ・似たようなグッズ展開・似たような会場レイアウトとフード出店で、なんだかつまらないなと思いませんか?

自分も以前フェスの運営側で働いていたのですが、毎年会社の売上の大部分を占めるフェスイベントは、集客を上げるため旬のアーティストを呼べるかどうかが一番の鍵で、当然"旬"な彼らはギャランティーが高額なので、チケットは即完売となり売上は上がるものの経費も相当かかり、結果薄利で運営的にも疲弊するだけ。

おまけにせっかく人気バンドを呼べたとしても、翌日や翌週に近場で開催される別のフェスにも"旬"な彼らは出演するわけで、結局同じようなラインナップとなり、自社のフェスの独自性も強みもあったもんじゃないです。

こんな現状を高城氏は鋭く記述しています。

21世紀に入り、フェスは特別なものではなく常態化された「コンビニエンス」なパーティに変わり、ヘッドライナーのギャランティの高騰から、ナショナルスポンサーが絶対的存在となる。資本主義下の巨大な集金装置となってしまった。それゆえ、毎年同じ場所で開催され、年々形骸化の道を歩み始めている。端的に言えば、もうフェスはつまらない。 

ところが、皆既日食はその天文学的確立の低さゆえに、とても「コンビニエンス」とは言えない辺鄙な場所で、何万人もが一堂に会し空を見上げ、そこで大きな祭りが開催される。しかも気の利いたショップもなければ全裸の人ばかりという奇抜なフェスなのだそうです。いやぁ、知りませんでした。なんで全裸なんだろう。。

 

もう一つ衝撃的だったのは、イタリア・ボローニャの人々のインタビュー記事で目にしたリビアで差し止められている難民の現状についてです。

難民問題が欧州を中心にだいぶ前から騒がれているのはぼんやりと知っていましたが、自身からだいぶ距離があるせいで、そこまで深く知ろうとしていませんでした。「アウシュビッツ・オン・ザ・ビーチ」という言葉も初めて目にしました。(参考:auschwitz on the beach - Google 検索 )

日本だけでのほほんと暮らしていると、本当にこういう問題に疎くて、きっと28年の人生の中で触れずにきた社会問題は計り知れないだろうと思いました。

それで今まで困ったことはなかったけれど、この先も困らないとは言えないですよね。なんて言ったって、この十数年で世界は実に狭くなりましたから。

世界が狭くなるということは、隣の庭と自分の庭が混ざり合うようになるってこと。火事の起きている対岸と、此岸の間に可燃性の橋がいくつもかかるということです。

 

他にも世界中のいろんな問題について、50mmレンズのカメラで撮られた独特な写真とキレのある文章で書かれており、読みながら"国際感覚"の片鱗を見ることができる優れた雑誌だと思いました。

もちろん、本当の意味での国際感覚は、実際に自分の目で見て、その場の空気を感じて、現地の人と会話をすることによってしか磨かれないと思います。

引きこもりの人こそ一読の価値ありです。おわり。

 

***

 

Kindle版もありますが、一度ぜひ紙の雑誌を手にとって見てほしいと思います。

とにかく大きいです。

『明日クビになっても大丈夫!』

今月末で今の職場を退職することにしました。

それと直接関係あるわけではないんですが、先日Amazonでセールになっててなんとなく読んだのが、人気WEBライター・ヨッピーさんの著書『明日クビになっても大丈夫!』です。(私はクビになったわけではないです。)

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)

明日クビになっても大丈夫! (幻冬舎単行本)

 

ヨッピーさんのWEB記事は前から好きで、ヨッピーさんの話を聴いてみたくてGoogleのウェブマスターのセミナーに行ったり、高円寺小杉湯での銭湯オフ会に行ったりしていました。

この本も気になってはいたけれど、売り出してすぐは読んでませんでした。

 

私は、今の仕事(メディアの営業職)は「すごく嫌なわけではないけどずーっと続けるのは無理だな」と入社した頃からぼんやり考えていました。

それでも入社1年目の頃は目新しくて楽しくて、好きな先輩社員とかもいて結構いい感じだと思っていました。

雲行きが怪しくなってきたのは社内の部署編成が改変された2年目からで、新しい直属の上司が苦手だったり自社のコンテンツがつまらなくなったりして、ちょっとずつモチベーションが下がっていきました。

年末にある役員との面談で他部署への異動を打診するも聞き入れられず、それでも1年は待って昨年末あらためて異動を願い出るもやっぱりスルーで。

自分を採用してくれた時の役員もほとんど残っていないし(メディアによくある天下りシステムなので)、1年我慢してもダメなんだからもういいや、と1月に退職届を出しました。

 

引き継ぎの挨拶回りや有休消化をしながら、もう一度自分の考えを自分自身に問いただすようになりました。

私は何が嫌で今の会社を辞めるのか。私はどういうことがしたいのか。

本当の本音を言うと「労働が好きではない」の一言に尽きるのですが、入社したばかりの頃はそこそこ楽しく頑張っていたしなぁ、と、ちょっと悶々としていました。

 

そんな折に本書を読んで、めちゃめちゃ笑ったけど「わかる〜!」と共感したのが、【六本木の会員制バーには行くな】という見出しのくだりでした。

自分の実力や能力ではなく、運良く引っ掛けた輝かしい人脈(もどき)や功績(もどき)を高らかに振りかざしマウンティングする勘違い人間と飲まなければならない、不毛な酒場が”六本木の会員制バー”なのであると力説するヨッピーさんの事例紹介がラジオのハガキ職人並みに面白くて、さらにそのまとめの一文がとても腑に落ちました。

本音と建て前のうち、「建て前」で過ごしているとマジで色々と価値観の軸がズレていくような感覚に陥ってしまう。 

そして「だから、六本木で飲んではいけない。」とこのネタは締めくくられます。

 

これ、すっごく身に覚えありませんか?特に昔ながらの日本企業で働くサラリーマンの方。

私は外資系企業で働いたことはないので外資はよくわからないのですが、日本企業はそこそこ老舗のメーカーや零細企業や今いるマスメディア企業など、複数社で働いた経験があり、

その経験から言うと(昔ながらの)日本企業では建て前で過ごさないとかなり摩擦が起きると思います。

というか「ほぼ建て前でみんな働いてるんじゃないかな?」と思えるレベルです。私が今まで働いてた企業の多くはそうでした。バイト先も含め。

思い返すと、老舗のメーカーが案外一番先鋭的で、私も若くて元気だったので本音をガンガン言っていました。周囲の大人も優しかったのでわりとうまく回っていたかもしれません。

でも次に入った新しい零細企業でそれまでのように本音を言うと「大人なのにどうしてそうホントのこと言っちゃうんだ!」と激しいバッシングを受け、優しい女性先輩社員が”日本企業での建て前処世術”を丁寧に根気強く手ほどきしてくれました。

「変なのー」とは思いつつもそういうのが世の大人なのかととりあえず清濁合わせのみ、彼女の教えは今の職場でも大いに役に立ったのであります。

ちなみに、ここでいう本音とはどういうものかというと

  • 「車って維持費かかるし高いし一人暮らしとかそこそこの都会ならカーシェアとかで事足りますよね」とか
  • 「私は別に結婚したくないし子どもも産みたくないです」とか
  • 「昼寝ばっかりの天下りの役員切ればかなり経費削減できますよね」とか
  • 「社長、貴方が社員のカバン蹴っ飛ばして怒鳴り散らすとかおかしくないですか?それパワハラじゃないですか?」とか

そういうものです。

そこまで変なこと言ってるとは思わないんですけど、こういうこと言うと角が立つんですねぇ。

車いらないとか言うと車メーカーのクライアントが〜とか、子ども産みたくないとか言うと少子化対策に躍起になっている自治体クライアントが〜とか、まあ理由はいろいろあるのかもしれません。

 

前の職場で「お前は車も家もいらないというけど、車を作る会社やハウスメーカーからうちはお金をもらって食べていけてるんだ。だからお前は”車欲しい””家建ててみたい”って嘘でもいいから言わなければいけないんだ」と説教されたことがあります。

そういうもんかなぁとも思いましたが、結局車はやっぱり欲しくないし、家建てたいとも微塵も思わないんですよね。

結婚式場や自治体のクライアントともたくさん仕事しましたが、やっぱり結婚はしたくないし子どもを産む気も起きないです。

 

前述した今の職場の苦手な直属の上司も、話が全然面白くないですがリアクションを薄くすると厄介かもしれない系なので「へぇ〜知らなかったです」とか「すご〜い」とかとりあえず関心している風の相槌を返すようにしていました。

私は褒められたがり人間を察知する能力が結構あり、持ち上げられると喜ぶ人を目の前にするとついつい思ってもいない”褒め相槌”を炸裂してしまう悪い癖があります。

営業職に就いてからこの悪癖が加速してしまった気がします。まあ売り上げにつながるといえばつながるのですが、建て前で稼ぐとなんだか売春したような独特の疲労が訪れるのです。売春したことはないですが、岡崎京子さんが「すべての労働は売春である」と昔何かに書いていた記憶があり、まさにそうだなという感じです。

多分価値観がズレそうになる時のひずみ?みたいなもので疲れるんじゃないですかね。

 

そんなこんなで、「明日クビになっても大丈夫!」とはそこまで力強く思わないですが、共感できる記述が沢山ある良い本でした。

これからの未来は、多かれ少なかれ本音でやってけない仕事は無くなっていくんじゃないかと思うんですよね。AIとかロボットとかに置き換えられて。

だって、生身の人間の一番面白い部分に触れられるのはいつだって”本音”なんですから。おわり。